みんな余のこと忘れてない?
永万2年(1166年)10月
こんにちは平重盛です。
憲仁親王の立太子の儀が執り行われた。
後白河上皇と清盛パパの意見が一致し、ここまでこぎ着けることができた。
清盛パパが王家の相続にここまで主導的に関われたのは今回が初めてかもしれない。
それだけの勢力になったということだ、平氏は。
立太子の儀には、後白河上皇と後白河上皇派の貴族、清盛パパに平氏一門、その他、大勢の貴族が参加して行われた。
後白河上皇派の貴族は、この前までは宮中の隅っこでひっそりしていたのに急に元気になった。二条天皇の時代は逼塞してたもんね、君たち。
さて、ここまでは後白河上皇と清盛パパは仲良くやっている。蜜月関係と言ってもいいだろう。
僕の知る歴史だと、この2人はこれから徐々に仲が悪くなるはずだ。
でも、後白河上皇は陰謀の塊のような人だと思っていたけど、実際は、政治力はあるけど自分の権益が守られている限り、政に興味はないし、基本的に怠惰な性格に見える。
もう、僕の知る歴史とは乖離してしまったのかなあ。
そんなことを考えながら法住寺に向かっていると変わった若者がいた。
貴人の服装なのに、髪はマゲが結えず、乱れている。
「ははあ、この人、還俗したばっかりだな。」
たまにいるんだ。僧から還俗した貴族が。
あまり気にせず見ていたが、その人は法住寺へと入っていった。
僕と行き先が一緒だったのか。
でも目指す人は違うだろうな、と思っていたが、向かう方角まで一緒だ。
そのまま後白河上皇のところにまっしぐらだ。早歩きがだんだん早くなってきて、最後には駆けだした。
「オヤジ! オヤジィー居るのかっ。」
・・・破落戸かい、あんたは。
警備の武士たちが、わらわらとやって来ているが、後白河上皇のことをオヤジと呼んでいるから下手に手出しできないでいる。
院近臣は出てきていないし、・・・仕方ない、僕が対応するか。
「上皇様に何かご用ですか?」
「ああ! 以仁王が来たと伝えてくれ。オヤジはどこだ?」
以仁王か。たしか源頼朝が挙兵する前に挙兵して失敗する人だよな。
「伺ってきますので、こちらでお待ちください。」
「いらん。すぐに行く。」
分からない人だなー。上皇様の予定を聞くから待てって言ってるのに。
「上皇様にもご予定があります。ひとまずこちらでお待ちいただけませんか?」
「先ほどから誰だ。余に無礼な口をきくのは。」
無礼なのはアンタだよ。僕が知らない顔だったってことは、親王宣下を受けていないよね。
「・・・権中納言・平重盛です。」
「っ! 平氏か! おのれらのせいでっ!」
目をカッと開いた以仁王が急に殴りかかってきた!
おい、御所だぞっ。何やってるの!
最初の一発をからくも防ぐと、警備の武士たちが以仁王を押しとどめに入ってくれたが、以仁王はまだ暴れている。
「放せっ。コイツらのせいで余が帝になれなくなったんだぞっ!」
いや、あんたの素行の問題でしょう。
「なーに騒いでるの。」
後白河上皇の登場だ。
「オヤジィー。世話になってる藤原公光伯父が失業しちまってよ。カネがねえんだよ。カネくれよ。それと親王にもしてくれよ。」
「・・・つまみ出して。」
「お、オヤジ!? 待って。聞いてくれよっ。オヤジィー!」
警備の武士たちに引きずられてのご退場だ。
「まったく、勝手に還俗しておいて、ボクにメイワクばっかりかけてくれるよね。」
勝手に還俗したのか。
聞けば、以仁王は今回皇太子になった憲仁親王よりも年上の子で、「ひょっとして、帝になれるんじゃね?」と変に期待して、勝手に還俗してしまったらしい。
以仁王の伯父である権中納言・藤原公光殿は以仁王を支援していた(この様子では支援させられていたのかもしれない。)せいで、後白河上皇の不興をかって失脚している。
この件について、平氏はまったく無関係だけど、後の世では平氏の陰謀で失脚しとか、不遇の皇子とか言われそうだな。
権力を持ちはじめると状況だけ見て悪い方に曲解されることが増えるから困ったものだ。