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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 釣瓶火
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母は知らずに呼び込んだ

 食事はかなり楽しかった。

 翼といたときは会話ってものが存在しなかったけど、隊長といると、殆ど静まっているって時がなかった。


 これが歳の差というものか?

 話のきっかけは隊長からもたらされた友達にどんな人物がいるかというものだった。


 話を始めると、隊長は口数は少ないものの、聞き上手。

 私は普段友達と話している感覚で日常の出来事を話してたんだけど、知らない人や言葉がでてきても、いいタイミングで意味を聞いてきたり、スルーして、話を進めさせたり、とにかく間というものを入れないように、私の話が一区切りするごとに新しい話題を振ってくる。


 マジでポイント高いぞ隊長。

 これ彼氏候補上位ランクに入れるっきゃないじゃない。


「これからのっぺらぼうを追うわけだが、これには有伽の適正テストも兼ね備えている」


 すでに食事を終えた隊長が、コーヒーを味わいながら私に告げた。


「適正テスト?」


 アイスティーに口をつけて鸚鵡返しに呟く。

 すでに私もキャベツらしきものを食べ終えている。

 キャベツの塊は、本当に驚きに溢れていた。


 薄皮一枚捲ればご飯が薄く延ばされて葉と葉の間に挟まれていた。

 次の葉を捲ると人参とかが細かく刻まれたゼラチン質のもの。

 それが交互にキャベツの葉と葉の間に入っていて美味しかった。

 中心にはロールキャベツみたいにジューシーな肉が入ってた。


「ああ、適正テストだ。正式にグレネーダーになるには、前にも言ったが上層部を納得させるだけの功績が必要だ。私と翼が手を焼いているのっぺらぼうを有伽のおかげで捕まえた。となれば上層部も入隊を許可せずにはいられないだろう」


「それって、功績ださないと入れないってことですか?」


「有伽だけだ。上層部は有伽をA級以上の凶悪犯。加えて同情、交渉の余地なしと判断されている」


 あんな噂で……なんつーとこだ上層部。


「だからこそグレネーダーに協力して自分は無害だってアピールするわけですか?」


「そういうことだ。理解が早くて助かる」


 別の妖使いを抹消するか、それとも自分が抹消されるか二つに一つってやつですか。

 噂流した奴、ぜったいに殴る。急所突きしちまいますよチキショー。


「そういえば、ここは私の噂どうなってるんでしょうか?」


「うむ、言われてみれば、有伽を噂している者はいないな」


「やっぱ学校周辺なんですか?」


「ここは有伽の家からはかなり距離がある。学園からも等間隔くらいだろう?」


「そうですね。一番近いファミレスといっても一キロ以上はありますしね」


「お前の家周辺だけの噂だとしたら、その範囲に妖使いが潜んでいるかも知れんな」


「妖使いが? でも、噂を操るなんて妖使い聞いたことないですよ?」


「いや、いることにはいる」


 ……いるんだ。


「この原住民ならば確かにできる。噂を操作することがな。さらに悪いことに妖同士の認識対象にならない」


「うっわ、嫌な妖ですね」


「ああ。正直見つけるのは難しいな。この原住民が発現する者は、ほぼ100%の確率で臆病で狡賢く慎重だ」


「嫌な妖は嫌な宿主に付くってことですか……」


 ということは知らない間に恨みを買う恐れもあるわけだ。

 ほら、自転車乗ってるとき向こうからふらふらぁと自転車に乗った奴が来ると、自然とこっちに寄ってくるじゃない?


 結局ぶつかって、でも私は前に進んでただけ、横にはスペースが十分あるから寄ってきたそいつが悪いんじゃん?

