終章(エピローグ)
夢をみた。
ここは宇宙。
つまりは無重力。
目の前を魚が横切った気がしたが、気のせいだろうか?
こうも暗くては見えるはずがない。
自分は誰だろう?
体を持たない意識だけの存在が、この真空の宇宙空間を漂っているのだろうか?
地球の大気に含まれてしまうことができれば、また生まれおちるチャンスを待つこともできるのだろう……。
そういえばそんな話をしたことがあった気がする。
あれは誰だったか?
その誰かが電話をかけてきてはくれないだろうか……。
電話? そういえば携帯電話はどうしたのだろう?
そうだ。ポケットの中だ。こんなに濡れてしまっては、もう壊れてしまったかもしれない。
濡れる? そうか。ここは宇宙などではない。水の中だ。
重力と水の抵抗を感じているのは、感覚器官を持つ生物。それが僕の正体。
そして〈僕〉という一人称を感覚的に理解している知的生命体。つまり人間だ。
しかし宇宙だろうが、水の中だろうが空気がないのに変わりはない。苦しいのはそのせいだ。そして、人間は空気がなければ生きてはいけない。
そう決めたのは一体誰だろうか?
神様だろうか?
何かが見えた気がした。
落ち着きのないアメーバのようにゆらゆらと震えている。あれは水面に写る月か?
それを信じるなら上はこちらの方だ。
僕は上に行きたいのだ。翼を持たない生命のもどかしさからではなく、これは本能だ。
とにかく、上に向かおう。神様に文句を言うためではなく、キミに会うために。
橋から落ちてしまった僕を心配しているはずだから。
そして「僕はもう大丈夫だよ」と言うべきだろう。
いや、違う。「僕はキミを知っているよ」と伝えよう。
きっと彼女は笑ってくれる。
そうだ。それがいい……。




