第20話 星野凛花の敗北
教室に入る斗真。いつも通り席に向かおうとするがその前に立ちはだかる影一つ。
「おい斗真! 星野さんにフラれたってマジなのか!?」
直哉だった。え、なにそれ。と困惑する斗真。
「今日の朝から一人で机に突っ伏している星野さんだよ! いっつもお前と一緒なのに今日だけは一人きりでいるし、何があったんだと話題なんだよ!」
「いや、今日は……、たまたま?」
その発言に凛花がもぞ、と動いた、気がした。
「たまたまなことがあるかって。いやぁ、お前にも春が来たかと思ったが、ただの異常気象だったとはな……」
「いやホントになんにもないって。本人に聞けば――」
と話を進めようとした時、もう一人の影が迫る。
「おい! 星野をフったというのは本当か斗真!」
「なに! フラれたんじゃないのか斗真!」
来たのは京介だった。連鎖的な化学反応が目の前で起こる。
「校門を一人で通る星野に、一心狂乱とロッカーを磨く星野。まるで過去を拭い去るかのような雰囲気だと聞いたが」
「たいへんなことになっているな斗真。説明してもらおう」
男二人に詰められる。困ったなぁ、なんて考えていたころ、担任が入ってくる。
「藤宮くん! 今朝家から別の女生徒と一緒に出てきたって本当かニャ!?」
「「なんだって!?」」
……すごくややこしいことになってしまった。
* * *
ホームルーム中。いろんな事を考える斗真。誰に、何を、どこから話すか。悩んでいた。
(まぁ最初は凛花だよな……)
ちらりと盗み見る。普段通りの顔をしている凛花だが、どこか覇気がないようにも感じる。なんと釈明したものか。
(っていうか凛花はどこまで知っているんだ?)
昨日ことねと一緒だったことも知らないはず。今朝の噂はどこまで広がったんだ?
悩み続ける斗真。一方凛花は――。
(ふふ……私らしくないけれど、精々弱ったフリでもしておくわ。そうすれば斗真様は優しいから声をかけずにはいられないはず。あざといのは好みではないけれど、この際なんでも使ってやるわ)
策を練っていた。
刻々と時は進む。授業間の休憩時間にも互いが交わす言葉はなく、戦いは昼時に持ち込まれた。
チャイムが鳴る。先に動いたのは凛花。弁当箱を持って斗真の席へ向かう。
その日の凛花をクラス中が見ていた。飛び交う噂、その真偽を知るために。
「斗真くん。お昼よ」
「……ああ」
机をくっ付け、凛花の領域を展開する。いつもの光景だ。——だが今日は異分子が在る。
「そういえば今日弁当もらったんだった」
「え……?」
斗真が取り出す弁当。普通に男物の弁当だ。しかし中身は男《斗真》が詰めたとは思えない丁寧なものだった。
「くっ……どこまで邪魔をすれば気が済むの……!」
唇を噛む凛花。……言うまい。全て自分がやってきたことだとは。
斗真の弁当をじっと見る。弁当を介した敵情視察。
「あっ」
卵焼きを一つ盗み取る。しょっぱかった。普通に考えれば失敗だろうが……。
「藤宮くんはこういう味付けの方が好みなの?」
「いや、しょっぱいよな、これ」
「そう……」
やや溜飲が下がる。まだだ、まだ彼の心は落ちていない……!
「でも運動部だから塩気が欲しいんだろう」
「なん……」
なんという理解力。これが幼馴染だというの!?
「私の卵焼きの方がいいわ。食べなさい」
「もがが……」
ことね、一晩であれこれしただけでなく胃袋も掴んだなんて許せない。ゴゴゴゴ……、凛花の周りに気迫が形成される。そこへ――。
「やれやれ、課題に手間取っちゃった。おまたせ藤宮」
緊迫の空気感など気にも留めない様子で二人の領域へ入る葛城一葉。
「あれ、二人って別れたんじゃないの?」
葛城は火力が高かった。
「ふん。たまたま私が一人だったという状況だけを切り抜いた噂ごときに振り回されるなんて、甘いわね」
「甘いのは自分の脇じゃないの?」
「ぐ……たかが一日の話よ。この後取り返せるわ」
「あら、意外と弱ってるわね。くすくす」
(葛城《この女》は今朝の出来事を知らない。知れば余裕なんてなくなるはず)
「ところで斗真くん。昨日はどうしたのかしら」
「昨日……? (どこからの話だ……?)」
困惑する斗真。斗真自身昨日の情報量が多くて把握しきれていない。
斗真が考える昨日の出来事といえば……。
* * *
「兄ィ! ついにコイツを使う時が来たね!」
「そういえばそうだ! コイツのあの機能がある!」
兄妹の力を合わせてソファを展開。ベッドにもなるやつだった。
「意外と悪くないんだよね。ずっと使ってなかったけど」
と、意気揚々とソファを展開し――。
「(ギリ二人分か……)じゃあおやすみ!」
……みんな寝た。
* * *
「……何も? (真実)」
「何も!? (絶対に行くところまで行ってる)」
「何も? (純粋)」
斗真の答えに、面食らう凛花と、純粋な葛城だった。
なんかまずかったか? と慎重に箸を進める斗真。なにもないなら問題ないと気楽な葛城。勝手に絶望する凛花、一人弁当を片付ける。
「ん、もういいのか凛花?」
「ええ、少し、風を浴びてくるわ……」
ふらふらと教室を出ていく凛花。教室にいる弁当勢がひそひそと話す。
「なんか勝手に出て行ったわね。また二人きりね、藤宮♡」
「……ああ」
* * *
「はぁ……」
(個人的に)敗北が続く凛花。ちょっとだけ精神がまいっていた。一番手、同じクラス、圧倒的時間のアドバンテージ。敗北要素などないはず、だった。
(めげるには早いけれど、ため息くらいは吐きたいわね)
校舎裏、静かで誰も来ない場所。落ち着くにはいい場所。
——普段なら。
「——星野凛花」
「ん?」
そんな人気無いところに現れる影。
そも、噂とは足だけは速いもの。根拠や正しさなど二の次である。
”一人になった星野凛花”。
その話に食いつく存在——。
”星野過激派”である。
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