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異世界召喚 〜リアルすぎるカードバトルを添えて~  作者: 一刻一機
第一章 ~貧乏姫の戦争~
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第一章 ~貧乏姫の戦争~(4)

貧乏姫の戦争(4)


 9


「痛たたた……ああ、ひどい目にあった」

 俺は痛む全身をさすりつつ、とぼとぼと農道を歩いていた。


 キリアの特訓はますますエスカレートしていき、基礎トレーニングを終えた後は、ひたすらキリアと組み手をやらされている。

 最初、(見た目は)可愛い女の子とを殴るなんて!と思っていたが……俺が甘かった。

 殴るどころか、まともに触れることすらできない。

 キリアもさすがに、俺を全力で殴るのはまずいと思っているのか、魔法カード無しで対応してくれているが、そんなことは関係無く、あっさり地面に叩きつけられている。

 今のところ大した怪我もしないが、これで魔法カードを使われれば、怪我で済まず、骨折の一本や二本は覚悟しなければならないだろう。

 素手なのに……

 ただ、何が恐ろしいかと言えば、逆にそこまで酷い怪我でなければ、あっさりと魔法で治療されてしまう事だろう。

 『治癒キュア』の魔法のせいで、筋肉痛も簡単に治療され、特訓は休みなく行われる。

 これが地球であれば、回復に時間のかかる怪我や筋肉痛を避けるために、無理のない練習や訓練を行うが、こっちの世界では怪我そんなものは魔法で一発だ。

 怪我や回復のリスクとコストを考えなくてもいいのが、この世界の住人が恐ろしく強いことの一因であることは間違いない。


 しかし、いくら肉体は「治癒キュア」で治っても、精神の傷は治らない。

 俺はボコられる恐怖に磨耗した精神を、自主的に治療するという名目で、大樹の生えた城から逃げ出した。


 早い話がエスケープ、サボりである。


「はぁ……」

 後の折檻を思えば、素直にボコられた方がマシだった気もする。 


 俺は脳内に浮かんだキリアの「イイ笑顔」を首を振る事で消し去り、改めて目の前の景色を堪能した。


 改めて考えてみれば、「この世界」に来て早くも一ヶ月が経ったが、最初に森の入り口に入ったのと、海辺に行った程度で、それ以外はほとんどがキリアとの特訓に当てられてしまい、碌にどんな所なのか見ていないのだ。

 

 今は、城の周辺にあるわずかな建物郡を抜けた、農道をとぼとぼと歩いている。

 キリアとじいさん曰く、この聖樹の国の国土は、九割以上が森を占め、残り一割で農業・酪農を行っている他、後はほんのわずかの海岸線で数家が漁業を営んでいる程度だとか。

 城の周辺には一応、形ばかりの宿屋兼酒場、鍛冶屋、食料品の店等が存在するが、覗いてもどこも、「農作業中」の看板がかかっており、ほとんど機能していなかった。

 日本の、二十四時間いつでも開いているコンビニに慣れた俺からすれば異常事態だ。


 後は、一応貴族の館らしきものもあったが、門番はおろか家事手伝いの人間も一人いるかいないかと言う程度らしい。

 しかも、さすがに貴族は農作業をしないらしいが、数少ない文官として城の中で忙殺されるとか。

 うーん。「リアルメイド」とか「リアル執事」とか見てみたかったが、ファンタジー世界でも、貧乏な国は世知辛い事情があるらしい。

 あの爺さんは「執事」っぽい服装は着ているが、体全体から漂う雰囲気が「執事」というよりは「達人」とか「仙人」みたいだからな……


 とりあえず、行く当ても無いので、北に向かって真っ直ぐに進むと、目の前に大きな影が見えた。

「ん?」

 近づくと、それが動物の影だったとわかったが……これは、何ていう動物だ?

