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舐めプ

会場入りして、お着換えをして、計量をしました。

今回は55kgジャストですとウソ書きたいですが、またしても52か3kgでパスしていました。

Bさんも問題無くパスしていましたが、何kgだったかは聞きませんでした。

失礼とかより興味が無かったからです。


私は青コーナー、Bさんは赤コーナーでしたが、何故かBさんは私の側にいました。

当時は「なんでだろ?」と思っていましたが、試合後に「偵察に来ていたのか」と気づきました。

後は不安だったのかもしれません。緊張もしている様子でした。

ニブすぎますね。だから素人童貞なんですよ。


Bさんは他の女性選手のミット打ちを食い入るように見ていました。

完全に偵察なのですが、前述した通り私はピンと来ていません。

ちなみに今回、会長は私の対戦相手の偵察にはたぶん行っていません。

分からなかったのか、面倒くさかったのかは不明です。


「強そうな人いっぱいいますね」


Bさんが不安そうに言ってきました。

私はこの時「そうですね」と返しましたが「そうかな? Bさんの方が絶対上手いと思うけど」と考えていましたが、口には出しませんでした。

これは口に出すべきでしたね。

大失敗です。


結果から書きます。

Bさんは4-6で判定負けをします。

そしてボロ泣きをしました。


どうやら偵察で対戦相手を勘違いしていたらしいです。

相手が強いと分かって、必要以上に硬くなってしまったと反省していました。

私はオロオロするばかりで、気の利いた事は言えませんでした。


それどころか「Bさんなら大丈夫ですって」と言ったら笑われてしまいました。

かなり空気読めてなかったみたいで「マエカワさんみたいな凄い人にはわかりませんよ」と怒り気味に返されてしまいました。

全然凄くはないんだけどな、と思いながら「そんなこと無いですよ。僕だって2連敗しましたし...」と言ったら、納得してくれたのかどうかはわかりませんが会話は終了しました。


またしても大失敗です。

Bさんには「私の分もがんばってください」と試合前に応援されましたが、上手く慰める事ができなかった事で気分が落ち込んでしまい。


(どうせ負けてますますムード悪くするんだろうな)


とただでさえ無いやる気がマイナスになってしまいました。

もはや試合なんてどうでも良いという状態です。

やーやだやだコミュ障って!


思い出したら激しく自己嫌悪に陥ってしまいました。


Bさんのセコンドには会長がついていたので余計な口出しはしない方がいいと思っていましたが、主にロキックでポイントが取れそうだったので「ローキックいいよ!」とでも試合中に言っておけばよかったなと後悔しました。


暗い話題ばかりもアレなので楽しい話もしましょう。

Bさんの友達軍団は美人さん揃いでした。


クズですね。



※  ※  ※  ※



試合が近づいてきても大失敗の事で頭がいっぱいだった私の闘志は冷めきっていました。

会長からも特にファイトプランの提示は無かったですね。

ミット打ちの時も『何が良い』みたいな話もでませんでした。


会長もメインであるBさんが勝てなかった事で落ち込んでいたのかもしれません。

残った練習不足の格闘技ナメ太郎にかける言葉は無いと思っていた可能性もあります。

卑屈すぎますかね?


リングサイドでスタッフに防具を付けてもらっている時も「そうか、これから試合するんだった」と完全に気が抜けていました。


Bさんのためにも頑張ろうという意思も全く無かったです。

マジで薄情者です。


そしてリングインです。

今回の対戦相手はトランクスが緑色だったので『グリーン』です。

やる気も無いのでネーミングも適当です。


後日、会長がこの試合の映像をBさんと見ながら「マエカワくんを見てみなよ。戦い慣れしてるだろ」と解説していた時は噴き出しそうになりました。

単にやる気がゼロなだけだったのに...


グリーンは年齢不詳で、フェイスオフした時に私より少し年上かな? と言う印象でした。

身長は少し相手の方が高かったと思います。


ゴングが鳴って、試合開始です。


闘志は冷めきっていましたが、ファーストコンタクトで「こいつ俺より弱いな」とすぐに分かりました。


ああ、俺より努力しなかったヤツがいる...俺は一人では無いんだ。


とちょっと嬉しくなりました。

パロディ元の作品ファンの皆さんマジですいません。しかし正直な感想なので勘弁してください。

だからと言ってKO狙う気は全然起きなかったです。


ただ開幕直後にグリーンが左ボディストレートを当ててきた時、ダメージは無かったですが嫌な顔をしてしまった自覚がありました。

しかし、会長の「腹狙ってくるヤツにはミドルキック蹴ってやれ」という指示が聞こえたので、バンバン右ミドルキックを打ち込んだら二度とボディは狙ってこなかったです。


帰りの車の中で「なんでミドルキックなんですか?」と聞いたら「ボディストレート狙う時、頭が下がるだろ? だから頭に蹴りもらう恐怖心が生まれるんだよ」と説明されて「すげー」と納得しました。


