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蚊帳の外


 久寿2年(1155年)7月


 近衛天皇が崩御された。


 3歳で即位されてから17歳で崩御されるまで、鳥羽法皇の院政のためにだけ存在されたのではないかと思える。

 物の哀れを感じなくもないが、接点があったわけではないので、本人がどう思っていたかは分からない。


 そして次の天皇が誰になるかだけど、上のほうではだいぶ揉めているらしい。

 候補者は崇徳上皇の第一皇子の重仁親王(15歳)と鳥羽法皇の皇女の暲子内親王(18歳)、そして・・・


 「そう、そして最後の1人は、今は仁和寺にいるボクの子(12歳)というわけさ。」


 紙に新曲を書き付けながら宮中の情報を教えてくれる雅仁親王。場所は今様いまよう友の会の部室として使っている宮中の一部屋。

 雅仁親王の今様仲間になってしまっていることには、深く突っ込まないでほしい。人間、何かに取り込まれてしまうこともある。


 それはそうと(強引に話題を変えたわけではない)、僕は疑問に思うことがあった。


 「雅仁親王様(28歳)は候補にならないのですか?」


 「やだなあ重盛クン。ボクのことは雅クン♪って呼んでって言ってるじゃないか。遠慮は無用だよ。さあ!」


 最近は抵抗する気力もない。もしやこれが噂に聞く洗脳というやつか。


 「はいはい、雅君は候補じゃないんですか?」


 「雅君じゃなくて、雅クンね。ボクは鳥羽法皇ちちうえから政治のことでは何も期待されていないからねえ。即位なんて、ないない。」


 だそうだ。

 このあたりの事情は、僕の未来知識も役に立たない。この時代の天皇が誰だったかなんて覚えていない。


 清盛パパや源頼朝と対決した後白河法皇や、壇ノ浦の戦いで時子かあちゃんと入水した安徳天皇、承久の乱の後鳥羽上皇なら分かるけど、どのタイミングで、どういう経緯で登場したのかが分からない。

 後白河法皇は時期的にそろそろ登場してもいいと思うけど。


 さっきの3人の候補だと雅仁親王のお子さんが怪しい。


 結果論だけど、保元の乱で負ける崇徳上皇の子が天皇になるとは思えないし、あの鳥羽法皇が崇徳上皇の子を天皇に即位させるとも思えない。暲子内親王の即位の可能性については、この次期に女帝がいたという記憶がない。もちろん、知らないだけという可能性は残っている。

 となると、可能性としては最後の1人しかないということになる。


 ちなみに今回の天皇即位について頼長様は動けない。

 先日奥さんがお亡くなりになって服喪中だ。


 その間にそれぞれの勢力が自派に有利な人物を即位させようと暗躍しているのだろう。


 「平氏は誰を押しているんだい?」


 僕の顔を覗き込むように雅仁親王が聞いてきた。


 「さあ。」


 正直に答える。

 この時代、誰が天皇になるかは宮仕えする者にとって、とても重要だ。

 現代の「誰が総理になっても変わらない」などというのとはまったく異なる。

 敵対勢力が即位でもしたら、即左遷だ。命にかかわる。

 平氏でも清盛パパがいろいろと画策しているはずだ。

 僕も平氏を継ぐ身としては、考えないといけないと思うけど、そんな時間があれば、仕事の1つもこなしたいと考えてしまう。


 そんな僕の答えを雅仁親王は面白そうに聞いていた。


 「さすがは重盛クンだね。平氏の物の怪だけはあるねえ。」


 「雅仁親王・・・雅君、そのあだ名はやめてください。」


 意識してみると、多方面に僕のあだ名が広がっているのに気がついた。命名者を見つけたら、しっかり抗議したい。


 「それよりできたのかい? さっそく重盛クンの新曲を聴かせておくれよ。」


 催促されて披露したのは「椰子の実」(島崎藤村)。今様いまようは、もう完全チート状態だ。音楽は偉大だ。


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