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落ち込んでいる人の励まし方

 

 安元3年(1177年)5月 京


 こんにちは平重盛です。


 奥州から北陸、坂東、東海と各地をまわりながら京に戻ってきました。

 越後では城氏を見舞い、坂東では賊の討伐と境界争いの調停を行った。

 頼朝の動向も気になったけど会いに行くのはやめておいた。今の僕が頼朝に会うというのは各所にその意味を探られることになる。興味本位で会いに行くのはやめておいた方が良いという判断だ。

 東海では各国司を訪ね、強訴があったと聞くや寺社を焼き払いながら京に至ったという感じです。


「重盛クーン。」


 小松邸に着き、軍装を解いていると後白河法皇がやって来た。なんだか元気がない。

 そういえば、昨年に滋子さんが亡くなったんだっけ。それまでは一緒に福原に行ったり、音曲を楽しんだりしていたのだ。

 最大の理解者を失って意気消沈しているのだろう。


「うん。心にぽっかり穴が空いた感じでね、なんだかやる気がでてこないんだ。何かするのが億劫おっくうに思えるんだよ。それに重盛クンも京にいないことが多いから、ちょっと寂しいかな。」


 院政についてもやる気を無くしたのと時をあわせるように、高倉天皇はやる気を出している。そのためまつりごとも後白河法皇が口をださなくても動いている。やることがなくなっている。院の近臣は高倉天皇を支える平氏との軋轢があるけれど、後白河法皇自身には政争に持ち込むほどの気力があるわけでもない。


「すみません。奥州も静かになりましたので、しばらくは京にいることになると思います。」


 ちょっと寂しさを紛らわせてあげないといけないかな。顔に疲れがみえるし、シワも増えた。後白河法皇も、もう50歳だもんね。体を大事にしてもらわないと。

 そういえば僕ももう40歳だ。史実だと死期が近づいているはずだ。しばらく京にいると言ったばっかりだけど、死ぬまでに頼朝だけはなんとかしておきたい。


「じゃあ、ちょくちょく顔だしてね。ちょっと気分も晴れたから帰るよ。八条院にも顔を出してほしいって言われててね。」


 幾分、気が紛れたようで何より。ところで八条院というのは後白河法皇と10歳ちがいの妹で後白河法皇が天皇になろうかというときに、他の候補者の1人にあがっていた暲子内親王のことで保元2年に落飾して八条院となった。


 この八条院だが、とにかく持っている荘園が多い。僕以外の平氏が持っている荘園が500カ所なのに対して八条院は230カ所だ。平氏の天下といってもしょせんはこの程度のものだ。数ある勢力のなかの最大であるという位置づけにすぎない。平氏の意のままにならない朝廷の所領だって3,000以上あるのが現実だ。

 え? 僕の荘園?

 ・・・800カ所です。寺社領と奥州を押さえたことで爆発的に増えました。開発領主からの寄進も相当数受けています。


 それにしても八条院か。僕も何度かお会いしたことはあるけど、顔を見たことはない。御簾ごしで見たことがないという意味ではない。八条院に憑いている蜘蛛のようなものが顔に張り付いていて見えないのだ。


「滋子が使っていた香を再現したいんだけど、材料に何を使っていたのか分からなくて、八条院に香の再現を頼んでいてね。いくつか試作品ができたから見に来てほしいそうなんだ。」


 うちでは体臭を気にしなくて良いほど風呂に入って清潔にしているから香を使う機会は少ないけど、世間ではまだまだ香の使用は一般的だからなあ。人の第一印象は顔の次に香の香りで決まるくらいだ。

 滋子さんを偲ぶのに香があると思い出も色濃くなる。


「僕も明後日には法住寺に伺いますね。」


 平氏は隆盛の時期の真っ只中にある。史実ではここから平氏への反発が強まり各所に反乱を抱えることになったように記憶している。でも今のところ寺社は沈黙させたし、坂東も静かだ。貴族が影でコソコソ動くのはいつものことだし、後白河法皇との関係は良好だ。


 歴史は変わっているのだろうか。やはり頼朝を討たない限り安心はできないな。

 うん、決めた。来年には討伐に行こう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 顔に張り付く蜘蛛 広大な荘園 お香 おや?誰か来た様だ
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