表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士ホルスタイン  作者: コジュ
1/43

プロローグ 空飛ぶぬいぐるみ

 なんてきれいな眺めでしょうか

 真下に広がるのは広大な草原、濃い緑色の森。右手には高い山々がそびえ立っている。左手には太陽の光を浴びてキラキラと輝く海、海沿いには白く大きな城やレンガの家が並んでいた。

 心地よい風が耳元を吹き抜ける。まるで空を飛びながら国を見下ろしているようだ。

 ん? 空を飛びながら? そういえば、視界の下半分を見ても足場となるものは何もない。視界の右端には大きな鳥の羽が音を立てて羽ばたいていた。

 ああ、そうでした。この大きな鳥のモンスターが私を食べ物と間違えて、運ばれてしまったのでした。安全な場所に降りられるといいのですが。

 それにしても、美しい眺めですね。おや、先ほどは気づきませんでしたが、真下の草原に家がありますね。

 草原の中に一軒だけ小さな家があった。だんだんと大きく見えてくる。家が大きくなるわけが無いので、私が地面に近づいているのだろう。鳥が地面に降りようと高度を下げているのだろうか。不意に前方を見ると、鳥のモンスターが颯爽と飛んでいった。

 え? あの鳥今まで私をついばんでいた鳥ですよね。ということは、私落下しているのですか!? あの鳥、食べられないと気付いて放したのですね!

 この高さから地面に叩きつけられたら……。私は激痛を想像して背筋が凍りついた。

 しかし、落下は止まらない。加速していくばかりだ。このままでは、次の瞬間には草原に顔面から着地するだろう。せめて目をつぶりたいが、それすらできない。

「ぽふっ」

 いった────くない?草原に顔面から着地したが、想像したような体の痛みは無く、それどころか何も感じなかった。一瞬困惑してから、私は気づいた。

 ああ、そういえばそうです。私の体はぬいぐるみでした。

 この体は痛みを感じることはない。さらに、柔らかい綿が詰まっているから、高いところから落ちても、壊れたりはしない。瞼が無いし、体を動かすことはできないので、ガラス玉の眼玉に草が当たったまま動けないが、体に外傷は無いようだった。

 私はしばらくそのまま草原に顔をつけていた。というより、体を動かすことも、声を出すこともできないので、そうしている他無かった。私にできることは、唯一考えることだけだ。

 美しい眺めに夢中になって、気にしていませんでしたが、私は一体何者なのでしょうか。いくら思い出そうとしても、あの大きな鳥に啄まれるところからしか思い出せません。ぬいぐるみがものを考えているなんて、普通ではありませんが、私がそれを考えているということが、その何よりの証明ですし……。

 私の思考が錯乱してきた頃、女の子の声が聞こえた。

「あれ? ぬいぐるみの牛さんだ!!」

 ピンク色の髪をした少女が、私を両手で拾い上げた。頭の上に掲げて、私と目を合わせる。

「あなた、ひとりなの? ナコとおんなじだね。ナコと一緒に暮らそうよ! うーん、牛だからモーくんだね」

 少女は満面の笑みを私に向けて言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