15.強襲調査の終了
こんのすけは本丸の広間に集まった一同に向かって、改めて強襲調査の終了を宣言した。
安定が不安そうに聞く。
「調査が終わったなら面影は? 政府に戻るの?」
「こちらの面影はこのまま本丸に置いてください。本人が望んでいるので」
こんのすけの返答で皆ほっとした。
「良かった…」
そう安定に声をかけられた面影は少しくすぐったそうな笑顔を浮かべた。
「さて、調査終了か。ではこの本丸にも報酬をいただこう」
則宗がそう言うとこんのすけは答えた。
「はい。現在、この本丸の審神者の行方について何か手がかりがないかを調査中です。続報をお待ちください」
「では手始めに、1600年頃を担当している本丸とやらで何が起きたか、どういう状況か、洗いざらい話してもらおうか」
「……こちらの審神者の捜索には関係ないと思いますが」
こんのすけはあまり気が進まないようすだ。
「大ありだとも。こちらの本丸と同じように、政府の都合の良い捨て駒。そんな本丸がいくつもあってたまるものか。その本丸でも審神者が長年行方不明なのか?」
「私はその本丸の担当ではないので、詳しいことまでは……」
「では調べてこい。政府に情報が蓄積されてないとは言わせんぞ?」
則宗の圧力にこんのすけはたじろいだ。
「……分かりました。少し時間をいただきます」
数日後、本丸に戻ったこんのすけは一同に調査結果を説明した。
「1600年前後を調査していた本丸から、偽史は夢の断片であり、刀剣男士を誘い込んで全滅させるための罠であると報告が上がりました。そして、その夢の断片自体を一振り目の面影が閉鎖しました。その際、その本丸担当の私が行方不明になっていたので、私が直接訪問して確かめました。その本丸も数年前に襲撃を受け、大きな損害があり、それ以来審神者が行方不明です」
「……ふむ。一振り目が偽史を閉鎖したとな?」
則宗が眉をしかめて言う。
南海はこんのすけに尋ねた。
「その大きな功績を挙げた一振り目の面影くんは?」
「任務に協力した刀剣男士たちをその本丸に帰したあと、夢の断片に残りました」
「たった一人で、かね」
と南海が聞き返す。
「はい。先行調査のときに一振り目から抜け落ちた逸話が分身となり、騒動を大きくしていました。面影の分身は夢を斬ってつなぐ能力を有していたようです。その能力を時間遡行軍が利用して、最初はそれほどでもなかった偽史の規模を急激に拡大していました。一振り目はその本丸の協力を得て分身を回収し、その能力で夢の断片を再構築。協力した刀剣男士たちを本丸に帰し、もう二度とそのようなことが起こらないように、自らを封印したと思われます」
こんのすけの説明を聞いていた陸奥守が深刻なようすで「なんとも後味が悪いのう」とぼやいた。
「一振り目の面影さん、なんとかしてあげられないのでしょうか」
前田が言うと、こんのすけは答えた。
「政府は一振り目の面影については時間経過による自然消滅を待つ方針です」
「自然消滅……だと?」
こんのすけを見ている則宗の目がすうっと細くなる。
「……そんなににらまないであげて下さい。こんのすけが悪いわけではないのですよ」
前田はそう言うとこんのすけを抱き上げて頭を撫でた。こんのすけはすっかり前田を受け入れて大人しく撫でられている。
加州は肘で則宗をつつき、小声で言った。
「ちょっと、爆発しないでよね。聞ける話も聞けなくなるだろ」
「そんなことは分かっている」
則宗は憮然として小声で言い返した。
「自然消滅なんてするもんなの?」
加州が聞くと、前田に抱かれたままこんのすけは答えた。
「消滅までにどれだけの時間がかかるかは分かりませんが、何もかも遮断した状態で人型や人の心を保つのには限界があるはずですから」
「ひどいや……」
安定は悲しそうにつぶやいた。
「一振り目の面影に回収する手間と労力に見合う利用価値があれば政府も動くだろうが、その夢を斬ってつなぐという特殊能力が危険因子であるなら封印されたまま消滅を待つ方が都合が良かろうな」
そう言う則宗の口角は上がっているが、目は笑っていない。
加州はさらに尋ねた。
「危険因子なのに、放っておいて大丈夫なの?」
こんのすけは答える。
「夢の断片は接触が可能だった表層がすべて剥がれ、内部には政府からの通信はもはや届きません。刀解するにしても回収が必要でしょう。現在は政府も手を出せない状況です」
「でも、もし何か起きて時間遡行軍に一振り目の面影を奪われたら?」
「ですから、政府は夢の断片の監視は続けています。ですが、夢の断片はあくまで夢。あまり長くは持たないでしょう」
こんのすけの返答に、則宗は不機嫌に舌打ちし、他の者たちは眉をひそめ重いため息をついた。
面影は会ったこともない一振り目のために皆が悲しんでいるようすを不思議な気持ちで見ていた。だがそのうち、おそらく一振り目が過ごしていた本丸の者たちはもっと深く悲しんでいるだろうと思い当たった。すると自分の胸も痛くなってきたように感じた。




