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釣瓶火の叛逆・プロローグ
男は決意した。
もう、沈んではいられないと。
男は決意した。
やるべき時は今なのだと。
男は後悔した。
なぜ、こうなってしまったのかと。
男は後悔した。
女の手を取り共に逃げていたのなら、こんな結末にはならなかったのだと。
手には写真を握り締め、
自ら犯した過ちを悔やむ。
男は苛む。
立ち上がっていればよかったのだ。
男は悔む。
自分が逃げていたからだ。
男は慟哭する。
少女を不幸に追いやった。
男は怒る。
さらなる地獄に向かわせた。
男は憤る。
その償いはするべきだ。
そして男は立ち上がる。
たとえ、己の命を削るとしても、
男は決意した。
己が世界に弓引くことを。
安寧の日々を壊す勇気を。
できた居場所を捨てる決意を。
たとえ親しき者に敵対するのだとしても――




