紹介も重なると・・・
保元3年(1158年)1月
こんにちは平重盛です。
「ボクねえ、そろそろ譲位できそうなんだ。」
後白河天皇がほくほく顔で僕に話しかける。
ちょっと驚きだ。後白河天皇がそう言うということは、もう内定しているということだろう。平氏ではまだ、その情報をつかんでいない。
「ん、信西の動きを見ていると、たぶんそうだと思うだけー。だから皆が知るのはもう少し先さ。でも今年中にはなんとかなるんじゃないかな?」
なんということだ。この人、ものすごく政治力あるな。よく分析している。ほんと関心があることのためなら力を発揮してしまう人だ。
「それはおめでとうございます。ところで、今日はどうして法住寺にいらしているんですか?」
そう。今いるのは宮中ではない。後白河天皇の呼び出しで、宮城から東にある鴨川を越えてすぐにある東三条殿から南へ、祇園社も過ぎてさらに南に行ったあたりにある法住寺に来ている。
「実はね、この法住寺を院の御所にしようと思っているんだ。」
「ああ、なるほど。譲位なされた後の住まいにされるわけですね。」
「うん。君の家にも近いしね。」
おう、なんということでしょう。僕の家に近いからという理由で院の御所が決まってしまったようです。
そういえば、さっきの法住寺の場所の説明で抜けていました。
祇園社も過ぎてさらに南に行って、六波羅にある平清盛邸を過ぎてちょっと行ったあたりが、法住寺です。
「この前みたいなことがあったら怖いからね。君の家の近くなら、すぐに来てくれるでしょ。」
どうやら保元の乱での一連の騒ぎが、随分こたえたらしい。
「ええ。知らせをもらえば、できるだけ早くに駆けつけられるように努めます。」
「そこは『まかせとけ! すぐに駆けつけてやるぜ!』と言ってほしいなあ。」
「安請け合いができない性格なんですよ。あと雅君も逃げるとか、抵抗してくださいね。」
「できるだけ頑張ってみるよ。」
「そこは『まかしといて。逃げ切ってみせるから!』と言ってほしいですね。」
後白河天皇は、僕の返しを聞いて楽しそうに笑った。
と、思うと急にそわそわしだした。
「どうしました?」
不審に思って問う。
「実はねえ、今日は紹介したい女性がいるんだ。」
おっと、またしても衝撃発言です。
誰ですか? と聞き返すと、となりの部屋から2人の女性が入って来て後白河天皇の側に座った。
「滋子だよ。ボクが譲位したら彼女と結婚しようと思ってるんだ。」
「滋子です。よろしゅうに。」
滋子さんが指をついて頭を下げる。
いやいや、他人に姿を晒してしまっていいんですか。
御簾の向こう側とかで良いでしょう。
「重盛クンは、ボクの身内だからね。良いんだよ。滋子も納得してる。」
なんと! 前々から気に入っていただいているとは思ってたけど、身内のように思っていただいていたとは。腐れ縁だと思っていた僕を許してください。
「滋子は、ボクの今様の支持者でね。」
・・・支持者に手を出すのはマナー違反ですよ、と心の中で思っておく。それより僕には気になることがあった。
「ところで、隣の方は?」
「ん、ああ。紹介が遅れてしまったね。滋子の妹の坊門殿だよ。滋子と一緒にボクの演奏に来てくれるのさ。」
すみません。一目惚れです。あまりに美人すぎて、まじまじと見てしまいました。
「なんだい、一目惚れかい?」
坊門殿を凝視したまま、固まってしまった僕を見て、後白河天皇がニヤニヤとしている。
いかん、ばれてしまった!
坊門殿を見ると顔をほんのりと赤くして俯いている。
か、かわいい!
その後のことは、よく覚えていない。
夢うつつのまま帰ってきたのか、気付いたら自分の部屋にいた。
「はあー、可愛い子だったなあ。また会いたいなー。どうやって帰ってきたか覚えてないけど、失礼なことしてないかな、大丈夫かな。」
「兄上、いますか?」
ついつい感傷にふけっていると、部屋の外から声をかけられた。宗盛の声だ。
「いるよ。どうぞ入って。」
気を取り直して声をかける。
入って来たのは3人で、宗盛と、宗盛と同じくらいの年頃で10歳くらいの女の子、それと・・・
「実は読みたい書があって、兄上がお持ちでないかと・・・、どうしました?」
「む、宗盛、そ、その子は?」
動揺しながら問う。
「ああ、すみません。勝手に連れてきて。父上が決めた僕の許嫁の清子ちゃんです。」
「清子です。よろしくお願いします、兄上様。」
清子ちゃんが可愛らしくペコリとお辞儀をした。いや清子ちゃんも可愛いけど、僕が見ているのは、清子ちゃんの後ろ。
「そ、そちらの女性は?」
「清子ちゃんのお姉さんの坊門殿です。」
ひ、一目惚れの君の再降臨だーーー!