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学校にある怪談  作者: 春日向楓
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生と死を繋ぐもの

「観光する気分にもならないわね」

「ガンコツ先生にも報告出来ないよ」

「そうねー…」

2人はルームサービスの朝食を済ませ、オレンジジュースを飲みながら、昨日の志穂子の姿を引きずっていた。



「慎太郎さんのお墓って……何処にあるのかな…」

ぽつりと翔太が言った。

「何、お墓参りでもして帰るの?」

「君って…遺骨が有れば慎太郎さんの最後の声聞けるんじゃないの?」

「え?あー…うん」

「何で?昨日志穂子さんに、言ってあげなかったの?」

「んー…彼女に分かってもらえるかな?って、特殊なのよ。私達を必要とする人達って…」

「そんな事…分る様に説明すれば……」

「そう何だけどね。慎太郎さんが亡くなった時。色々調べたけれど何も分からなかったって言ってたでしょ……何か、表に出せない事情が有るとか…良い事ばかりじゃ無いのかなって」

「そんな……」

「知らなきゃ良かった事だってあるじゃない。それに、普段親に言われるがまま行って来たけど、私自身も違和感だらけなのよ……いたずらに死者の眠りを妨げるのも……どうなのかな?って……」

「でも、志穂子さんだって、あれだけ知りたがってたじゃん!いたずらにって言うけど、財産うんぬんよりよっぽど、人助けになるんじゃないでしょうか?」

「うん………」

「何よりも、慎太郎さんは志穂子さんに伝えたがってた。それは確実だし、慎太郎さん自身、悔いが残ってる筈…なんじゃ!」

「そうね…そうよね」

桜は、じっと考え始めた。


「分かった、ありがとう。聞いてみる価値はありそうね。そうだ!ここのオーナーに協力してもらうわ。善は急げよ!」

決心が付いた様に立ち上がると、桜は何処かへ電話を掛け出した。



ホテルから出ると、目の前にリムジンが横付けされた。

翔太は脇によけ、リムジンの後ろへ回ろうと……


いきなり、桜が翔太の腕を引っ張った。

『わっ!』思わず声が出た。


運転手が車の後ろのドアを開け、2人を招き入れた。

当たり前の様に滑り込む桜。

『???』

「早く‼︎」

翔太は、桜に引きずり込まれる様に乗り込んだ。

広い車内には、玉虫色の手触りの良さそうな生地のスーツを着た、40代位のおじさんが、優しそうな笑顔で迎えてくれた。

「久しぶりだね、桜ちゃん」

「おじ様。お久しぶりです」

桜は自然に挨拶し、その男性の向いのシートに座った。


『援交ーーっ⁈やばいんじゃない』


「何て顔してんのよ。早く座って!」

翔太の腕を軽く引っ張った。

「あ、初めまして、藤城翔太です」

翔太は緊張しながらお辞儀をし、桜の隣に座った。

「こんにちは。ここのオーナーの最上大輔です。よろしく」

そう言うと、翔太の目の前に手を出した。

『へ?』

翔太は恐る恐る手を出すと、翔太の手を掴みガッチリと握手した。


花畑に着く間、車の中では桜が最上に詳しい話を聞かせていた。

「分かったよ。任せといてくれ」

どうやら桜は、お得意様の最上に志穂子への説得の協力をお願いした様だ。


花畑に着くと、3人?いや、翔太を見つけた志穂子が嬉しいそうに駆け寄って来た。

「来てくれたの。嬉しいわ……って言っても昨日の今日だけど…忘れ物?」

そして最上を見て、ちょっと不思議そうな表情でお辞儀をした。

志穂子は3人を座らせると、隣の売店へ向かった。

「秋田川さん!…」

桜が呼び止めた。

志穂子は振り返りその場にとどまった。

「慎太郎さんと…お話…したくありませんか?」

「?……」


当然だろうが…志穂子には桜の言っている意味が、全く理解出来ていないだろう。


