みぃつけた!
承安4年(1174年)1月 京
「はあー。くつろぐー。」
久しぶりに京に戻ってきました。何年ぶりだろう。
比叡山の焼き討ちに端を発した、各地で起こる寺社の騒乱をねじ伏せてまわらなくてはならなかった。
当初は強い反発が続いたものの、僕が一向に神罰、仏罰を受けないこと、主要な寺社を次々と討伐したことで徐々に流れが変わった。
あと信長と状況が違ったのは寺社がまだそこまで民衆の力を集めきれていなかったことがある。浄土宗も浄土真宗も日蓮宗もまだ登場していないからね。
その一方で、僕も末法の世における新たな思想を提示した。
仏に頼れない以上、土地を富まし、民を富ますことで、国も豊かにしようという考え方だ。
仏教が民衆に入り込むまでに、「生活を豊かにしますよー」という希望を早めに示していくことで宗教が民衆を巻き込んだ巨大組織に膨れ上がるのを防ぐ目的だ。今回も寺社との戦いを繰り広げたが、戦禍が民衆に及ばないようにした。現地調達なんてもってのほかだ。騒乱がほぼ畿内限定だったことも幸いした。
また、寺社を討伐してまわったといっても根切りにしたわけではない。武装放棄すれば和議にも応じた。もちろん以後の再武装は禁止だ。その代わり、寺社法度を整備し、争い事があれば平氏に訴訟を持ち込める体制をとった。
あと寺社への荘園の寄進を禁止した。やはり巨大な収入源は潰しておかないと復活するからね。ちなみに比叡山は再興を許していない。
平氏内部のことも話しておかないといけない。
平氏の次期棟梁は宗盛だ。僕が寺社との騒乱を抱えた早期の段階でそうしてもらった。平氏にどんな被害が及ぶか読み切れないところがあったからだ。
結果として、寺社から没収した荘園はすべて僕の所領となり、そこから功のあった諸将に分配したものだから、僕個人の所領の飛躍的な拡大と各地の大小豪族との結びつきを強固なものにした。
「所領を与えるから僕のために戦ってね。」ではなく、「僕のために戦ってくれるから、今後の君たちの安全は僕が保障するよ。」という意味での主従の関係を築いた。
財政的には、清盛パパとうしゃぎさんに相当な額を支援してもらった。払えない額ではないが、うしゃぎさんには借金ができた。
「返す必要はあらへんで。別の方法で返してもらうさかい。」
ニヤリと笑ううしゃぎさんは不気味だった。怖い。
最後に宮中での僕の立場は従二位・無官のまま。
右近衛大将か左近衛大将にという声もあるらしいけど、今となっては興味があまりない。個人で十分動けることが分かったからだ。まあ、これまでの実績があってのことではあるけれど。
「父上!」
声をかけながら入って来たのは次男の資盛(13)だ。大きくなったなあ。
「お探しの者を見つけましたっ。」
狼たちが「褒めて褒めてー」と言うときのようなキラキラした目だ。
「誰が見つかったんだい?」
「遮那王です! 鞍馬寺にいました!」
おお! ついに見つけたか。よし、斬りに行こう。
でも、その前に気になることが。
「・・・資盛、顔や手に怪我があるのはどうしたんだい?」
言われて、はっと気付いた様子の資盛が恥ずかしそうな顔をする。
「実は、報せに戻る途中で関白・松殿基房様の一行と鉢合わせしまして、急いでいたものですから無礼をしてしまい、それを咎められてこのようなことに。」
そうか、そうか、僕のために頑張ってくれたんだね。褒めてあげないと。
資盛を大喜びで褒めていると、関白の使いが来たとの報せがあった。
騒ぎの相手が僕の息子だったと分かって謝罪に来たのかな。だけど無礼は無礼だ。謝ってもらう筋のことではない。
・・・いや、せっかくなので利用させてもらうか。
「なあ資盛。宮中で働くか、父と京外で働くのとどっちがしたい?」
「父上と共に行きます!」
・・・資盛が嬉しそうにぶんぶん尻尾を振ってるワンコに見えてきた。