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悪逆聖女は祈らない  作者: 雪途かす


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零:悪逆聖女

 大陸の東に構える大国、コクタイル王国。


 千年前、天地創造の女神から力を授かった聖女が、初代国王と共に建国したとされている。

 それ以来、一代につき一人の聖女を擁立し、《聖なる祈り》の力をもって栄えてきた、歴史ある国だ。


 魔法も存在するこの世界において、聖女が発する《聖なる祈り》は、あらゆる穢れを祓い、国に幸福と繁栄をもたらす強大な力だとされている。


 事実、近隣諸国で大嵐や土砂崩れ、干魃といった災害が頻発している状況の中、コクタイル王国だけは無事に済むことが多かった。


 それはひとえに、聖女による《聖なる祈り》のおかげだと、国王も国民も疑うことなく信じていた。


 そして《聖なる祈り》は、先代聖女が後継者として指名した者にのみ継承される。

 聖女は一代に一人だけ、先代に選ばれし者だけが、その座に就くことを許されるのだ。


 それ故に、聖女とは絶対であり、神の代行者にも等しい存在であった。


 ――だが。 


 六十六代目となる今代の聖女、アルディラは違った。


 先代から指名を受けて一年間、彼女はただの一度も、《聖なる祈り》を捧げていない。


 本来であれば、聖女は毎日、王都の神殿にて神に祈りを捧げる。

 それこそが国を護る要であり、聖女に課せられた唯一にして絶対の責務であるはずだった。


 しかし彼女は、その責務を果たそうとする素振そぶりすら見せなかった。


 祈らない。

 民の前にも立たない。

 ただ沈黙を貫き続けるのみ。


 先代の聖女に指名されたにも関わらず、一切聖女として振る舞おうとしないその姿に、次第に国民は不安を覚え、やがて、それは明確な反感へと変わっていった。


 だが、聖女は一代につき一人。


 いかなる理由があろうとも、命尽きるまでその座を退くことは許されないと、国の法で定められている。


 当然、人々は疑問を抱いた。

 何故、前聖女は彼女を選んだのか、と。


 その疑問はやがて憶測を呼び、金で地位を買ったではないか、あるいは前聖女を脅したのではないか、そんな噂となって、瞬く間に王国中へと広がっていった。


 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになった。


 悪逆聖女、と―――――。

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