ジャブの差し合いも完全に私が上でしたね。ストレートも結構な入っていたと思います。

右ローキックも何発か直撃させました。

連打も入れましたが、疲れるのが嫌だったのでほどほどで切り上げて距離を取りました。

省エネ作戦です。


この試合、良くも悪くも私は冷静に戦っていました。

グリーンは圧倒的に手数が少なかった上にガンガン来るタイプでも無かったのでかなり楽な試合展開でした。


ゴングが鳴って1ラウンドが終了しました。

私は完全にラウンド取ったと確信しました。


そしてマストポイントではないので「次のラウンド互角なら勝てるな」と余裕ぶっこいてました。

舐めプです。完全に舐めプです。

しかしこれが結構危なかったです。

これみてるかもしれないアマチュア格闘家の皆さん。舐めプは絶対にやめましょう。


会長からは「その調子で戦え」とか言われた気がしますが、忘れました。

それくらいグリーンをナメきっていました。

「この試合勝ったわ」と思っていたからです。


2ラウンド開始です。

私は「打たれたら倍打ち返す、ポイントは取らせない」という超消極的な作戦を取ることにしました。


2ラウンドになって、いきなりグリーンの攻撃が激しくなった...なんて事はありませんでした。

私は作戦通り、打たれたら打ち返すを徹底していたので、それに付き合ってくれるグリーンの姿勢は超ありがたくて、超ラクチンでした。


もちろん隙があったらこちらから攻めるという事もしました。

連打は体力を使うので単発のジャブやストレートばかりだったと思います。

右ミドルキックもガードの上からですが積極的に打っていきました。


とにかく両者とも手数の少ないラウンドだったと記憶しています。


しかし、そんな舐めプをしていた私に天罰が下りました。

グリーンの放った右ハイキックが疲れてガードが甘くなっていた私の側頭部に直撃したのです。


ダメージは全くありませんでした。

ですがハイキックという大技をモロに食らった自分のバカさ加減が可笑しくなってしまい。


「ハァアアアアアア!」


とノーガードで大笑いしてしまいました。

変人ですよね。

グリーンは驚いていました。追撃にも来なかったです。

攻撃効いてないと判断してビビってくれたのかもしれません。


(今のでポイント取られてたらマズいな)とちょっと攻勢に出る事にしました。


連打を入れたかったのですが、疲れていたので単発の返しばかりだったと記憶しております。


そこへ妖精さんが囁きました。


「奥足(引いている方の足)への左ローキック蹴ってみなよ」


スイッチ(左右の構えの切り替え)が難しくてドタバタしてしまうので、スパーリングでも試合でも1回も使った事が無い技です。さすがにミット打ちでは練習していました。

戸惑いはありません。妖精さんの言う事は絶対です。


思えばこれが決定打だったと私は勝手に思っています。


力の抜けた左ローキックでした。イメージ的には『ふわん』って感じの蹴りですね。

それが吸い込まれるようにグリーンの太ももに直撃しました。


グリーンはぐにゃあって感じで態勢を崩しました。

私は「え???? そんなに効いたの????」とビックリしてしまいました。

ビックリしすぎて追撃に行くのを忘れたくらいです。


〇ー1の解説も「奥足へのローキックは蹴られなれていないから効く」と何度も言っていましたが、まさかここまでダメージを与えられるとは思いませんでした。


そして試合ラスト30秒。

会長は「行け! なにやってんだ!」と叫んでいましたが、疲れていた私は「無理ッス」と思いながら、グリーンとお見合いをしていました。

相手も疲れていたみたいです。

ミドルキックを最後に1発放って試合終了です。


(勝ったな)


勝利を確信していました。

そして自信満々で勝ち名乗りを待ちました。


「ウィナー!」


私の手が上がりました。

しかし判定結果を聞いて冷や汗をかきました。


なんと2-0! ジャッジの一人が2ラウンドをグリーンに付けていました。

あきらかにハイキックの直撃が原因でしょう。

危うく勝ちを逃すところでした。


(危ねぇええええええええええ!!!)


超焦りましたね。

繰り返します。舐めプは絶対にやめましょう。


しかし勝ちは勝ちです。

グリーンとは「お疲れさまでした」とハグを交わしました。

2ラウンドめちゃくちゃ危なかったですが、おおむね思い通りの試合運びができたので満足でしたね。

あと『いっぱい会話したな』と思いました。


コミュ障の私にとって相手だけを見て、相手も自分だけを真剣に見てくれる全力の戦いだけが『本物の会話』だと感じた瞬間でした。


変ですかね?


試合後に格闘家がお互いを称え合っているのを見ると「彼らもそうなのかな?」と考えてしまいます。

これ見てくれているかもしれない対人スポーツ経験者のアナタはどう思いますか?


更衣室でお着換えを終えて待機していたところにBさんとその友達軍団が祝福に来てくれました。

「おめでとうございます!」とか「超かっこよかったです!」とか言われました。


恋愛のスイッチは切っていましたが、美人に囲まれてチヤホヤされるのは良い気分でした。

Bさんの旦那さんからも「おめでとうございました」を頂きました。

みんな試合見ていてくれたんだな~と感動しました。


あとBさんが笑顔だったので、少しでも慰めになったら良かったなと思いました。

今思い出して作り笑顔だったかもしれないとか考えてしまう卑屈な自分が嫌になります。


こうして私のアマチュア戦績は5戦3勝2敗1KOと勝ち越しになりました。


そしてこれが私のキック人生最後の試合となってしまいました。

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