子守する者、される者
久安2年(1146年)
おはようございます。平重盛です。
もうお気づきかもしれませんが、昨年、改元がありました。
原因は、あの彗星です。
もう速攻で改元されてしまいました。
でも、もうそれはよいのです。
うちでは別のことで大騒ぎだ。
じいちゃん「播磨守」任官
播磨守は受領としては最高峰。次に昇進したら三位、つまり公卿昇進!
「父、正盛の代より苦節数十年、ようやっとここまできたわ。」
珍しくじいちゃんがはしゃいでいる。
それだけ苦労したんだろうなあ。
「ちょっと国府、見てこようかのう」
とか言って、めったに任国に下向なんてしないのに、いそいそと出立していった。
我が家の慶事は、これで終わりではない。
清盛パパ「安芸守」任官
来た!安芸だ。厳島神社だ。いよいよ平氏の隆盛って感じだ。
清盛パパも今回の任官では瀬戸内を押さえ、さらに西国とのつながりを強固にすべく気合いが入っている。
そうなれば、どう考えても安芸下向では、いろいろイベントが起きそうな予感がする。
付いていきたい、付いていきたい!付いていきたい!!
「いや、普通にダメだろ?」
清盛パパにあっさりと却下された。
まあ、これは仕方ない。家族を連れての下向は珍しくないが、今回は切った張ったというようなこともあり得る。清盛パパの邪魔はしたくない。諦めよう。僕は気持ちの切り替えが速いのだ。
その代わり、家のことはしっかりとやっておく。
「分かった。家のことは任せて。基盛の子守もしっかりしておくよ。」
清盛パパの前で頼れる男を演出してみた。
「いや、普通に子どもには任せられんだろ?」
また却下されたー!?
「え、じゃあどうするの?じいちゃんもいないし、母さまもいないよ。ばあちゃんだけだと大変でしょ?」
家盛のことは言わない。そして呼び捨てで十分だ!
「ん?ああ、ちょっとな。人を呼んだ。」
なぜか清盛パパは頭をかきながら気まずそうにしている。
僕はいぶかしげに、じーっと清盛パパを見上げる。
と、そこへ家人が駆け寄ってくる。
「棟梁、お着きになりやしたぜ。」
「ん、ああ、そうか。ご苦労。」
家人をねぎらうと、清盛パパが僕のほうに振り返る。
「んじゃ、出迎えに行くか」
いや、だから誰をだよ?
疑問に思いながらも清盛パパの後ろをついて行こうとする。
「その必要はないよっ!」
「ふえっ!?」
凛とした声に驚いて声のしたほうを見る。
スパンッと勢いよく戸が開かれる。
そこにいたのは袿姿の女性。
お客にしてはずいぶんラフな格好だな。
「清盛様、時子が来たよ!キラッ」
顔の横で親指、人差し指、小指を立てる決め姿勢。
僕と母ちゃん(時子)との初めての出会いだ。