 なのになぜか相手に睨まれたりする。

 そういう逆恨み的な状況なんだねきっと。ちなみに、これ私の実体験。


「妖の名を……【陰口】という」


「【陰口】?」


「人の影に寄生し、他人の悪口を別の影に伝える妖でな。この影から噂を聞くと、どれほど嘘みたいな噂でさえ信じ込んでしまう」


 状況が一緒だ。


「救いとしては噂も七十五日というように日数経過で自然消滅する」


「グレネーダーが動いて始末するには十分すぎる時間ですよね?」


「その通り。この妖を持つ者は実力はA級ではないがこれと同じ扱いとされている。見つけしだい抹消して構わない妖使いの一つに指定されている」


 最悪なのに目を付けられたね私ってば。


「だが、今はのっぺらぼうだ。奴は顔を変えられるという自信からか香水の類は付けていなかった。もちろん、前回追い詰めたときであって、今付けていないという保証はない。しかし確率としてはまだそこまで頭は回っていないはずだ」


「確率ですか」


「正直今どこにいるのかすらわからん」


「逃げてるだけなんですか? 目的もなく?」


「いや、これも憶測に過ぎんがな、三日前、通報のあった風俗店で女性に正体がばれたようだ。妖使いということを見破った女性に逆上して女性に危害を加えようとしたのっぺらぼうを舌の絶技で襲ってやったと証言が来ている。なかなか肝の据わった風俗嬢だった」


 ……風俗嬢?


「で、だ。もしのっぺらぼうがその女性を消そうとしたら、どこに出現すると思う?」


「自宅……ですか?」


 なんかね、私とても嫌な予感してきました。


「その通りだ。昨日はこの町に来たところで取り押さえようとしたが、残念ながら逃げられた」


 この町に住んでいて、別の街で風俗勤務。舌の絶技……? すばらしい偶然が重なってしまっている。偶然だ。偶然に違いない。偶然であって欲しい。


「ちなみに、その風俗嬢さんのお名前は……なんでしょう?」


 聞きたくないなぁ。でも聞かないといけないんだろうなぁ。


「確か高梨……留美、と言っていた気がする」


 わ~い、母さんだぁ♪ 私、一瞬思考がお花畑と化しました。

 何も考えたくない。

 こんなところでもお母さんの名前を聞くなんて……死のう。


「ん? そういえば有伽も高梨だな?」


「はい、その通りです。家の者がお世話になりました……」


 母さん、なにやってんの? 家ってほとんど帰ってないじゃん。

 何変なもの呼び込んじゃってんの!?


「家族か……有伽も風俗関係の姉が居ては肩身が狭いのではないか?」


「いえ、狭いというかなんというか、あれ、母ですし。近所からは同情されまくってますよ。この前お隣さんに大根分けてもらいましたし、これ食べて強く生きるのよって。ものすごく泣けました」


 人様からお裾分けされるときほど母さんを怨んだことはないくらいだ。


「は、母親が風俗嬢だと? 父親は何をしているっ」


「酒飲んで廃人してますよ。母さんの稼いだ金で」


「それは……強く生きろよ」


「あ、はは。ありがとうごさいます」


 親父と母さんのことを聞かれる度に励まされる。いい親だよ全く。


「と……また横道に逸れたな」


 居心地悪そうに話題を変える隊長。今でこそそれほど気にならなくなったものの、相手からすれば聞いてはいけないことを聞いてしまったといった感じだろう。


「そうですね。母さんのことは放っておくとしても、ボクの家にのっぺらぼうが出現する可能性はありますね」


「では決まりだな。有伽は自宅で待機しろ、父親の警護を任せる。私はのっぺらぼうが残した遺留品を持ってくる」


「場所は分かります?」


「心配ない。住所はメモしている」


 と、懐から名刺を取りだし裏を見せる。

 ちゃんと私の家の住所が書いてある。でも何号室か書いてないよ?


「家の番号書いてないですね」


「うむ? 特に翼は言わなかったが?」


「202号室です。二階の」


「了解した。ではこれから個別行動を開始する。のっぺらぼうと遭遇しても戦おうとはするなよ?」


「別行動でいいんですか?」


「かまわん。時間的には十分ほど差があるだけだろう」


 まぁ、十分くらいなら大丈夫かな?


「じゃあ、せめて連絡くらいは取れるようにしていいですか?」


「メールアドレスでいいか? 最近翼に感化されてスマホというものを持ったのだが、翼はメールも電話もかけてこなくてな」


「あ、それじゃあメアド交換しましょう」


「メアド?」


「メ、メールアドレスです……」


 いろいろと不安はあったものの、私は隊長とメアドを交換して別れ、自宅へと戻った。

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