 見たことの無いその姿に、一瞬「魔物モンスターか!?」と身構えてしまったが、人畜無害そうな顔つきや、のんびりまったりとした動きを見るに、凶暴そうな気配は感じない。

 豚のような顔とお尻に、羊のようなモコモコの毛を生やした動物が、牛のような巨体と白黒のまだら模様をしている。

「ブメー」

 ……鳴き声まで、何かが色々混ざっていようだ。

「こらー!うちのブメをいじめるなー!」

 俺が謎生物をしげしげと観察していると、後ろから小さな女の子の声が聞こえた。

 動物の皮をなめした地味な茶色い服のおかげで、逆に女の子の立派な赤毛が映える、小さな可愛い女の子だ。

 足元まで寄ってきた女の子を改めてみると、俺の腰ぐらいの位置に頭がある、声以上に幼い子供だった。

「ごめんごめん、ブメちゃん?をいじめてたわけじゃないよ。珍しいから見てただけだよ」

「珍しい?嘘つきだー!ブメなんて、どこにでもいるじゃん!」

 あ、この動物はブメと言う名前でではなく、ブメと言う種類なのか。

「本当だよ。俺は、この国につい先月来たばっかりだからね」

「え?じゃあ、お兄ちゃんお城のお客さん?」

「お客さんかなー?まあ、呼ばれて来たって言えば、呼ばれて(召喚されて)来たんだけど……」

「やっぱり、お客さんなんだ!すごーい!」

 ついさっきまで、幼いなりに迫力のある怒り方をしていた女の子だったが、一転してはしゃいだ声を上げ、満面の笑みを浮かべている。

「ねえねえ、お客さんって事は森の外から来たんでしょう?森の外のお話し聞かせて!」

「え、あ、良いけど……」

 森の外って言うか、世界の外かも知れないけど、いいかな?

