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 無事国境を越えた俺とメシアは再び街道近くを歩いていた。

 メシアはいつの間にか頬袋をぱんぱんに膨らませながら俺の肩に乗っている。


≪このままいけば王国のコレックリルトという町があるわよ≫

「コレックリルト……ですか。どんな町なんです?」

≪聖国の国境に一番近い町だから、宿場町になってるわね。そこそこ大きな町よ≫


 ここはトライスデント王国というらしい。

 そして聖国アルファーゼとの国境近くだから、多分貿易で馬車とかが多く通るのだろう。だから発展していったんだろうね。

 しかし宿場町か。温泉街みたいな雰囲気なのかな。それは楽しみだ。


 ま、先立つものがあれば、だけどな。


「記憶がなくても分かるんですね」

≪多分昔行ったことがあるんだと思うのよ。コレックリルトは聖国から王国の王都へ行くには必ず通る場所だからね≫


 何となく楽しげなメシア。

 そういやこいつって、教団に良い感情を持って無さそうだったし、きっとそこから離れられたのが嬉しいのだろう。周りの臭いをかぎつつ、周囲の景色を楽しんでいるように見える。

 それに釣られ俺も周りを見てみると国が違うせいか、聖国とは違った景色だ。聖国は人というか誰かの手が入ったような景色だったけど、こっちは本物の自然って感じ。土や木の臭いがはっきり分かる。

 そうだよな、こいつだって動物なんだし自然は好きなのだろう。


 だが、現実は甘くなかった。


≪あ、それと、ここからは魔物が出るから気をつけてね≫

「え、魔物!?」


 もしかしてさっきから臭いをかいでいるのは、空気を味わってるんじゃなく、敵がいないか調べてる!?

 そういう重要な事は先に言えよ!

 俺の驚いている顔を見たメシアが、やれやれ、といった感じで首を横に振った。


≪やっぱり知らなかったんだ。聖国は女神カサライデが守護しているから魔物は出ないのよ。でも他の国は違うからね≫

「聖国ってユートピアみたいなものですか」

≪ユートピア?≫

「楽園とか理想郷、のようなものです」

≪なるほど、変な言葉ね。でも魔物が出ないだけで他が酷いからね。国王はいるけど実質支配しているのは教団だし、税金が高く清貧を推奨してるし……。とにかく教団の連中はお金にがめついのよ。世の富は守護である女神カサライデに捧げなければならない、なんていう理由をつけているけどね≫


 国境の壁とか魔物が出ない、なんてものがあるんだから女神の守護ってのは事実だろうし、それに対する対価を出すってのは理解できる。

 でもさ、この世界の神様は分からないけど、対価ってやっぱり俗物じゃなく信仰心とかじゃないのかな?

 多少のお供えは理解できるけど、富を全部女神へってのはなんか違う気がする。


「お金を捧げても女神自身は人の居る町とかにこないですよね? まさか女神の住んでいるところも人のお金が使えるって訳じゃないでしょうし、使う場所のないお金を捧げても意味などないですよね」

≪ケイって面白い考え方持ってるわね。女神が降臨すればそれは一大事になるわよ。ま、とにかく貿易は行うけど聖国にはあまり関与しない、というのは他国の共通認識よ。それより私も警戒はするけど、魔物に気をつけてね≫

「私じゃ逃げるしかできなさそうですけどね」

≪それでいいのよ。魔物を倒すのは騎士や冒険者の仕事だから≫


 冒険者!

 やっぱりいるんだ、冒険者。まさかそんな名詞が聞けるとは思わなかった。

 やはりソードマスターとかウィザードとかプリーストとかいう職業があるのかな。

 それともレベル制? いや、スキル制か?

 まさかステータス、とか言っちゃうと自分のパラメータが見えるとかある?

 言っちゃう? 言っちゃう?

 言っちゃえ!


「ステータス!」


 高らかにそう叫んだ。

 ……。

 …………。

 ………………。


 だけど何も起こらなかった。


≪……何やってるの?≫

「何でも無いです」


 メシアの何となく覚めた目がとても痛かった。

 ……でもちょっとだけ快感かもしれない。


♪ ♪ ♪


≪職業? スキル? レベル? 何それ≫

「あ、やっぱりないのですか」


 あれから、パラメータ、表記、属性表示、状態表示などなど色々と試したが一切何も出てこなかった。寂しい限りである。

 最後にはスルーされていたメシアに恥を忍んで冒険者や戦いの事を聞いてみたけど、ゲームのようなものは一切なかった。

 ではどうやって強さを計るのか、と聞いてみたら、単に実績を重ねてランクを上げていくらしい。ランクの高い者は基本強いんだって。ランクは銅、銀、金、白金とあって、それぞれ三段階ずつ、つまり十二に別れている。銅三が一番下で、白金一が一番上なんだってさ。

