表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 陰口
13/485

家に居たのっぺらぼう

 他人行儀な親父とはいえ、心配であることには変わりない。

 急ぎ足で家に帰った私は、玄関にきちんと揃えられた赤いハイヒールに気づいた。


 こんなもん履いて家に来るのは母さんくらいなものだ。あれ? でもなぁんか違和感が……

 あ、そっかいつもは脱ぎ散らかしてるからだ。揃えられてるの初めてみたよ。


 酒の臭いに閉口しながら居間へと移動する。

 お、親父が珍しく起きている。

 その親父とちゃぶ台を挟んで向かいに座る十代くらいの綺麗な少女……じゃない。


 確かにそれくらい若く見えるけど私の母さんだ。

 来年には40の大台に乗る正真正銘のオバサンだ。


「ああ、こんにちは有伽さん。今日は留美さんが来てくれましたよ」


 他人行儀ないつもの挨拶。

 なのに不思議そうに親父を見つめる母さん。

 親父が壊れたことは母さんも知っているはず……


 だけど私を、この人誰? みたいな顔で見つめてくる母さんに違和感を覚えずにはいかなかった。

 とはいえ、母さんの体臭を確認しようにも、アルコール臭が強すぎて……

 あっ、待てよ。母さんなら妖使いとして認識できるじゃん。


 さっそく認識するために意識を集中する。

 ……あれ? ない?

 妖反応がない。つまり人間? でも母さんは妖使いで、認識できないといけないわけで……考えられるとすれば、別人?

 やばい、もう来ていらっしゃる。


 よくよく見れば肩幅が違うし、母さんより背丈が高い。

 変えられるのは顔だけだから仕方ないんだろうけど、ちょっとキモイ気がしないでもない。

 隊長が来るまではもうちょっとかかる。結構急いで帰ってきたので十分プラスニ、三分くらいか? 私だけで何とかしないと……


 それには警戒をさせてはいけない。

 私がのっぺらぼうを知っていると悟らせてはいけない。

 さらに相手がボロをだして、鈍い親父がそれで正体を見破ったりしても逆上して襲ってくる場合がある。

 だから、ここは私の演技力がものを言う……ないけどね、んなもん。


「ただいま親父。帰ってきたときはお帰りなさいって出迎えるんだよ。何度も言ってるでしょ」


 まずは私が何者かをのっぺらぼうに悟らせること。名前は親父がいってくれたから、今ので娘が有伽という名前だと気づいてくれることを祈る。


「有伽、お帰りなさい」


 よかった。彼女いや、彼? は私を母さんの娘であることに気づいてくれたらしい。


「母さん珍しいね。三年ぶりじゃん」


「え、めず……あ、うん、そう……なのよ有伽」


 ……初回からマズッた。

 母さんを口封じするためにここに来てるのに母さんが三年前から全く戻ってないなんていったら、のっぺらぼうがここにいる意味がなくなっただけじゃない。


 んでも、演技下手だなぁのっぺらぼうさん。

 声音も違うし、いつもの母さんならここは絶対、「いつ帰ってこようと私の勝手でしょ? それよりメシ! 早く持ってきなさいあー坊」というのがセオリーだ。


 本当の母さんは私をあー坊と呼んでいる。

 今の母さんもどき、もといのっぺらぼうは知んないだろうけど、親父がこのことに気づいてないようで私はほっとしている。

 あ、そうだ。これで長引かせよう。


「母さんご飯食べた? 食べてないなら作ろっか」


「え? あ、でも……」


 断わろうとするのっぺらぼうだったけど、ググゥとお腹が自己主張する。

 きっとここに来るまで何も食べてないんだろう。逃亡生活は大変だ。


「いつもの奴でいいよね。親父も食う?」


「ありがとうございます。先程差し入れがありましたが、まだ食べられそうなのでいただかせていただきます」


 のっぺらぼうがまた不思議そうに親父を見る。

 私はそれを見て見ぬフリをしながら台所へと向かった。

 朝、弁当に使ったご飯のあまり……親父め、混ぜとけって言っといたのに。外側カッパカパじゃん。あとで尻蹴りの刑に処してやる!


 バターを溶かせたフライパンに炊飯器から取りだしたご飯を入れる。

 作るのはチャーハン。チャーハンの素、何使おっかなぁ? かに玉? 鳥五目? いいや、適当にブレンドしちゃえ。


 お、結構いけそうな予感。偶然にも? 美味しくできたチャーハンを三人分皿に載せ、カバンから携帯電話を取りだす。


 ――のっぺらぼうを発見、ボクの母さんに化けてます――


 メアドを交換したばかりの隊長にメールする。

 少しするとすぐに返信が来た。


 ――誰だ?――


 って、隊長?


 ――高梨です。名前とか登録してないんですか?――


 ――すまんすまん、検問でもうしばらくかかりそうだ――


 なんですとっ!?

 検問って何? 今どこ? ……仕方ない。最悪の場合私一人で対処しなきゃ。

 せめてのっぺらぼうの臭いだけでも覚えないとね。

 外にでるか私の部屋に連れ込むか……なんとかして連れだすっきゃないか。

 あ、またメールが来た。


 ――健闘を祈る。何かあればまた連絡してくれ有伽――


 ――分かりました。なんとかがんばってみます――


 メールを返し終え、携帯電話を折りたたむ。

 ため息を一つ、気持ちを落ち着ける。

 お盆にチャーハンを乗せて酒瓶だらけの廊下を歩く。

 幼い頃から酒瓶に蹴躓いて食器を割ったりしていたせいか、今では目を瞑ってすら楽に歩ける。する気ないけどね。


 居間に着くと、親父の態度にどうしていいのか会話に困っていたのっぺらぼうが居心地悪そうに座っていた。

 それでも必死に自分を母さんだと演技する姿を見ていると、ほほえましくて笑い転げたくなる。


「はい、のっ……母さん、今日は美味しくできたっぽいチャーハンだよ」


「できた……っぽい?」


 ちなみに使ったチャーハンの素やら別のものによっては失敗というか、ゴーヤとマー坊豆腐と酢のときは食えたもんじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