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異世界召喚 〜リアルすぎるカードバトルを添えて~  作者: 一刻一機
第二章 ~獣人村の異変~
23/29

Story.003 〜VRカードゲーム『神々の遺産』で遊んでみよう……?〜(3)


 人生十年分ぐらいの幸運と奇跡を消費し手に入れた希少(レア)カード『赤竜の卵』だが、一つ困った事が起きた。


 これどうやったら孵化するんだ?


 攻略サイトを見ても、卵を「捕獲」すると言う話は出てこない。

 試しにトレーニングモードで召喚して見ようかとも思ったが、万が一割れてしまったら他のモンスターのように復活するか確証も持てないので、怖くて実験もできない。


 と言うわけで、今回は『防衛クエスト』に挑戦してみたい。

『防衛クエスト』は、◯◯を守れ!のように、指定された拠点を一定時間防衛。もしくは、拠点を維持しながら一定数以上のモンスターを撃退させるクエストである。


 では、この『防衛クエスト』が先程の「赤竜の卵」と何の関係があるのかと言えば、『敗北(失敗)条件』にポイントがある。

 『防衛クエスト』なら、防衛目標内にモンスターが侵入もしくは、一定時間経過で「敗北できる」ので、「赤竜の卵」が敵モンスターと接触する機会を極限まで減らす事ができるのだ。

 つまりクエストに成功すれば、新しいカードが手に入るし、失敗してもその間に「赤竜の卵」の解析を進める時間は得られる。これが、今回の作戦の肝である。

 うん。偉そうに言ってるけど、クエストクリアの自信が無い事を誤魔化しているだけです。ただのチキン野郎の発言ですね。



 今回選択したクエストは、『獣人村を守れ!(イージーモード)』と言うクエストで、難易度は星二つ。

 もっとも、この難易度は二ツ星級のモンスターまでが出現しますよと言う意味で、そこまで簡単なクエストではない。

 それに属性やモンスターの出現方法も定まっているわけではないので注意が必要だ。

 とは言え、攻略サイトを事前に見れば、ある程度どのモンスターが出現するかはわかる。

 今回の「獣人村」近辺には、

・コボルト

・ゴブリン

・スライム

野犬(ワイルドドック)

と言ったお約束モンスターと、二ツ星のアクセントとして、僕も使っているコボルトマジシャンや、その同類のコボルトナイトのような、ちょっと武装したぐらいのモンスターが出現する。

