嘉応の強訴らしきもの(1)
嘉応元年(1169年)12月
比叡山の強訴が起きました。
寺社の強訴は時たまあるのですが、僕が在京中に、しかも武力を行使できる状態のときに発生したのは今回が初めてです。
きっかけは尾張守の代官が、比叡山の日吉神人を侮るような言動をしたとして、揉め事になったことだ。
事件自体は些細なものだけど、比叡山側がこれを問題視して事を大きくしている。
比叡山側は尾張守の流罪を要求。もちろん単なる言い争いで国司を流罪にするなどありえない。朝廷では要求をきっぱり拒否した。
これを比叡山に対する侮りととったのか、僧どもは強訴の体勢に入った。
「で、どうするの重盛クン。」
経過報告のため、法住寺に行くと後白河法皇に問われた。
今、京の軍権を握っているのは僕だ。北面の武士をはじめ、在京の武士を動員して宮城と法住寺を守るべく、軍を展開している。
本当は京外で防ぎたかったけど、京内にあるどこかの寺社が呼応すると背後を脅かされるため、やむなく最重要拠点のみの守備とした。
幸いなことに僧どもの目指す先は宮城だったらしく、先ほど宮城から僧どもが現れたとの報せが届いたばかりだ。
「僧どもは宮城に現れ、騒いでいる様子です。」
「ほんと好き勝手するよね、アイツら。なんとかできる?」
後白河法皇は心底ウンザリしているようだ。良い機会だ。きっかけは偶発的だが準備は整っている。
前々から寺社を叩くと言っていたけど、政情が一定の落ち着きを見せ、反平氏感情もない今が、寺社を心胆寒からしめておく好機だ。
「思いっきりやってよろしいですか?」
「いいよー。やっちゃって。」
後白河法皇の許可を得ると、直轄兵500のみを率いて宮城へと急行した。
宮城に近づくと僧兵がたむろしていた。中央には神輿が鎮座している。
「宮城周辺での騒乱は禁じておる! 即刻引かねば賊とみなし討伐するぞ!」
声の大きな兵に警告してもらう。
が、当然それで引き上げる相手ではない。
「平氏の狗が。とっとと立ち去れい! 神輿をないがしろにするようなら神罰が下るぞ!」
相手も負けじと大声をあげる。普通の兵なら仏罰と聞いたら恐れおののくところだが、うちの直轄兵は微動だにしない。
「やれ。」
短く命じると、兵たちは一斉に矢を放つ。
放った矢は狙い外れず神輿もろとも僧兵に降り注ぐ。
「ぐはっ。バカなっ、神輿にも当たっておるぞ・・・奴ら正気か!?」
2射目を終えたところで僧兵に向かって突進する。
神輿を射られた衝撃から依然、立ち直れていない僧兵を次々と討ち取り、わずかな者だけが逃走に成功するという状態だった。
「このまま比叡山に向かうぞ。神輿も担いで行ってくれ。」
-比叡山
「神輿が射られただと!?」
強訴のため、京に向かった僧兵が見るも無惨な姿になって帰ってくると比叡山は騒然となった。
「大変だっ! 朝廷軍がこちらに向かっている。その数3,000!」
「なんだとっ。奴らまさかここにも手を出そうというのかっ。」
「奴ら麓で神輿を打ち壊して、火をかけたぞっ!」
次々と舞い込む信じられないような凶報に全山が右往左往し、混乱はさらに広がっていった。