「私。亡くなった方と、その家族を繋げる仕事をしてるんです」

「仕事?…って、あなたまだ中学生じゃないの?」

「秋田川さん。実は私も、色々と彼女には世話になっているんです。未だに重大な事を決める時は、彼女にお願いして、先代と相談してるんです」

「はー……そうなんですか?何か、凄いお話で、私には、何を仰っているのか…ごめんなさい。付いて行けなくて…」

志穂子は心の苛立ちを隠そうと、笑顔で誤魔化したが、その笑顔は余り上手に出来てなくて、少し強張っていた。


『お願い…怒らないで聞いて……』

翔太は、少しずつ苛立ちを見せ始めた志穂子に、焦りを感じていた。

納得させられる言葉が浮かばない、説得出来無い自分に苛立った。


「彼女に任せて見ては如何ですか?」

そして、最上の言葉に、完全に笑顔が消えた。

「あなた達……冗談にしては…悪趣味よ」

志穂子の手が震えている。


『駄目‼︎信じて……』


堪らず翔太は、勢いよく立ち上がり

「お願いです‼︎試して見て下さい‼︎

慎太郎さんが最後に、あなたに何を伝えたかったのか?聞いてあげて…お願い‼︎お願いします」

翔太は志穂子の前に立ち、深々と頭を下げた。

志穂子はその様子を、ただ見ていた。


「翔太?」

桜が声をかけた。


「分かったわ……そうね。そんなに言ってくれるなら、試して見る価値は有るのかもね……お願い…します」

志穂子は桜に頭を下げた。



最上は迎えの車でホテルに戻った。帰り際、

「役に立てなかったね。そちらのボクがいれば充分だ…良い相方だね」

そう言ってニッコリ手を振り、車に乗って帰って行った。

3人は最初に乗って来た最上の車で、慎太郎の墓にやって来た。


3人は慎太郎の墓前で目を閉じ、合掌をした。

「秋田川さん、良いですか?慎太郎さんの遺骨をお借りします」

桜は慎太郎の骨壷から、小さな欠片を1つ手に取り、それをガラスの小瓶に入れた。


桜達の泊まるホテルに戻り、部屋に志穂子を招き入れた。

部屋に入るなり、志穂子は暫し固まっていた。


「早速始めましょう」

桜が促し、翔太に自分の肩に触れている様に告げ、そして、片方の手で志穂子の手を握った。大きく深呼吸し目を閉じた。

「皆さんも、目を閉じて下さい」

桜に言われて、志穂子と翔太は目を閉じた。

暫くして、暗い闇の方から、1人の男性がこちらに向かって歩いて来る。

その影はだんだん大きく

「慎太郎‼︎」

志穂子が叫んだ。

「あぁ、母さん!」

姿形、表情もはっきり見えた。

その男性は24、5歳位で、癖っ毛の髪に目鼻立ちのはっきりとした、どちらかと言えば志穂子似の綺麗な顔をしていた。

「慎太郎。久しぶりね……」

志穂子の目からは、後から後から止めどなく涙がこぼれ落ちている。

「母さん、ごめんね。1人にしちゃって」

「本当に……親不孝者‼︎」

拳を慎太郎に向け、殴るふりをした。

「ごめん、本当にごめん……」

そう言って慎太郎も涙をこぼした。


ふと、顔を上げ、慎太郎は何かを思い出した。

「あれ?……彼女は何処?……あの時、母さんに合わせ様と……」

「彼女?…」

「あーそうだ。本当は一緒に帰る予定でいたんだ。それが、彼女の仕事で遅れる事になって…僕だけが先に向かって……事故に……ああ」

慎太郎は両手で顔を覆って、微かに声を漏らした。

その声は3人の胸を締め付けた。ただ暫し、見守る事しか出来無かった。


「彼女が空港着いたら迎えに行く約束だった……」

「その女性は…どう言う?」

「結婚の約束したんだ」

「でも、あの事故の後…あなたの友達や周りの人に、色々聞いたけど…そんな気配全然無かったわ…」

「知ってたのは、極一部だったからじゃないかな?……」

「それにしても、あなたが亡くなった時もそれらしい女性は……普通恋人が亡くなったって言うのに何も無いなんて……そんな事有る?

