第27話「無能力者、森を回復する」
僕らはジュピターに連れられ、クレセン島の都市部から離れた森へと連れていかれた。
そこで木を伐採して丸太にし、その丸太を彼女の魔法で木材に変えて家を建てるわけだが、他にもいくつかの材料を集めなくてはならず、他はみんなで手分けして探すことに。
そこはベイスンの森と呼ばれ、周囲を産地が囲んでいるためにその名がつけられたという。深い緑色の木々が風に揺られ、一斉に木の葉が躍っており、僕らを歓迎してくれているようだった。迷うことなく真っ直ぐ進むジュピターの後姿を眺めながらその距離を保ったままついていった。
「じゃあここにある木を伐採するけど――って木が涸れてるじゃない!」
「「「「「!」」」」」
ジュピターが両腕を上げてのけ反った。
気がついてみれば、枯れた木ばかりでとても家の木材としては使えそうにないばかりか、まともな木さえ全然なかった。切り株だけの木も少しばかりあったが、それはかなり前にやってきた時に伐採されたものと思われる。
入り口付近は森の景観を守るため、伐採する場所を限定していると聞いたが、これではもう伐採どころではない。
「この前来た時はたくさん木があったのに、どうして?」
彼女が呆然とした顔で目の前の惨状を嘆いていると、マーキュリーが枯れた木の表面に手の平を置いたままそれを見つめている。
「これはヒドラの毒。恐らくは山に棲みついていたヒドラが定期的に体内から猛毒を排出し、それが山の源流から水路を通って森にまでやってきた」
「どうして分かるの?」
「ヒドラとの戦闘で受けた毒と全く同じ毒が検出された。ここの水は猛毒に汚染されている」
「分かった。じゃあ今すぐ浄化してから回復すれば問題解決だね」
「えっ……回復?」
僕は右肘から先をガイアソラスに変えて両手を横に広げ、【浄化】と強く願った。
すると、瞬く間にこの森を蝕んでいた猛毒が僕がいる場所から周囲に広がるように浄化魔法のオーラが全方向へと拡散していった。
「ヒドラが持つ毒反応の消滅を確認」
マーキュリーが無表情で現象の説明を終えると、今度は【回復】と強く願い、全てを癒すオーラを拡散していく。
回復のオーラが森の木々に伝わっていき、さっきまで枯れていた木が次々と元の色を取り戻していったばかりか、切り株だけの木も枯れた木も全てが再生し、あっという間に元の力強く深い森の姿を取り戻した。
成長したのではない。森が回復したのだ。
「森の木の生命力の回復を確認。人間以外の別の生物の回復もできることを確認」
「……凄い。これが……回復術師」
「ふぅ、これで伐採できるよね?」
「え、ええ。あんたホントに凄いね」
「ありがとう。じゃあ伐採するから、下がってて」
「えっ、まさか」
「そのまさかだよ」
僕は目の前の木々に向かってガイアソラスを構え、それを勢いよく横に振った。
「【魔剣斬】」
木々の横一線に切れ目が入り、1つ1つの木がゆっくりとぎしぎしと音を立てながらバタバタ倒れていく。倒れた木をみんなに運んでもらっている間、僕は再び【回復】と強く願い、切り株になった気をまた元の状態へと回復させた。
これを何度も繰り返せば半永久的に木材を確保できるわけだ。
そのため何度か同様の作業を繰り返し、大きな家を建てられるくらいにまで伐採し、空き地には伐採した木の丸太が十分すぎるほど山盛りになっていた。丸太以外の材料も既にルーナたちが集めてくれていた。
「凄い。5階建てくらいできるんじゃないかしら」
「2階建てで十分だと思いますけど」
「どうしてもって言うならそうするけど、森に案内した後で木を運ぶくらいしかしていないからそこまで人件費はかからないわよ。それに大公の命なら公費になるわけだし」
「分かった。じゃあそれでお願いするね」
「じゃあ見てて。今から家を建てるから」
ジュピターがそう言うと、両手を伸ばして出来上がった家をイメージする。
僕らは彼女の魔法である【加工】によってその材料が次々と家の家具や壁といった建物の一部へと変わっていく様子を不思議な光景を見るような目で飽きることなくずっと見つめ続けていた。
あっという間に5階建てのホテルのような木造建築が建てられた。
横幅が長く屋根は三角のオシャレな外観となっており、僕らだけじゃなく、訪問してきたお客さんをたくさん泊められるくらいの大きさとなった。一定の距離ごとに小さな窓があり、最後に玄関と木造の塀を設置して完成した。
うん、立派な家だ。というかもう豪邸だよねこれ。
「うわー、ジュピターって凄いわねー」
「でしょ。でも疲れたぁ~。大きな家だったからちょっと魔力を使いすぎたかも……うっ、痛っ!」
突然、ジュピターが腰に手を当てながらその場に倒れこんだ。
「どうしたのっ!?」
「ちょっと腰を悪くしたみたい。最近運動不足だし、さっき丸太をいくつも運んでたから、多分そのせいかも。いてててててっ!」
「じゃあ回復するよ」
「えっ……」
彼女に向かって手をかざすと、青白い光が彼女を包み込み、体力が回復して表情から疲労感や腰痛が引いていくのが見えた。
何事もなかったかのようにすくっと立ち上がり、自分の状態を確認するかのようにぴょんぴょんとその場で元気よくジャンプしてみせた。
「あれっ、腰痛が直ってる! なんかポーションを飲んだ後みたい!」
「効果はポーションと一緒だからね――」
「気に入ったわ! ねえ、私もあんたのパーティに混ぜてくれない?」
「えっ、僕は別に構いませんけど、ルーナたちはどうですか?」
僕はルーナたちに尋ねた。リーダーとは言ってもほぼ暫定的だし、自分勝手に動くわけにもいかないからね。
「わたくしは全然構いません」
「私も賛成。家も建ててもらったしね」
「あたしは文句ないよ。メンバーは1人でも多い方がいいし」
「ワタシも異論はない」
「ありがとっ! これからよろしくねっ!」
ジュピターがウィンクをしながら僕に抱きついた。
「どっ、どうしてうちに入りたいと思ったんですか?」
「戦闘すれば運動不足の解消になるかなって思ったの。さっき故障したのも全然建築家の仕事をしていなかったせいだし、ここんとこ全然依頼が来ないから、パーティを組んで生活費を稼ごうって思ってたとこなの」
そう言いながら彼女が笑い、僕らと共に建てたばかりの家の中へ入っていった。
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