第28話「無能力者、家を手に入れる」
ジュピターが【加工】で建ててくれた家はただ大きいだけじゃなく、内装まで細かい上に頑丈で1つ1つの部屋がとてもおしゃれで広々としている。
1階は部屋の数が少ない代わりにキッチンがリビングと繋がっていて広々としており、天井の灯りは魔力を注入すれば光る仕組みになっている。
2階は娯楽用の部屋にする予定であり、3階以降は全て個室だが、これだけ広ければパーティの人数が増えても問題なく暮らしていけるな。ここは空気も澄んでいるし、ちょっと歩いた先には大都市の市場がある。ここほど良い場所はない。
後は家具を買って各部屋に置くだけか。
「「「「うわぁ~!」」」」
僕らは予想以上の出来栄えに驚愕した。マーキュリーは相変わらず無表情のままだけど、もうそんな彼女にも慣れてきたところだ。ジュピターは勝ち誇ったような笑みを見せ、各部屋へと案内してくれたが、まだ空き家の状態である。
「ねえ、家具はどうするの?」
「もちろん、明日には後で家具屋に発注して各部屋に家具を召喚してもらう予定よ。建設費用に入ってないけど、サービスしとくから心配しないでね」
「ありがとう。僕、自分の家を持つの、夢だったんだよね」
「へぇ~、そうなんだ~。あっ、ちなみにここの所有権は、プラネテスのリーダーであるアースのものだからね」
「ということは、ここが実質アースの家ってことになるわけだ。まあ、ヒドラを倒したのはアースだから、そりゃそうだよね」
「あのさ、もしよかったらだけど、みんなここに住んでもいいからね」
「「「「えっ?」」」」
ルーナ、マーズ、ヴィーナス、ジュピターの4人が一斉に顔を赤らめ、体をもじもじと動かし、緊張した様子でその場に制止した。
「……そ、それって、もしかして……けっ――」
「パーティの一員として。ふふっ」
「……あぁ~、そういうこと。あ、あはは」
ぽかーんとした様子の4人だったが、僕が台詞を最後まで言い終えると、急に目が点になったまま興ざめしたような表情へと変わった。
それはまるで、夢から覚めたばかりのような目だった。
「本当に住んでいいの?」
ジュピターが懇願するような顔で言った。
「もちろん。ジュピターの場合はすぐ近くに実家があるから、別荘ってことになるね」
「……実は私の家、売ることになったの」
少しばかり暗い顔でボソッと呟くようにジュピターが言うと、さっきまで緊張気味だったルーナたちが彼女の方を向き、すっかり冷静な顔へと戻っている。
「えっ、どうして?」
「私の家族が借金を残したまま死んじゃって。それで私が代わりに借金を返さないといけなくなってしまってね。それで建築家になったはいいけど、ここには元々優良物件を揃えた人ばかりが住んでいるせいで全然依頼がこないし、借金があるせいで亡命もできないし、それで家を売って、少しでも借金を返せればって思ってたところなの」
「家族の借金だったら、相続放棄すればいいんじゃないの?」
「それはあんたたちの国の話。ムーン大公国の場合、死んだ家族の借金は遺族が返済しないといけないって法律で決まってるの。返せなかった場合は借金の額に応じた年数分、国が用意した施設で働くことになってるの」
そうだったんだ。だから最初に会った時――妙に空元気な感じがしたわけだ。
本当はサービスなんてする余裕なんてないのに、僕らのためにこんなに快適な家を建ててくれているんだ。彼女の力になりたい。心からそう思い、彼女に一歩近づいた。
「借金ってどれくらいあるの?」
「100万ステラ。家族の会社が倒産しちゃって、失意のまま私だけを残して死んでいったの」
「じゃあ僕が払うよ。それくらいだったら――」
「駄目よっ! これは私の問題なの! 私が解決するべきなの!」
物凄い剣幕でジュピターが喉の奥から叫んだ。馬鹿にしないでと言わんばかりの顔だ。自分のことを自分だけの力で解決しようとするあたり、とても責任感が強い人だ。
なおさら助けたい気持ちが強まった。
ここは素直に頼ってほしいな。
「……なんか勘違いしてない?」
「勘違いって……何よ?」
「ジュピターの問題はプラネテスの問題でもあるんだよ。だからできる限りのことはさせてほしい。困ってる人を助けるのは当たり前のことじゃないか。君の辛さは僕の辛さでもあるんだよ」
「!」
僕は思わず歩み寄り、彼女の両手を掴んでいった。
ジュピターが赤面し、段々と身構えたような表情が柔らかく解れていく。
「そ……そんなこと言われても……」
「1人はみんなのために、みんなは1人のために。ムーン大公国の標語です。プラネテスの一員となったあなたを助けないことは、大公国の方針に反することになります。大公の娘として、この方針を無視することはできません。力になりたいんです。どうかお願いします」
ルーナが頭を下げながら協力を懇願する。
「あーあ、大公令嬢に頭を下げさせるなんてまずいんじゃないの~?」
「わっ、分かったわよ! でも……借金は私の手で返すから」
「ではこういうのはどうでしょうか? 今後あなたにはプラネテスの一員としてここで働いていただいて、その報酬を借金を借りた人に返すということで」
「国を出る場合はどうするの?」
「その時はわたくしたちがジュピターさんを監視するという名目で、ジュピターさんの外出を許可していただきます。パーティを組む場合なら理由としては十分でしょう」
「……」
ジュピターが小さく口を開いたまま黙った。
その顔はありがたいと思う気持ちと申し訳ないという気持ちが入り混じっているようだった。彼女の中にある気持ちが緩んだのと同時に、目からは大粒の涙が頬を伝い、彼女の手を握っている僕の手にこぼれ落ちた。
「……! あっ、ごめん!」
手を握っていることにようやく気づいた。
勝手に触ってしまっていた。とても柔らかくてすべすべしたジュピターの手の感触を思い出して急に恥ずかしくなった。
「いいの、気にしないで。それと……ありがとう」
精一杯の感謝の気持ちを口に出して僕に正面から抱きついた。
今までずっと誰にも頼れなかったことがすぐに分かった。たった1人で孤独に戦い続けていたことを彼女の体の震えが訴えてくる。言わずとも分かる。本当は寂しくて、辛くて、今にも折れてしまいそうな彼女の心の悲痛が直に伝わってくる。
「これからよろしくね」
「……うん」
僕はそっと柔らかい体を抱きしめた。仲間同士助け合うことを誓って。
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