19.夢の本丸
転移装置の祠と連動することで、夢の断片との経路は数秒だけ開いた。
それを通って侵入した夢の断片の中には、本丸の周囲とまったく同じ風景が広がっていた。
加州は景色を見回しながら言った。
「悲しいくらい、俺たちの本丸にそっくりだね……地形も、桜の木も、菜の花畑も」
青空に流れの早い雲、あちこちの桜は満開、菜の花が広く咲き乱れている。
「本丸にいくつか人影がありますね」
前田が指をさす。
その方向を見ていた面影が、深刻なようすで眉をひそめ「急ごう」と促した。
開いていた正門をくぐってみる。その奥には三人の刀剣男士がいた。彼らは面影たちに気づくと厳しい表情で刀を抜き構えた。
「蜻蛉切、長谷部、一期……」
加州は懐かしい名前を口にした。
「みんな姿が透けてるじゃん……」
蜻蛉切が低い声で「誰だ?」と誰何し、長谷部が「侵入者め!」と歯ぎしりする。
南海は苦笑した。
「おや? 僕たちが時間遡行軍にでも見えているのかな」
「いち兄!」
前田が南海の手を離して走り出した。
「いち兄!」
「待ちたまえ、前田君!」
南海が叫ぶ。
一期が駆け寄ってくる前田に向かって、下から上に刀を振るった。前田の小さな体が空中に跳ね上がった。
すかさず南海は飛び上がって空中で前田を抱き止め、着地すると即座に退避した。
「前田君、しっかり!」
前田は南海の腕の中で目を丸く見開き口をぽかんと開けたまま、ぴくりとも動かない。
加州は急いで南海と前田に駆け寄り、面影は彼らをかばうように前に出た。
「何か傷口を押さえるものを」
南海に頼まれた加州はとっさに戦装束の襟巻で前田の胸から左肩への刀傷を押さえた。
夢の本丸の男士たちの後ろからもう一人の面影が現れた。一振り目の面影だ。その姿は透けている。
「去れ」
透けた姿の面影は憂いをおびた表情で言い、大太刀を抜いた。
二振り目の面影が叫ぶ。
「待て! 私たちは」
一振り目が大太刀を振るう。目の前がまばゆく光って、次の瞬間には面影たちは元の本丸の祠の前に、乱暴に投げ出されていた。
「清光! 面影!」
安定が声を上げる。祠の前で待っていた者たちは、面影たちが帰りの経路を開く約束の時間より早く戻ってきたことに驚いた。
「私は大丈夫だ。前田が」
身体を起こした面影は急いで南海の腕の中を確かめる。前田は茫然としたままだが、保護強化のためか傷はもう回復し始めていた。
加州は膝をついたまま残念そうに頭を振った。
「取りつく島もなかった。……一振り目の面影が、俺たちのこと知ってるはずがない」




