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手合わせなんてどうだ



 中級。


 簡易的な案内板にそう書かれているのを見ながら、俺は二階へ続く階段を上っていた。


 宗介は初級。


 壬生は上級。


 で、俺は中級。


 見事なくらい綺麗にバラけたわけだが。


「……実際、中級ってどんな感じなんだろうな」


 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。


 なんとなく、学生ばっかりの集まりを想像していた。


 こういうのって、年齢ごとに分けた方がやりやすそうだし。


 でも、実際に案内された会場の前まで来たところで、その想像はあっさり外れることになる。


「……思ってたのと違うな」


 正直な感想が、それだった。


 広めの会議室みたいな空間。


 前方には演台とホワイトボード。


 会議用の椅子やテーブルは畳まれて、端に立てかけられている。


 で、その参加者らしい人が2、30人ほど。

 顔ぶれも想像と全然違った。


 二十代後半くらいに見えるやつもいれば、三十代、四十代くらいに見える顔も普通にある。


 いや、なんで社会人みたいな人までいるんだよ。


 もっと若者向けの制度とかじゃなかったのか?


 ……いや、よく考えたらそんなこと誰も言ってなかったな。


 それにしてもだ。


「アウェーすぎるだろ……」


 思わずそう漏らした。


 中級組。


 もう少し他校の学生もいて、わちゃわちゃしてるもんかと思ったが。


 想像してたより、ずっとガチっぽい。


 周りを見回す。


 いや、まぁ正確には何人か制服のやつはいるが、


 結局は話しかける気にはなれない。


 いたとしても、だった。


 だって俺は高校一年生だし、


 顔を知らないってことは十中八九、歳上だろう。


 先輩に楯突くようなリスクを背負う勇気もない。


 そしてそんな中、参加者らしき高校生で、一際目立つ存在がいた。


 背が高い。


 姿勢がいい。


 横顔だけでも分かるくらい整った顔立ちで、しかも隣にいる年上の参加者と自然に話している。


 笑い方も柔らかい。


「いやいや、そんなことないですよ。僕なんて、まだまだ」


 なんて声が聞こえる。

 

 なんというか、感じがいい。


 でも、それだけじゃなかった。


 初参加のはずなのに、妙に場に馴染んでいる。


「……くそ、めっちゃでき杉さんだな」


 別に偉そうでもない。


 目立とうとしてる感じでもない。


 しかも高身長ハイスペックイケメンときた。


 そういう意味では、壬生とはまた別のタイプの目立ち方だった。


「あぁいうのが、クラスの一軍だったりするんだよな」


 と皮肉じみたことを呟きながら、俺は集まりから一歩退いた壁際に背を預ける。


 それから少し経って、


 会場の前に一人の男が現れた。


 三十前後くらい。


 がっしりした体格。


 スーツではあるが、いかにも現場上がりって感じの顔つき。


 だがさっき説明してくれた九条雅臣と比べると、そこまで覇気を感じないくらい。


「中級組の担当をする佐伯だ」


 声はそこまで大きくない。

 優しそうな声だった。


 ざわついていた会場が自然に静まる。


「ここは初級みたいに基礎だけやる場じゃない。かといって上級みたいに実戦を前提にした扱いでもない。中級は、その中間だ」


 佐伯は淡々と話す。


「基礎がある前提で、どこまで戦えるか。どこから先に伸びるか。それを見ていく」


 なるほど。

 中級って、思ってたより曖昧な場所なんだな。


 でもまぁ、その方が現実的かもしれない。


 覚醒者なんて急に出てきたものを、綺麗に年齢や職業で分けられるわけでもないだろうし。


「初めのオリエンテーションで九条さんから説明もあったとおりここで実力を示せば、上級クラスへの昇格や遠征隊へのスカウト、ダンジョンへの進入許可が与えられるかもしれない。そういったことを望む者は、心してかかるといい」


 よしよしよしよし。

 こういうのだよ。

 遠征隊、ダンジョンへの進入許可。


 全部心から願っていた、ファンタジー案件。


 レベルあげて、実績取って、


 誰よりも早く強くなりたい俺にとっては最高の環境だ。

 

