86 『快楽』の強襲①
「…クリス様…ユキ様…」
あれから数日…。一体どれほどの時間が流れただろう…。
メーラの立てた計画…新婚旅行は、思わぬ形で大きく崩れ去った…。
グリンシュテン王国での思わぬ強襲…。人間と『ハルア教』なるものの協力関係…。
まさか…こんなことになるなんて…。
新婚旅行の計画は秘密となっている…。それこそ…人間…そして『ハルア教』の者にはバレるはずがなかった…。
あのとき…この計画を知っているのはメーラを含めて四人…。
クリス様…ユキ様…ウザイン…そして私…。
わざわざ人気のないところで話したにも関わらず…結果的には多くの者に知れ渡ってしまった…。とんだ失態…。
クリス様達の動向…その把握も予想以上に遅れてしまい…。今や魔王城では大きな混乱が生じている…。
幸いにもクリス様…ウザインの捕縛報告はないものの、ユキ様は身柄を確保されたとのこと…。
この先…取引材料として利用されるか…最悪処刑されるか…。
あれから数日…特にこれといった音沙汰もない。今ごろはどうなっているのか…。
「メーラ様!我々もグリンシュテン王国に乗り込みましょう!」
「こうなったら…争いは避けられません!」
「一刻の猶予も…!」
魔王城…作戦会議室…。普段は使わないものの、緊急事態によりこれからの対策を話し合うことに…。
…とはいえ…あまりにも急なこともあり、人数はごく限られたもの…。それ故…冷静さを失っている者もちらほら…。
部下の多くがユキ様の救出を進言するほど…。このままでは…事態は思わぬ方向に動いてしまう…!食い止めねば…。
「ダメです。クリス様の安否が確認できるまで待機。各々…情報収集に集中してください」
「「「…」」」
やはり…皆納得はしていない…。対応があまりにも消極的なのも仕方ないが…これでは…。
そもそも…ティナはどこに…。あの旅行から一向に姿を見せていない…。彼女の意見も聞きたいというのに…。
そう思っていたその時…
ドォォォ…ン…!ガッシャァァァ…ン!!
バリバリィィィ…!!
「…!!?何が!?」
突然の出来事…。外から響く轟音…衝撃…。それは魔王城の窓ガラスをも砕ききるほどの勢い…。
当然…この作戦会議室にもその余波が伝わり、部屋の中は一瞬でボロボロになる…。
「ウァッ…くそっ…!」
「一体何が…」
「いつつ…!」
頭を押さえながら倒れるもの…額から血を流すもの…苦痛に耐えながら跪くもの…。
各々が混乱と恐れを抱く中…メーラの前に転がる…ある『凶器』…。
「これは…」
スッ…
手にしたもの…それは『氷』…。それも極限まで氷結され、鋭利なナイフの形をした『氷刀』…。
それが数十本…。この部屋全体に散らばっている…。
人間業ではない…!何者かが…ここを襲っている…!
「全員!この場から避難を!負傷したものは手当てを優先!その後…ここから離れるように!」
「…メーラ様は…!」
そんな一人の部下の言葉にはあえて反応することなく…私はすぐに外へと飛び出した…。
ダッ…!
この大惨事の原因…その張本人へと向かうために…!それでもやはり…胸の内からは不安がよぎる…。
「…この魔王城に強襲をかけるなんて…一体何者…」
ー
…
…タッ…!
「これは…!」
魔王城の外…恐らくは被害の中心地であるそこにたどり着いた時、一瞬の恐怖を感じた…。
辺り一面に巨大な氷柱…それが無数に突き刺さり、地面も抉られている…。
防衛を任せた一部の兵士も大勢倒れており…もはや機能として成り立っていない。
おそらく…何者かの仕業なのだろう…。
「…出てきなさい。魔王軍…三大幹部のメーラが相手いたしましょう!」
私は姿の見えない…その驚異に対し宣戦布告…。どんな攻撃をするかはわからないものの、皆の避難…その時間稼ぎになれば…。
そう思っていた次の瞬間…
…ビュンッ…!
「…!…ハッ!」
ダッ…ズザァァッ…!
突然の攻撃…。背後から氷柱が飛び出し、間一髪のところで避けることに成功…。
しかし…不意打ちとは…。かなりやりにくい相手のようですね…。
「さて…もうよろしいのでは?姿を表しなさい」
再度…相手に対し挑発…。すると…敵も観念したのか…
スッ…
巨大な氷柱の影から人の姿が…。
頭髪は恐ろしいほどに白く…短い…。さらに腕…足に至るまで驚くほど細い…。顔もどこか痩せこけている…。
そして何より…
「…子供…?」
私よりもさらに低い…ティナとそう変わらないほどの身長…。それは十代に満たない男児の姿…。
まさか…相手を油断させるために擬態している…?
そんな疑問を浮かべると…
「…アハッ…♥僕のは変身したわけでもなんでもない…ありのままの姿…だよぉ…♥」
「…!」
まるで見透かされたように答える…少年…。その表情は妙に薄気味悪く…それでいて恍惚とした笑みを浮かべている…。
危険…そして底知れぬ悪意の塊…。
少年はその場で…自らの正体を伝える…。
「僕は…『ハルア教』…五大教皇…♥…『快楽』…トムス・クルス・テォフォルス…でぇす…アハッ♥」




