88 『絶望』を名乗る帝王①
「…ヴォルン様…これからどういたしましょう…。フィール様が帰るまで待機とのことですが…」
部下の言葉に…正直自分でも迷ってしまう…。
ヴォルン…それが俺の名前…。この国…『リヴリィア帝国』でフィール様の補佐…そして伴侶として生活している。
将来的には…彼女の引退と同時に役職を引き継ぐ…ことになっているのだが…
「…クリス様…ユキ様の状況を把握するのが先だ。フィール様はそのために魔王城に向かっている。下手な行動はするな」
「はっ…ヴォルン様…」
まさか…こうして女王代理として、皆に指示を出すことになるとは…。
…いや…仕方ないこと…。
クリス様の旅行が人間たちによって崩れ去り…ユキ様が囚われの身となったのだ。これは緊急事態…。早急な対策が必要…。
フィール様はこの報せを知るや否や、早速魔王城へと出発…。お供にアリスを従え、俺にこの国の管理を任した…。
それにしても…
「…妙な胸騒ぎがするな…」
「…は?」
「太陽の落ちる夕暮れ時…カルスが飛び去っている…。嫌な予感がする…」
「はぁ…確かに夜行性のカルスが飛んでいのるのは不思議ですが…」
「…いや…すまない…。忘れてくれ」
「…はい…」
いかんな…どうも周りに不安を抱かせている…。フィール様の屋敷でじっとしているのもよくないか…。
よし…せっかくだ…。外に出て気分でも整えるか…。
「マーコフ。少しの間ここを離れる。それまでこの屋敷に待機してくれ」
「…はい。ではお供のものを…」
「いや…ただの気分転換だ。すぐ戻る」
「わかりました」
俺はそれだけを伝えると、早速外出準備を整える…。太陽が沈みきっていないものの、フード等を被っていれば問題ない。
ガチャッ…
玄関の扉を開け…外を眺める…。相変わらずの見慣れた風景だ…。
「…何も起きなければいいが…」
ー
…
「おぉー!ヴォルン様ー!」
「お久しぶりですー!」
「ん…ルル…ミミ…。まだ外にいたのか?太陽の陽射しがまだ強いのだから…家にいればいいものを…」
「だってぇー…家の中はつまらないよー…」
「だよねぇー!お外がいいよねぇー!」
「やれやれ…」
中央国立公園へと向かった先で…パールヴォルト兄妹に出会った…。親衛隊のメンバーの中では非常に優れており、フィール様もお気に入りの戦士だったな…。
いたずらが好きなのが玉に瑕だが…。
「ところでぇー…フィール様は?」
「フィール様に会いたーい!」
「…お前たち…今どれだけ緊急事態なのか知らないのか?フィール様は忙しい…おそらくここ数日は出掛けているはずだ」
「うーん…そぅなんだぁ…」
「ミミも残念…」
はぁ…この二人は本当に危機感が薄い…。まだ若いものの…これからはしっかりとしてほしいものだ…。フィール様が知ったら激怒するだろう…。
「ヴォルン様ー!これからどうするの?」
「ミミ達にお手伝いできることあるー?」
「ん?…手伝いか…そうだな…」
そうして…二人に何を頼もうか悩んで空を見上げると…
「…呆れたな…『帝王』の国はここまで落ちぶれたのか…」
「…!ルル!ミミ!避けろ!」
「「…!!」」
瞬間…
…ドォォォォォォ…ン…!
バキバキィィ…!ガシャァァン…!
俺達の真上から強烈な衝撃が襲いかかった…。辺り一面は一瞬にして砕けちり…立派な銅像もなにもかもが粉砕…。
幸いにも…俺も…ルルもミミも危険を察知して一瞬で退避。大きな怪我を負うことなく生きている…。
俺はすぐに…奇襲を仕掛けてきた『敵』の正体を見極めるため、上へと視線を向ける。
そこにいたのは…
「…ほぅ…我が攻撃を避けるか…。まるっきりのゴミではないな…」
漆黒の翼を広げ…銀色に光る長髪を持った男が一人…。フードを被り、両目は深紅に光っていた…。
まさか…
「貴様…俺達と同じ…!」
「ふん…お前達と比べられたくないな…。我こそ至高のヴァンパイア…。全ての頂点に立つ者…」
やはり…こいつもヴァンパイア…!しかし…多くの同胞はこの国に住んでいるが、こんなやつは見たこともない…。
しかもこれほどの力を持っているなら噂の一つは流れているはず…。
確かめる必要がある…!
「…どういうつもりだ?フィール様がいないとはいえ…この愚行…許されると思うな…!お前は何者だ!」
「ふっ…くっくっ…」
俺の激昂…そして問い掛けに対して、男は右手で顔を覆い…くつくつを笑いを漏らす…。
まるで…俺の言葉がおかしいと考えているかのように…。
「何がおかしい!」
「…そのお前の言葉そのものが失礼なのだ…。愚行はお前の方だぞ?ヴォルンとやら…」
「なんだと!」
男は空中で浮かんだまま…尊大に…自らの名前を…その正体を口をする。
「我こそは…ハルア教…『絶望』の名を持つ男…。ジャン・バティスト・デュリ…!フィールと共にこの国…リヴリィア帝国を造り上げた…真の『帝王』よ!」




