17.願掛け
強襲調査が終了すると、こんのすけの来訪は間遠になった。こんのすけは時折、簡単な調査や任務の依頼を持ってくる。
皆はその任務に積極的に参加した。いくばくかの小判も手に入る。その小判を貯めて面影の軽装を仕立てるのだと皆はりきっている。
面影は軽装を仕立てるのに必要な小判の数を聞くと怖気づいたように言った。
「そんなものより、この本丸に必要なものを買った方がいいように思う」
「必要なんだよ! 面影の軽装だけ無いんだもの」
と安定は言った。
「ま、貯まるまでにたくさん待ってもらわなきゃいけないけど」
と加州が言った。
「なぁに、主が戻るまでに貯めればいいさ」
と則宗は笑った。
「主が戻るまで……? これも希望の切れ端か?」
面影が聞くと、安定は笑顔でうなずいた。
「うん、そういうこと!」
「まあ、願掛けみたいなもんだと思って」
そう加州が言うと面影は微笑んで、
「……そういうことなら」
とうなずいた。
仲間と一緒に出陣を重ねる以外にも、めぐる季節とともに面影の中に色々な思い出が積み重なっていった。
桜が散る前に皆で花見をした。そのとき陸奥守に「よく笑うようになった」と指摘されて、照れくさくなった。
長雨で卯の花は腐ち、雨漏りの対応に走り回った。総出で蔵の隅まで探して、錆びた金だらいやホウロウが剥げたたらいまで持ち出した。
入道雲がよく見られるようになり、誰かが万屋に出かけたついでに買ってくる氷菓子をかじった。西瓜の形の氷菓子が気に入った。
菜の花畑は猫じゃらしとすすきの野原になり、秋の虫たちが合唱を始めた。数名で山へ栗を拾いに行き、畑で育てていた食用菊を摘んだ。
桜の葉は紅く色づき、本丸の周囲の山は色鮮やかな反物を広げたように紅葉した。全員で紅葉狩りに行ったが、途中で大捕り物の鹿狩りになった。余った肉は味噌漬けや醤油漬けにした。
激しい木枯らしが吹いて、やがて雪が降り始めた。南海が貸してくれた虫眼鏡で、皆でかわるがわる雪の結晶を観察した。
積もった雪が解け始め、土がぬかるんだ。仲間たちと何度も山菜摘みに行き、保存のため干したり塩漬けにした。
晴れた日に面影が庭の沈丁花を剪定ばさみで切っていると、ラジオを手にした加州が通りかかった。
加州はずっと毎日のようにラジオを抱えて、わずかでも主の歌が聞こえる場所がないかを探しまわっていた。
加州は面影の手元を見て懐かしそうに言った。
「ああ、もう咲いてるんだ。主がこの香り、好きだったんだよね」
「では奥の間に飾ろう、願掛けに」
面影がそう言うと、それまで浮かない顔をしていた加州は「いいね」と笑顔になった。
面影には主がどんな人物かは分からない。この本丸の皆にここまで慕われ、心の支えになっている人に、自分も会って話してみたい。いつか、無事にこの本丸に戻ってきて皆を安心させてほしい。それはまごうかたなき本心だった。
春が訪れ、ふたたび野原に菜の花が咲き乱れ、桜は満開になった。
あともう少しで小判は軽装を仕立てる目標額に至りそうだ。
そんなとき、こんのすけが主の行方に関する情報をひとつ持ってきた。