 正直、僕の持っているカードだけでは、十匹以上同時に出現した時点でギブアップになるが、防衛クエストはNPCも手伝ってくれるので、そこまで難しくないだろう。

 特に獣人は戦闘能力に秀でた部族らしいので、尚のこと安心である。


『開始五分後にモンスターの襲撃が始まります。「獣人村」まで移動しますか?』


 デッキには『赤竜の卵』はもちろんの事、念のため二枚ぐらいは無地の召喚カードを混ぜておいた。

 もしかしたら、またとんでもないラッキーが待ってるかもしれないからね。


 Yesを選ぶと無機質なブルーの部屋が歪み、すぐに辺り一面が解放感の高い草原になった。

 優しい風と青い草の香り。

 暖かな日差しを浴びていれば、ゲーム中である事を忘れてひっくり返って寝たいくらいだ。

 ただ、草原だと思ったこの場所には、ぽつぽつとテントが立ち並び、その周囲をそれなりに沢山の人間が右往左往している。

 全員が特徴的な民族衣装を着ている以外は、ごく普通の人間だ。

 だが僕は知っている。

 彼らがネットで話題の「がっかり獣人族」である。

 大方の期待を裏切る、この普通感。

 別に頭部が動物になっていろとは言わないが、せめてケモミミぐらいは容易して欲しかった。

 世界中から開発元に対し、結構な量の苦情が行ったとか行かないとか。

 でもそれ以上に「確かに生物学的に考えたら、そんな構造の生命体がいるはずが無いので、逆にリアリティーがある」と概ね好意的に受け止められたらしい。

 僕もそこはリアルよりも夢を追求するところだろう!と思ったものである。

 その彼ら獣人族は、皆手に剣や弓矢を手に持ち、慌ただしそうな様子を見せている。

 防衛戦という設定に則り、NPCとして迎撃に参加してくれるのだろう。

 本来であれば、僕も前線でモンスターを配置しなければならないところであるが、今回はクエストクリアよりも「赤竜の卵」の解析が先だ。

 僕は人の波に逆らい、村の中央部に足を進めた。

 歩きながらカードをドローし、途中で出てきたモンスター達は護衛用に召喚。

 他の要らないカードは即座に捨て、「赤竜の卵」が出るまでカードをドローし続けた。


 遠くから大勢の怒号や悲鳴等が聞こえてくるが、とりあえず今回は無視させてもらおう。

 ごめんね。次はちゃんと一緒に村を守るからねー。


 村の中心地に着くと、すぐに「赤竜の卵」がヒットしたので即座に召喚した。

 僕の目の前に、ころんとした大きな卵が現れる。

「さて、それでこれをどうすればいいんだ?とりあえず温めてみればいいのかな?」

 僕が摩ってもそんなに暖かくならないだろうと思い、とりあえず召喚した犬亜人(コボルト)とレッドスライムに卵に抱きつかせてみた。

「……」

 いきなりやる事がなくなってしまった。

 当たり前か。

 仮にこの方法が正解だったとしても、何時間かかるんだって話だ。


「うーん。何かないかなぁ」


 何かヒントはないかと、周囲を見回しても、辺りはテントが何軒か立っているだけである。

 一際大きなテントの側には、見張りの獣人が立っており、中に入れないようだ。


「ん?」


 そのテントに、何故目が向いたのかはわからない。

 一つだけやたらと頑丈そうな作りのテントがあるが、小さくて薄汚れている。

 まるで牢屋(・・)のようだ。


 僕はふらふらと引かれるように、そのテントに近寄り、そっと窓代わりになっている布を持ち上げた。


「うわぁっ!?」


 窓にはめられた鉄格子の奥には、両手両足を縛られた男が転がされている。

 口には猿轡が咬まされている徹底ぶりだが、両目には強い感情(・・)を湛えており、その眼が僕に向けられただけで腰を抜かしてしまった。

「ほほぉ、ほへほはふひへふへ」

「え?」

「はひふ」

 猿轡のせいで聞き取りづらいが、拘束を解けと言っているようだ。

「ちょ、ちょっと待って」

 自分でこの牢屋の中に入る勇気はない。

 レッドスライムを鉄格子の隙間から潜り込ませると、猿轡の結び目だけを融解させた。

「ふぅ……ありがとよ小僧。それで、ついでなんだが教えてくれ。お前は何者で、ここはどこだ?」

「僕?僕は……」

 まさか、ゲームキャラクターに自己紹介をする日が来るとは。

 だが、何と言えばいい?

 クエストに従い村を救いに来たヒーローです!とか言えばいいのか?

「ああ、違う違う。お前の名前とかを聞いてるわけじゃない。そんな奇妙な()をしているから何者かと聞いたんだ」

 牢屋の男は、鋭い眼で僕を睨みつけてくる。

 その眼は、一切の嘘や誤魔化しを許さないと言葉よりも雄弁に語っていた。

「奇妙な体?」

「ん?まさか自覚が無いのか?その体は、本物じゃないだろう?一見かなり高レベルの幻影にも見えるが、そんな感じでも無いしな」


「……」


 どういう事だ?

 ここはVRカードゲーム『神々の遺産』の中だ。

 そして当然僕もデータで構築された存在だ。

 それをゲームのキャラクターに指摘される?

 いや、そもそも本当にこいつはNPCなのか?