「ファナー!ファナー!」

「あ、お姉ちゃーん!」

 すると、今度は目の前の少女を一回り大きくしたような、同じく地味な茶色の服に、赤毛の女性がやって来た。

 髪の色もそうだが、顔だちもそっくりである。

 「お姉ちゃん」という呼び方からも察っせられるように、間違いなくこの少女――ファナの姉だろう。

「あら、こんにちは」

 推定ファナの姉は、にこにことのんびりした雰囲気で、ファナと同様の明るい赤毛とちょっとそばかすが目立つが、可愛らしい女性だった。

「妹がうるさくして、ごめんなさいね」

「ファナ、うるさくないもん!」

「いえ、全く問題無いですよ。俺が、おたくのブメをじろじろ見てたのが原因みたいだし」

 ドSなキリアを一ヵ月見続けた後だと、こんな包容力や母性を感じさせるような温かみのある女性に、すごい新鮮味を感じてしまう。

 正直、単純な見た目の美しさで言えばキリアの圧勝だろうが、この女性の方が俺は断然好みだ。

 と言うか、俺、若干キリア恐怖症になりつつあるような……

「あら、ブメが珍しいですか?」

「ああ。俺の住んでたところには、ブメがいなかったから」

「お兄ちゃんはね、お城のお客さんなんだって!外の人だよ、外の人!」

「あらあら、それはまた、久しぶりね。もし良かったら家で外のお話しでも聞かせて頂けないかしら、えーと……」

「あ、俺はシンドウ・ミナト。シンドウが姓で、ミナトが名前だから、ミナトって呼んでくれればいいよ」

「姓持ちと言うことは貴族様でしたか!失礼な口をきいてしまい、大変申し訳ございません!」

「え!?いやいやいや!俺は別に貴族じゃないよ!俺の住んでた所は誰でも苗字があったんだ」

 自己紹介をしただけで、いきなり好みの女性に頭を下げられてしまい、俺はあたふたと手をばたつかせてしまった。

「あら、そうでしたか。すいません、私ったらてっきり……」

 ファナの姉が、テヘッと言う擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべた。

 これがテレビの中のアイドルならあざとさを感じるが、この女性なら純粋に可愛いと思えるから不思議だ。

「私はファラと言います。この子は妹のファナです。よろしくお願いしますね、ミナトさん」

「ああ、こちらこそ」

「私たちの家は、すぐそこです。よろしければ、お昼もご一緒されませんか?」

「え、今日これから?いきなり押しかければ、ご両親にご迷惑じゃ……」

「あら、『ご迷惑』ですって。そんな上品な話し方されるなんて、やっぱり貴族様じゃいのかしら?」

 そう言うと、ファラはくすりと笑ったので、冗談で言ったのだろう。

「大丈夫だよ!お父さんと、お母さんもきっと外のお話し聞きたいと思うよ!」

 ファラの下で、小さなファナも満面の笑みで、俺を手招きしている。

「じゃあ、折角だからファナちゃんのお手伝いでもして行こうかな」

 無邪気な様子のファナが可愛くて、俺はファナの頭を撫でながら、つい気軽な様子でそう言ってしまった。


 ◇


 キリアとの一ヵ月に及ぶ訓練で、大分基礎体力も向上したし、きつい農作業も耐えられるだろうと考えていた。

 ……甘かった。

 農家の皆さまごめんなさい……

「くっ、うおおおおお!」

「あらあらあら、ミナトさん、無理なさらないでね」

 ファラ達のお母さんも、やはり明るい赤毛で恰幅の良い女性だった。ただ、長い年月日光にさらされたからだろう。髪は、艶を失いぱさぱさとしており、肌は日に焼けて浅黒かった。

 それでも、ファラとよく似た、のんびりした笑顔のかわいらしいお母さんだ。

「よいしょ」

「ほいさ」

「うおおおおお!」

 しかし、そののんびりとした雰囲気を持つ女性が軽々と運ぶ藁の束を、俺が持つと異常に重く感じる。

 ブメ達の餌になるそれは、朝露を吸い尋常ではない重さになっているが、女性二人は軽々と運んでいる。

「ミナトさん、手で持つのではなく腰で持ち上げると言いですよ」

 見るに見かねたのか、ファラが俺にアドバイスをくれた。

「はぁはぁっ……あ、ああ、わかった。やってみるよ」

 腰。腰ね。

 十万回もやった正拳突きを思い出し、腰と手が一本の紐で繋がったように意識し、藁の束に手をかける。

 束の幅が広く腕の力が入れづらかったが、腰で上げているため、何とかさっきよりは軽く持ち上げる事ができた。

「お、これなら、何とか……」

「お兄ちゃんすごーい」

 ファナちゃんが、にこにことブメ達に餌をやりながら、俺を褒めてくれる。

 うーん、小さな子供に褒められると恥ずかしい、けどちょっと嬉しい。

 あの特訓も無駄じゃなかったなぁ。


 そして、昼食を摂るまでの予定が、日が暮れるまで、俺はファラの家の農作業を手伝い、晩御飯までご馳走になってしまった。

「がっこう?がっこうって何?」

「ファナちゃんと同い年ぐらいの子供達が集まって、お勉強したり運動したりする所だよ。俺の国では、六歳から十五歳までは義務教育って言って、国民全員が必ずその期間勉強をするんだ」