 そして職業というのはないけど、それぞれ得意分野の得物で識別する。例えば剣を主体に攻撃するものは剣士、魔法なら魔法使い、などだ。

 でも大抵は、剣が得意です、攻撃魔法を少々使います、といった大まかな説明しかしない。


≪それに冒険者なんてはっきり言えば何でも屋みたいなものよ。お勧めしないお仕事ね≫


 一定の年齢以上なら誰でもなれるので、仕事にあぶれた人たちの最後の砦が冒険者だそうだ。その分粗野な者が多く、暴力を振るったりするから町の人には結構嫌われているらしい。また、冒険者ギルドは基本中立を保っていて、余程の事がないと仲裁は行わない。

 そのためか、評判の良い冒険者に仕事が集中するようだ。

 それ故、評判が良ければどんどん仕事がきて実績が積まれ、ランクが上がっていく。逆に粗野で乱暴なものは仕事が殆どなく、落ちぶれていく。だからランクの高いものと低いものでは対立もあるらしい。

 それって自業自得だよな。

 ただし駆け出しは当然仕事を選べないのでじり貧生活になってしまう事が多々ある。だからある程度資金を持っている者以外、普通はお勧めできない。

 また冒険者以外にも傭兵団という人たちもいるそうだ。こちらは金さえ払えば確実に仕事をこなすプロの集団であり、滅多なことでは依頼放棄をしない。その分お高く、金持ちしか依頼できないんだって。

 ぶっちゃけ依頼料の安い冒険者よりも傭兵のほうが人気はあるらしいが、傭兵団へ入団するには一定の実力や規律を遵守するかの試験があり、それに合格しないと入れない。だからか冒険者で経験を積んでランクが上がると傭兵へ転職する人も大勢いるそうだ。


「どのみち戦ったこともない私じゃどっちにもなれません」

≪だよね。ケイは見た目ならどこかの貴族の娘と言われても納得できるし、外見を生かしたお仕事をすれば良いと思うわよ≫


 ん? 外見は貴族の娘なんだ。というか貴族っているんだな。

 そういや自分の姿って見たことない。鏡でもあれば良いんだけど、ないよなぁ。

 しかし……新しい生活か。

 とにかく訳も分からず追いかけられたので逃げてきた訳だけど、これから先どうすべきなのか。このままこの世界で一生を過ごすのだろうか。それとも元の世界に戻れるのだろうか。

 でも、いくら考えても分からないし、まずは地に足を付けた生活をすべきだろう。生活基盤を整えるのは生きていく上で必要だ。


 やはり衣食住が揃ってないと生活基盤とは言えない。

 そして優先度の高いものは、仕事と住むところだ。飯は最悪メシアに果物とか採ってきて貰えば大丈夫だろう。栄養的に偏ってしまうけど餓死するより遙かにマシだ。

 でもって仕事だけど、メシアが言うには外見を生かしたものが良いらしい。

 宿場町というくらいだからおそらく宿屋がたくさんあるのだろう。そこのハウスキーパーなり飯屋や酒場のウェイトレスの仕事があれば、手っ取り早い。宿屋なら住み込みも交渉次第では出来ると思うしな。


≪ケイッ! 逃げて!!≫


 つらつらと今後の事を考えていたら、緊迫したメシアの声が届いた。

 どうしたんだ? と口に出す前に、何かが俺目がけて飛んできて、そして肩に鋭い痛みが走った。


「があぁぁぁぁぁ!!」


 痛いっ! 痛いっ!!

 咄嗟に手で肩を押さえようとしたが、何か小さく丸いものがいることに気がつく。


≪ニードルフォックス!≫


 額に鋭い角のある、茶色の体長三十センチくらいの生き物だった。

 ただ、その角が俺の左肩を貫いていた。どくどくと真っ赤な血が流れ、白い服を赤く染めている。

 めちゃくちゃ痛い。

 痛みで地面を転げ回るが角には引っかかりがあるのか、全然外れない。

 ちょっと……これ、やばい?

 痛みでだんだん意識が薄れてきた。


≪ケイ! ケイ!≫


 必死で呼びかけてくるメシアだけど、徐々に痛みが薄れ目が閉じてくる。

 あ……ダメだ。

 死ぬ。

 ……。

 …………。

 ………………。


 そして俺は暗闇の世界へと落ちた。



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