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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 加牟波理入道
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思い出の場所へ

 支部を後にした私と真奈香は、わき目もふらず駅に向かうと電車に乗り込み、隊長の彼女、斑鳩入鹿の眠る場所へと駆けた。

 正直、未だに信じられないけれど、隊長がいるとすれば、ここしかなかった。

 隊長にとって一番思い出深い場所。そして、敵がその存在を知らないと思われる場所。


 と言っても敵であるグレネーダーと出会ってたりはするけどさ。

 確かエペタムとかがここに来たりしたよね。

 それでも隊長がここに来てる可能性は高いはず。


 気持ちが焦る。

 もしかしたら、もう二度と逢えないんじゃないかって。

 敵対なんてしたくない。

 今まで随分とお世話になった人なのだ。


 駅を出ると、真奈香が全力で駆けだす。

 しかし、少し進んだところで思いだした様に立ち止まり私を待つ。

 さすがに真奈香の全力疾走には付いていけない。


「いいよ真奈ちゃん、先行ってッ!」


 戸惑うようなそぶりを見せた真奈香。

 それでも、やっぱり確かめたかったんだろう。

 私よりも隊長に近づき始めた真奈香だからこそ、連絡もなく消えた隊長に直接問いただしたいはずだ。


「向う場所は一緒でしょ、向こうで待ってて!」


 私の気持ちを汲んでくれたようで、コクリと頷くと、全力で走りだす。

 私も少しでも追いつこうと力を入れて地面を蹴り付けた。

 ヒルコが運動苦手なので私の足を引っ張ろうとするけど気力でねじ伏せた。


 やがて見えた寺への登山道。

 物凄い数の階段が眼前に聳え立つ。

 まさに立ちはだかる壁のようなものだった。


 妖タワー60階層登り切ったおかげかこの程度の階段私にとっちゃ階段の内に入らない……ごめん。嘘。無理。呼吸乱れる。

 階段の量がハンパない。なんで神社とかお寺ってのは階段が多いんだ。

 長い階段を駆け上り、荒い息を吐きながら寺の前へと躍り出ると、まるで待っていたように尼さんが立っていた。


「あ、あのっ」


「お行きなさい、待っていますよ」


 それだけ言って、柔和な顔で微笑む尼さん。

 膝に手を付き息を整える私を、温かく見守っていた。

 ある程度落ち着くと、再び私は走り出す。

 墓場に辿りつくと、真奈香の前に一人の男が立っていた。

 彼は斑鳩入鹿の墓前に佇み、両手を合わせているようだ。


「やあ。やっぱりここに来たね有伽さん」


 やってきた私に気付き、真奈香と共に振り向いたのは……紅月止音だった。


「し、止音君!? なんでここに」


「静香からここは聞いていたからね。千里眼で見ていたよ。大変なことになってるみたいじゃないか」


「みたいね。ここに隊長居るかと思ったけど、来てないみたいだし。ホント、どうしたんだろ」


「見ようと思えばこちらで探せるけど、いいのかい?」


「いいって、どういうこと?」


「今はまだ見つかってないから安心だけど、白滝柳宮が見つかれば、抹消されるよ」


 言って、止音は墓場から私の元へと近寄ってくる。


「俺たちは、今回の騒動の全貌を知ってる。でもそれを有伽さんには知らせないよ」


「え?」


 驚く私の横を通り過ぎる瞬間、止音君が囁くように言った。

 耳元に直に当たる吐息が耳をくすぐる。

 おもわずアフゥとか声洩らしそうになったし。


「俺が望むのは有伽さんの安全だ。だから、今回、殿と愉快な仲間たちは静観する」


「ど、どういう……」


 言われた意味が分からず彼に振り返る私だったけど、止音君はそのまま帰って行ってしまった。

 というか、囁かないでよっ。ドキドキしちゃいますがな。

 何しに来たんだ全く。


 ため息一つ、私は真奈香の元へと向かった。

 未だ顔が熱い気がするけど気のせいだと思っとこう。

 アレは顔が良いだけの女の敵だ。惚れたら弱みに付け込まれるぞ私。


 真奈香は自分家の墓の横に膝を付き、祈りを捧げていた。

 そこには名もない墓石が一つ、隊長が弔った斑鳩入鹿の墓である。

 真奈香は果たして、どういう心境なのだろう?


「有伽ちゃん。入鹿さんの想い、私の中にあるんだよね?」


「出雲美果が言ったことを鵜呑みにすればね」


「だからかな……凄く、悲しい」


 呟く真奈香の頬に、滴が流れる。よく見れば肩が震えていた。

 真奈香にとって、いや、真奈香の中にあるらしい斑鳩入鹿にとって、隊長は最愛の人。

 それが反逆者として追われている。見つかれば抹消される。

 けど、自分は既に死んだ身で、何もすることが出来ない。


 自分の悲しみなのか、斑鳩入鹿の想いなのかすら理解できず、ただただ張り裂けそうな想いが真奈香に圧し掛かっている。

 せっかく近づき掛けてこれからだというときに、隊長、なんでこんなことを?

 彼女の想いが分かっても何もできない私は、ただ彼女の横でうなだれるしかなかった。


 せめて、と真奈香の頭を撫でておく。

 真奈香が耐えきれないというように私の胸に顔をうずめて来る

 隊長。どうか無事で……


「うへへ、有伽ちゃんの匂い充満……」


 訂正。この百合属性の女は悲しみよりも欲望が強いらしい。

 折角慰めようと思っていたのだけど私は真奈香を付き離して犯罪者に出会ったように目を合わせながら少しづつ遠ざかるのだった。

 あ、これって熊に出会った時に逃げる方法だっけ? まぁいいや。どの道危険生物であることに変わりないし。

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