深読みです。本当に突破されたんです
承安4年(1174年)5月 奥州・平泉
奥州藤原氏第3代当主・鎮守府将軍・藤原秀衡は悩んでいた。
先頃、呼んでもいないのに源義朝の子・義経が秀衡を頼って平泉に押しかけてきた。相談役であり、妻の父でもある藤原基成は奇貨置くべしというが、秀衡は懐疑的であった。
そもそもこの基成は平治の乱の折、異母弟・藤原信頼の縁座で奥州に流罪となった者だ。そこまで政治感覚が優れているとは思っていない。
そして問題なのは今、読み終わったばかりの書状。前権大納言で仏敵、天魔など数々の異名をもつ男、平重盛から源義経の引き渡しを求めるものだ。
引き渡すだけならばまったく問題ない。むしろ厄介払いできて幸いというもの。しかし、書状によると義経一行は平重盛の追跡を振り切り奥州入りを果たしたという。罪状は船賃の踏み倒しと船頭への暴行。
「この程度の罪状であの男が動くか? しかも元服を済ませたばかりの小僧がその追跡をかわしてはるばる奥州までたどり着けただと?」
そんな訳がない。平重盛がわざと泳がせたのでない限り、追跡をかわせるはずがないし、その程度の罪状で重盛が動くわけがない。
「つまり、これには裏があるということじゃな?」
秀衡に渡された書状を読みながら、基成にも秀衡の憂慮が理解できた。
「何か別の狙いがあるのは間違いない。とすると、それは何か・・・。」
基成が、ハッとして顔をあげる。
「もしや奥州が狙いなのでは?」
秀衡もその可能性は考えなかったわけではない。しかし奥州は祖父・清衡以来、長年にわたり、中央からの干渉を排除してきた土地だ。今更、平重盛が乗り込んでくるとは信じきれないでいた。
「相手は仏敵、天魔じゃぞ。寺社をあらかた食い荒らし、次の獲物を探しているに違いなかろう。」
秀衡が押さえ込んでいた不安が、基成の言葉で再びこみ上げてくる。
「しかし、そうだとして、どう返答するのです。引き渡すべきか、否か。」
「返答を引き延ばすのじゃ。そのような者は来ておらぬ。しかし隠れ潜んでおるやもしれんので、捜索にあたると。」
悪くない手だと秀衡は思った。さすがは京の貴族だとも。
しかし秀衡は知らなかった。重盛がこのような引き延ばし策こそ嫌う性格であったことを。
-越後国・鳥坂城
「引き延ばしか。攻略決定だな。」
どうも平治の乱以降の僕は好戦的になっている気がする。昔は「人を殺せるかなー」みたいなことを言っていたのに、今では間接的にではあるけど、この時代の誰よりも殺していると思う。
「秀衡を攻めるのでございますか?」
期待に満ちた声で聞いてくるのは城資永。越後の大豪族だ。
僕が越前に進出したころから何くれとなく書簡を送ってきたり、時には自ら訪ねてきたりしている。
うしゃぎさんを通じた交易でも交流があり、寺社討伐の際にも兵を自ら率いて駆けつけてくれたりしており、その時に主従の関係を結んでいる。
「兵を動かすのはまだ先だね。まずは交易を止め干上がらせる。金も奥州の産物も西には送らせない。その間に越後から出羽に攻め込む兵を整える。坂東からも基盛と知盛に攻めさせよう。これを機に坂東武者とも繋がりを持っておきたいからね。」
「干上がらせるんは簡単やけど、その間の交易の損失はツケにしとくで。」
一緒に付いてきているうしゃぎさんが、隣でパチパチとソロバンをはじいている。
「ん? これが気になるんか。 これは宋の算術の道具でソロバンちゅうんや。この国にはまだ無いで。」
僕の視線が気になったのかソロバンの説明をしてくれた。違うんだ。僕が気にしているのは借金だよ。うしゃぎさんが僕をいじめます。(よよ落涙)