あなた本当に付き合ってたの?勘違いって事は無い?」

「…………」


『志穂子さん、そんなに攻めちゃ慎太郎さん、可愛いそうだよ』

志穂子の遠慮無い突っ込みに、だんだん自信を失いかけている慎太郎が、翔太には少し気の毒に思えて来た。


「何してる人なの?今頃はもう他の人と結婚して、幸せになってるでしょうけど……あ、ごめんなさい。

あなたが結婚を考えてた人がどんな女性なのか、ちょっと知りたいな……って」

志穂子は人並みの母親らしく、一人息子の恋愛に関心が持てる事に、忘れていた幸せを感じていた。

「そうだね……学生の時から小説書いてるんだけど、結構人気みたいで…」


『小説家か……そろそろ母さんに連絡入れて置かないと、心配するかな……』


「そうなの……」


「茜さんて言うんだ……ちょっと気が強くて…でも、優しい人…幸せになってくれてるといいなぁ……藤城茜さん」


「ふーん……………ひぇ⁉︎」

翔太は思わず素っ頓狂の悲鳴を上げ、両手で自分の口を塞いだ。


「えっ‼︎」

桜と志穂子が、ほぼ同時に声を出した。


「何?どうしたの?そう言えばさっきから気になってだけど、君は……誰?」

慎太郎が翔太に尋ねた。

「翔太…」

翔太は小さな声でボソッと答えた


「藤城翔太‼︎」

桜が叫んだ

「藤城……翔太?」

慎太郎は首を傾げ考え込んだ。

「翔太君!お母さんの名前は?…何て?」

志穂子が翔太に詰め寄った。

「藤城………茜…」

更に小さな声で答えた


「小説家よね!」

桜は更に責める様な強い口調で確認した。


「ちょっと待って、ちょっと待ってね。えーと、多分えっと……」

動揺を隠せない志穂子が、必死に何かを考えているが、頭が回らない。


「多分……お父さん‼︎だと思う。空港ですっぽかされた話も聞いた事あるし…知らない土地で、5時間待ってもこなかったって……」

翔太が申し訳なさそうに話しだした。


「えーっ!」

志穂子と慎太郎が、驚きの様な歓喜の様な声を上げた。


「ごめんなさい‼︎ごめんなさい‼︎勘違いだったんです!

母を責めないで下さい。

ずっと捨てられたと思ってて……ずーっとずっと恨んでたんです。馬鹿野郎だって聞かされてました。おたんこなすとも…」

『何言ってるの翔太……』

桜は軽くパニックになって、訳分からない事を言い続ける翔太にハラハラした。

「慎太郎さんが居なくなってから、僕がお腹にいる事に気付いて……ずっと1人で、僕を育ててくれて、だから?いやそんな訳で1度も結婚何てしてません」

志穂子はいきなり、翔太を抱き締めた。

「初めて会った時から…何かそんな感じがしてたの……嬉しいわ」

その力はどんどん強くなり、翔太を締め付けた。

『くっ、苦しいーっ!』

「あ、ごめんなさい。苦しかった?もう、嬉しくって!どうしていいか分からないわ」

志穂子は飛び上がらんばりに歓喜し、慌てて翔太を離した。

慎太郎はシュンとして立っていた。



「あの…秋田川先生の事嫌いですか?」

翔太は慎太郎に尋ねた。

「父さん?何故急に君が父さんの話?でも、君のお爺ちゃんだけどね。懐かしいな……だけど、父さんも事故で死んじゃったんだ。色々話たかったけど、いつも仕事が忙しくて、殆ど家に居なかった…久しぶりに会うと照れ臭くって、顔を合わせる事も出来なかった……もっと話をしておけば良かったな……」

慎太郎は淋しそうに言った。

「本当にあの人は仕事馬鹿だったから……」

志穂子も懐かしそうに笑った。



「あの…茜ちゃんに会う事は出来ないかな?あの時の事、謝りたいし……茜ちゃんに会いたいな……」

寂しそうに呟く慎太郎。

翔太は、桜の顔を伺った。

「私は、いくらでも大丈夫よ。でも、その為には遺骨が必要だけど…」

「私からもお願いします」

志穂子はそう言って、桜に深々と頭を下げた。



「桜さん。ありがとうございます。疑ったりして、ごめんなさい」

「いいえ。初めはみんな同じ様な反応だから、お気になさらないで下さい」

「本当に、ありがとう。生きる活力が湧いて来たわ。

長生きするわ。」

志穂子はガッツポーズをして見せ、照れ笑いをした。



「元気でね。また、遊びに来てちょうだい」

別れを惜しみ、志穂子は何度も翔太を抱き締めた。

「あの…また、来ます。良かったら、秋田…おばあちゃんも……遊びに来て下さい」

翔太は照れながら、志穂子に精一杯の言葉をかけた。


志穂子に見送られ飛行機に乗った2人。

機内でほっと、一息つく

「思いも掛けない事態になったわね〜」

桜は腕を組み、ふーんと唸った。

「ん?って事は……ガンコツ先生は、僕のお爺ちゃん?えーーっ!」

翔太はちょっと複雑な溜息をついた。

「そうよ。私がガンコツ先生を成仏させてあげましょうって言ったから、あなたのお父さんの事も分かったのよ。いわゆる依頼者はあ・な・た……分かる?」

「はぁー…でも、それは偶然で……」

「いいのよ。別にお金を取ろうって言うのじゃないわ。あなたの出来る事をしてくれれば良いのよ。今後、私に協力してね」

そう言って桜は、シートを倒し寝たふりをした。

「えーー⁈」

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