 余りにも生々しい感情を発する目の前の存在は、誰かが操作し演技をしているようにも見えない。


 まるで、本当にこの世界で生きている人間のようだ。


「いや、それを言うなら俺の体も同じか……。俺の村も見た目は同じだが、全てまやかしのようだし……かなり大掛かりな術式だな……」

 鉄格子の隙間から顔を覗かせた男が、ぶつぶつと独り言を言っている。

「あのー……」

「小僧。ゴート帝国やキジマの名前に聞き覚えは?」

 意を決して話しかけると、逆に声をかけられてしまった。

「は?いや、ゴート帝国は攻略サイトで名前ぐらいは見た事があるし、キジマってこのゲームを開発したキジマコーポレーションのキジマの事?一体全体急に何の話だ?これは何かのイベントの兆しなのか?やっぱりあなたは運営の誰かが操作してるのか?」

「お前こそ何を言ってるんだ?……しかし両方知っているが、その口ぶりからすれば、関係者って感じでもねぇな」

「キジマコーポレーションの関係者かって?んなわけないでしょ、そんな知り合いがいたらレアカードを何枚か恵んでもらうか、赤竜の卵の孵化の仕方を教えてもらうよ」

「赤竜の卵!?お前、そんな危ないもの持ってんのか!?そんなものすぐに親元に返しちまえよ!親が怒り狂って山から降りてくれば、小さな村や集落なら一日で地図から消えるぞ?」

「えっ……本当に!?いや、でも返しに行くとかもう無理だよ」

「まぁ、このまやかしだらけの世界の中じゃ、村の一つや二つが消えても関係ないか……どうせこの村も俺自身も偽物だしな……さて、話が逸れちまって悪いが、さっきの続きだ。お前が帝国やキジマの手先じゃねえと、俺は信じる。だから一つ頼みがあるんだ。多分あまり時間も無さそうだ。聞いてくれねえか」

 ふと、モニターを見ると、獣人村の戦力はほとんど消滅していた。

 確かに時間は無さそうだ。

 でも、なんでそんな事が、牢屋の中で縛られているこいつにわかるんだ?

「あん?何を不思議そうな顔をしてやがる。別に(いくさ)の気配ぐらい、音と匂いで大体判るさ。そんな事より、いいから俺の話を聞け。小僧、何とかして聖樹の姫様を探して伝えてくれ。『狼人のガロから、聖竜の巫女へ。帝国とキジマの名前、そして白服共には近寄るな』いいか、忘れるな。これを言えば、あの頭の固い嬢ちゃんでも、間違いなく信じてくれる。嬢ちゃんに伝われば、あの墓守や神武のジジイにも伝わるからな」

「え?何だって墓参りには新聞紙?」

「何を言ってやがる!肝心なのはそっちじゃねえから、それは忘れろ!」

「はっ、はい!」

 ちょっとした冗談じゃないか!

 怖いよこいつ!

 迫力がありすぎる。

「ちっ……時間が来たみたいだな……これで俺の今の記憶も消されるんだろ……と言うか元々存在しない存在か……」

「えっ!?」

 慌てて再度モニターを見ると、今まさに最後の一人が、モンスターにやられるところだった。

「小僧、二度と会う事は無いと思うが、何かの縁だ。忠告と助言をくれてやる。いいか、『俺に会った事は信頼できる奴以外に、絶対に言うな』下手をすればお前も消されるぞ。あと、赤竜の卵なら一ヶ月ぐらい溶岩に漬けておけば勝手に孵化する。やってみろ」


『クエストが失敗しました。再挑戦(リトライ)しますか?』


 謎の男は言いたい事を勝手に言って、そしてあっという間にクエストは失敗したまま僕はいつものブルーの部屋に戻された。


「『消される』?『お前も』?どう言うことだ?」


 いつもの寒々とした無機質な部屋で、誰もいないとわかっていながら、そっと辺りを見回してしまった。

「そういやあのおっさん、結局その姫様の名前も特徴も言ってないじゃん……どうやって探せばいいんだよ……」


 

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