 そう思いながら、俺は視線だけ少し下げた。


 誰にも分からないように、意識の端で実績欄を開く。


「最近は全然取れてなかったからなぁ」


 最近はもう、暇さえあれば見る癖がついていた。


 というか、見ないと落ち着かない。


 最後に取ったのはあれだ。

 坂上との一戦交わした時のやつ。


【B:自分よりレベルの高い覚醒者を一撃で倒す】


【急所補正】

 急所に当たった打撃の通りがわずかに良くなる。


 で、得たスキルがこれだ。


 まぁ〜今のところは実感ないよね。


 だって戦ってないし。


 ダンジョン入れないし。


 久々にグレハンでも殴ってやりたい気分だ。


 みたいな感じで、正直ちょっともうムズムズしている。


 佐伯の説明は続く。


「今日はまずオリエンテーション。とはいえまぁ、せっかくだ」


 その言葉に、会場の空気が少しだけ動いた。


 俺も顔を上げる。


「交流目的として軽く――」


 あー。


 これ、もしかして。


 佐伯が会場を見渡した。


「手合わせなんてどうだ?」


 来た。


 やっぱりそういう流れか。


 会場がざわつく。


 王道の展開で心が踊るぜ。


 前向きなやつもいれば、明らかに面倒そうな顔をしてるやつもいる。


 社会人っぽい人たちは、初日からやるのかよ、みたいな顔が多い。


 そりゃそうだ。


 相手が誰かも分からない状態で、いきなり前に出たい人ばかりじゃないだろう。


「希望者はいるか?」


 佐伯がそう言う。


 会場が、一瞬だけ綺麗に静まった。


 誰も手を挙げない。


 まぁ、普通はそうなるか。


 さっき前向きだったやつらも、手を挙げるかどうか様子を見ている。


 こういうところ、日本人の謙虚さが出るんだよなぁ。


 まぁ俺も生粋のジャパニーズだが。


 と思いつつも、俺はまっすぐ上に手を挙げた。


「はい。初っ端でよければ」


 その瞬間、何人かの視線がこっちに集まる。


 うわ、こういうの居心地悪いわ。


 でもしゃあない。


 対人戦でしか取れない実績ってもんがあるからな。


 実際、次取りたい実績も決まってるわけだし。

 

「お、高校生か」


 佐伯が少しだけ意外そうな顔をした。


「マジ?」


「度胸あるな」


「いや無茶じゃないか?」


 という雑多の声が聞こえる中、


「なら、僕が行きますよ」


 柔らかい声が、前の方から聞こえた。


 顔を向ける。


 さっきから前方にいた、あの高校生だった。


「……理央、お前見てるだけじゃないのか?」


 名前呼び。

 つまり面識があるってことか。


「えぇ。同世代の子がどれくらいのものか、見てみたくて」


「一応中級に置いたが、お前は土日も遠征に出てる側だろ」


 会場の空気が、そこで少しだけ変わった。


 遠征。


 その単語に反応した人間が多かった。


 俺もその一人だ。


 え、ちょっと待て。

 それって壬生みたいに、ダンジョンの現場に出てる側ってことだよな。


「頼むから、相手に怪我させるなよ」


 佐伯はため息混じりにそう言う。


 理央は困ったように少しだけ笑った。


「大丈夫ですよ。僕もその辺は弁えていますので」


 柔らかい言い方だった。


「……まぁ、ならいいか」


 いやいやいや。


 そんな「怪我させるなよ」って注意が入るやつを、初手の俺にぶつけるなよ。


 こっちは実績取りたいなぁくらいの気持ちで手を挙げたのであって、ガチの遠征枠と殴り合いたかったわけではない。


 ――が、同時にいい機会でもあるか。


 遠征組の実力ってのは、正直興味がある。


 どれくらい強いのか。


 今の自分が、どのくらい渡り合えるのか。


 その辺を早めに知れるなら、越したことはない。


 ということで、俺と理央は部屋の中心へと移動した。


 他参加者や佐伯は壁際で俺たちを囲うように位置している。


 理央と目が合う。


 笑っている。


 爽やかだ。


 普通にイケメンだし、こういう時に絵になるのも含めて、やっぱりイケメンって得だよなと思った。


「藤ヶ谷理央、高二。よろしくね」


「あ、はい。氷室蓮。高一です。よろしくお願いします」


 返しながら思う。


 やっぱり先輩だったか。

 勇気出して声かけなくてよかったなと。


 いや、今そんなことどうでもいいわ。


「いいか? スキルの使用は厳禁。館内が壊れない程度、周りを巻き込まない程度で頼む。危なくなったら、止めに入るからな」


「はい!」


 え、スキル?

 俺のパッシブだから止められないけど!?


 てかそもそも目の前の藤ヶ谷先輩は、スキルとやらが使えちゃうわけですか?


 なんて反論する前に藤ヶ谷がいい声で返事したので、俺も慌てて「はい」と声に出す。


「では、手合わせ開始!」


 そうして、色々わけの分からない内に、手合わせとやらが開始された。

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