21.助力を頼む
「二振り目、だと……」
長谷部はうめくように言った。
「はい。一振り目の面影がこの本丸に合流する直前に保存された情報から複製された面影です」
こんのすけの説明に広間に並んだ一同はざわめいた。
対面する面影は跪座でこんのすけと並んでいる。かつて一振り目の面影をこの本丸に受け入れたときと同じように。
「まずは礼を言いたい」
面影は開口一番に礼を述べた。
「こんのすけから、一振り目の私から抜け落ちたもう一人を取り戻すために、この本丸が尽力してくれたと聞いている。お前たちを利用するために山姥切に化け、近づいた非礼にもかかわらず」
三日月が鷹揚に答える。
「礼には及ばんよ。互いに協力しただけだ。我々も面影にはずいぶん助けられた」
「もう一度、協力を頼めるだろうか」
面影は三日月に向かって膝をそろえた。
「私が今過ごしている本丸と仲間が、危機を迎えている」
「なかま……?」
薬研が小さく独り言のように言った。
「私が今いる本丸はこの本丸と同じく、本丸襲撃で主と仲間を多く失い、主は何年も行方が分からない。だが審神者の霊力は消えず、本丸は存続している。しかし今、その霊力が消えかかっている」
面影が事情を説明する。
「皆ラジオから流れる主の歌を支えにしていたが、ラジオが動かなくなった。雑音すら流れない。そのときから、ときおり空に亀裂が入ったり、空の色がおかしくなったり、地響きが起きたりといった事象が現れ始めた」
「ラジオに主の歌、だと?」
巴形が片眼鏡を直しながら聞き返した。
「どんな歌か、教えてはもらえないか」
面影が承知してはなうたを歌い始めると皆の顔色が変わった。
「俺たちの主の歌とまるで同じだ……どういうことだ」
山姥切は動揺して言った。
面影は説明を続けた。
「にわかには信じられないだろうが、私の本丸は、おそらくこの本丸と表裏一体の関係にある。この本丸が表とすれば、私の本丸は裏。この本丸では空や地面がおかしくなる事象は起きていないのか?」
面影の質問に三日月は答えた。
「こちらでは、そういったことは起きてはいない」
「この本丸は強襲調査任務を受けるとき、本丸を守りたいと願いました。任務は成功したので、政府はこの本丸の守護と存続を保証しています」
こんのすけがそう言うと面影は納得してうなずいた。
「そうか、だから、この本丸は安定しているのだな」
「私たちは成立した契約は守ります」
そう言ながらこんのすけは尻尾を立て、少し胸を張った。
「私の居る裏の本丸が強襲調査任務の報酬として要求したのは、主である審神者の帰還に政府が尽力することだ」
面影の言葉を聞いた長谷部は苦々しい表情で言った。
「その手があったか……」
「でも、それで裏の本丸は今、存在自体が危うくなっているんだよね?」
と隣の燭台切が言う。
こんのすけは「これは推測ですが」と前置きして説明を始めた。
「本丸襲撃の際、審神者は本丸を敵の目から隠そうとしたのでしょう。おそらく全滅を避けるために本丸を分割し、審神者の願いと祈りの中に生き残った刀剣男士を隠した。その結果、審神者の霊力は分断され、姿を保持できなくなったものと考えられます」
「主は消えたわけではない、姿が見えないだけで、ずっと、ここに居たと?」
と大倶利伽羅が聞く。
「はい。そうだと思います」
こんのすけは答えた。
「では、ときどき主にからかわれたり、触れられたように感じていたのは……」
歌仙が本丸のあちこちで感じ取った気配を思い出しながら言った。
長義がぽつりとつぶやいた。
「居たんだ、ずっと」
三日月の表情がくもる。
「だが、こちらの本丸でも、ラジオから主の歌が聞こえなくなった。雑音すら流れなくなっている」