「国民全員!?しかも、十五歳まで!?はーっ……ミナトさんは、裕福な国から来たのですなぁ、げふぅ」

 俺の話を聞きながら、横で酒くさいげっぷをしているのは、ファナの父親だ。

 さっきまで、比較的危ない森のそばの畑で仕事をしていたらしく、暗くなる前に初めてお会いした。

 普通なら年頃の娘がいる家に、見知らぬ男がいれば警戒するかと思ったが、どうやらこの家は、家族全員がおおらかな人柄らしい。

 特に何を言われるでもなく、仕事を手伝ったお礼に是非と、晩御飯に誘われた。

「そうですね……。日本にいた頃はそれが当たり前だと思っていましたが、今考えればすごい事ですね」

 冷静に考えれば、日本の裕福さは地球上でも類を見ないものだろう。

 この国では、ファナのような小さい女の子も普通に仕事を手伝っている。それも朝から晩までずっとだ。

「でも、そんなに長い間、何をお勉強するの?」

「色々さ、読み書きは勿論、数学、化学、歴史……」

「ふうん?ブメのご飯の上げ方とかも教えてくれる?」

「それは、教えてくれないかな……」

「えー!じゃあ、悪い病気になった麦の見分け方は!?」

「それも、教えてくれないかな……」

「ええー!じゃあ、じゃあ雨が降る時の蛙の鳴き方の違いとか、シリシリ鳥の落とし方とか……」

「どれも、教えてないよ」

「えー、じゃあファナは『がっこう』に行かなくてもいいやー」

 だが、日本の誇るべき教育水準の高さは、ファナに一刀両断に不要と断じられてしまった。

「は、はは……確かに、そうかも、ね」

「でも、そんなに豊かな国なのに、魔法が無いと聞きましたが、本当なんですか?」

「あら、それも変よね。帝都なんかじゃ、富裕層はぜーんぶ魔法カードでやってしまうらしいですよ」

 ファラの疑問に、ファラのお母さんも追随する。

「全部ですか?」

「そうよ。うちなら精々、かまどに火を付けたり、壺に水を溜めたりするのに使う程度だけど、帝都ならお手洗いから、お部屋の温度調整、庭の草刈りとか……そんな事までわざわざ魔法カードじゃなくてもって言うぐらい魔法カードに頼った生活らしいわ」

「へー、すごいですね」

 そっけない風を装いながら、俺は少し興奮していた。

 もしかしたら、帝都とやらに行けば、水洗トイレやエアコン等のある生活ができるのかもしれない。

 ……いや、便利な生活を求めるよりも先に、日本への帰還方法を探さなければいけないのだが。

 やはり日本の電化製品に囲まれた生活に慣れた俺には、この聖樹の国の文化レベルの低さには抵抗感が強い。

 特にトイレで用を足した後、桶でいちいち水で流したりとか、夜寒くてもいちいち薪を焚かなければならない生活は身に染みるものがあるのだ。

「すごいわよねぇ。一体魔石をどれぐらい使えばそんな生活ができるのか、想像もできないわ」

「魔石って何ですか?」

「「え!?」」

 俺の新たな疑問は、またファラ一家を驚かせてしまったようだ。

「あらぁ、魔石も知らないのねぇ。魔法カードが無いから……かしら?魔物モンスターの心臓部に入っている石で、それがあれば魔法を使う際の魔力を補ってくれるのよ」

「属性によって色が違っていて、何の魔石でもいいってわけじゃないし、それに質が悪い魔石はすぐに使えなくなっちゃうから」

 つまりは、乾電池のようなものだろう。

 サイズや商品によって、合う電池が違うし、大きな電池なら長持ちする。

 それと同じように、魔法によって合う魔石が違っていて、なおかつ品質により使用制限に違いが出るという事だろう。

「まあ、私達は魔石を採っても、城に売って税の足しにしたり、鉄を買ったりするので、今は手元に無いのですが」

 ファラの父親は、普段あまり飲まないと言う麦酒(エール)を飲んでいるせいか、若干呂律が怪しくなってきている。

「あ、そうですか」

「まあ、そもそも、魔法カードなんてほとんど持ってないから、魔石があっても使い道が無いによね」

 ほほほと、ファラの母親が笑いながら言った。

 そう言えば、魔法カードは高級品だと聞いたっけ。

 城にもそんなに在庫に余裕が無いらしいので、一般家庭には尚更なのだろう。


 目の前では、ファラ達家族が、楽しそうに団欒だんらんしている。

 俺の父は物心ついた頃に他界してしまったが、父が生きていた頃は、こんな風に家族で過ごしていた気がする。

 俺は、妹のナギの顔を思い出しながら、暖かな景色を眺めていた。

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