三日月の話を聞いた面影は「やはり、こちらでもそうか」と納得した。
「霊力が分断し消えかかっている主を取り戻すために、表の本丸と裏の本丸を統合する必要がある。一振り目の私が持つ、夢をつなぐ能力が必要だ」
面影の言わんとするところを三日月はすぐに察した。
「一振り目の面影が存在する夢の断片を核に、夢をつなぐ能力で表の本丸と裏の本丸を再構築し統合する、というわけか」
「一振り目の私は夢を斬ってつなぐ能力でお前たちを帰した。理屈の上では可能なはずだ」
面影は少し困ったように眉根を寄せて続ける。
「ただ、やってみなければ分からない。統合が成功する保証も、主が元に戻る保証もない」
「本丸の仲間が、大事か」
と三日月は面影に尋ねた。
「本丸にいると心が安らぐ。皆、にぎやかで人懐こく、あたたかい。皆からもらったものを、私も皆に返していきたいと思う」
そう語る面影の口の端に自然と笑みがこぼれる。
三日月たちは切ないような嬉しいような気持ちで面影の表情を見守った。面影のようすから、裏の本丸の者たちがどれだけ彼を大切にしてきたのかがありありと分かるのだ。きっとこの面影も、この本丸に居た面影と同じように、少しずつ仲間のぬくもりを学び、絆をつむいできた。自分たちもあの面影と、そうした日々を積み重ねていきたかった。
「裏の本丸には誰がいる?」
と三日月が問う。
「この本丸の顔ぶれとはまったく違う者たちだ。陸奥守、加州、大和守、和泉守、堀川、前田、則宗、肥前、南海」
面影の答えを聞いた皆は笑顔になり、顔を見合わせた。
「懐かしい名前ばかりだ」
三日月は微笑んで言った。
「私と私の本丸の者で一振り目を迎えに行こうとしたが、拒絶された。だがこの本丸の者たちが一緒なら、一振り目の私はきっと耳を貸すと思う」
面影がそう言うと三日月たちはひどく驚いた。
「俺たちが手をこまねいている間に、裏の本丸の者たちがここまで行動を起こしていたとはな」
「このこんのすけが主の手がかりを探す中で、夢の断片から聞こえる一振り目のはなうたを観測したのだ」
面影が説明すると、こんのすけはもう一度胸を張った。
「夢の断片で見た一振り目の私はもう消えかかっていた。時間がない。助力を頼めるなら、すぐにでも迎えに行きたい」
鯰尾が声をあげた。
「待ってください。消えかかっているのに、夢をつなぐことはできるんですか? そんなことをしたら面影さんは、無事ではいられないんじゃ……」
「だから、二振り目である私を一振り目に習合する。そうすれば存在は確保できるはずだ」
面影の答えに、表の本丸の一同は息を呑んだ。
日向は表情をこわばらせて言った。
「でも、それじゃあ、あなたが犠牲になるよね?」
「心配はいらない。ひとつになるだけだ。私が消えてなくなるわけではない」
面影は胸に手を当てた。一振り目によく見かけた仕草だ。
「もし一振り目に統合されたことで私が持つ思い出が消えても、私の本丸の仲間はまた新しい思い出をつむいでくれる。そう約束した。だから大丈夫だ」
「そんな……」
絶句する日向に面影は優しく微笑んだ。
「これしか打つ手がない。それに私はもともと複数の面影の集合体。一振り目との共存は可能だと思う。信じてほしい。私の仲間は、私を信じて送り出してくれた」
三日月は深くうなずいた。
「ならば、それに応えないわけにはいかんな」
出立の準備を整え、三日月は皆を見回した。
「こんのすけによれば、帰りの経路を開くためには何人かは本丸に残らねばならないが…」
蜻蛉切は首を横に振った。
「いえ、全員で行きましょう」
隣で村正がうなずく。
「帰りは私たちの面影さんと一緒デス。わざわざ経路を開く必要はありまセンよ」
三日月は微笑んだ。
「では行こう」




