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26【エピローグ】


「ら、ら、ら……」

 

 星が降り注がんばかりに瞬く、夜。窓際で耳を澄ましていると、エルクの歌声が聞こえてきた。きっと、ハイペリオンのリクエストだ。彼女らは、星に降り立ってから、夜にこうやって、星空を眺めて二人の時間を過ごすようになった。城門へと続く大階段に、二人並んで腰掛けている姿をよく見かける。折角建物がたくさんあるのに、というと彼らはここが良いのだと言っていた。アンドロイドの思考はどうも分からない。

 ――この星に宇宙船でやってきてから間もない頃、ハイペリオンから、あることを打ち明けられた。


「僕らが不時着したあの水。あれは海といって、アンドロイドの体には毒だったらしい。一年後か、数年後か、あるいは数十年後か……。そう遠くないうちに、僕とエルクはさび付いて朽ち果てるだろう。なに、そんな顔をするなよアイザック。寿命(おわり)を得たことで、僕らは生き物になれたんだよ。それに、悪いことばかりじゃないさ。ほら。時間というものがこんなにも尊くなったのだから……」


 そう言うと、ハイペリオンはうっとりと目を閉じた。


「怖くないのか?」


 彼は少し考えてこう言った。


「不滅の方が怖い。厳密に言うと、アンドロイドにも寿命はある。ボディの老朽化からは逃げられないし、中身だって次第にパフォーマンスが落ちていく。ただ、そこに行くまでにヒューマノイドよりもずっと長い時間がかかるってだけで。君とCBが寿命を迎えて死んだ後も、僕とエルクは稼働するだろう。でも、きっと僕の方が新しいから、エルクの方が先に終わりを迎えるだろうね。そしたら……。僕はひとりぼっちになってしまうだろ? それは、なんだか……恐ろしい事のように感じられたんだ。それならばいっそ、終わりの時を早めて、一緒に終わりを迎えられることの方がいい――神様は赦してくれるさ。あぁ、でも安心して。君たちを観測し続けたいから、第二のハイペリオンは作るつもりだよ……」


 ハイペリオンは、それ以降エルクとの時間を大事にしているようだ。やはり、アンドロイドの考えは分からない。不死の方が、楽しみの総量が増えると俺は考えていたからだ。

 俺は、窓から身体を乗り出して彼らの後ろ姿を眺めた。二人寄り添い、手を繋いで波と歌声のセッションに興じている。

 波というのは不思議なものだ。海のどこから生まれて、海のどこに消えていくのだろう? ハイペリオンが言っていたが、海とは生命の源らしい。血がしょっぱいのは、海の記憶を引き継いでいるからなのだそうだ。……だから、波の音が心地よいのだろう。


「飽きないもんですね」


 物思いにふけっていると、いつの間にかCBが俺の横にやってきて、挨拶代わりに頬にキスをした。


「良いじゃないか。あぁいうのを幸せって言うんだろうな」


「俺だって幸せですよ。あんたが身体を許してくれる時は、特にね」


 そう言うとCBは俺の腰に手を回し、ぐっと身体を密着させた。最近のCBは、やけに俺とのスキンシップを求めてくる。……それにまんざらでもない自分がいるのも、事実だ。


「……寝室に行こう」


「賛成です」


渡り廊下を二人で歩く。城下を一望できる、素晴らしい造りだ。ふと城の門のあたりに、蹲っている男の影が月の光に照らされてちらりと見えた。


「……彼は?」


「あぁ。八人目です。もう四日間何も口にしていません。ずっと何かを書き殴っていますよ。そろそろ、次の記録係が必要かも……」


 それを聞いて、先日ハイペリオンが怒っていた件を思い出した。


「――[無登録]――様、お食事をお持ちしました。こちらに置いておきますので、お召し上がりください」


 と言ってエルクが食事を彼に与えようとしたが、彼は一口も食べなかったらしい。エルクの手料理を無下にするなんて何様だと、ハイペリオンが怒り心頭で俺に愚痴を聞かせたのだ。


「ふぅん。感心するね」


「いや、そんなことどうでもいいんです。あんたは、俺のことだけ考えていたらいいんですから」


「強引だな。君って前からそうだっけ?」


「そこがいいんでしょ」


 挑戦的な目が、俺を誘惑する。負けじと俺も見つめ返した。暫く、にらめっこのように見つめ合った後、不意打ちのキスをして、子供のように彼から悪戯に逃げた。


「あっ! 待て!」


 逃げる俺を追いかけるCB。追いかけっこの始まりだ。このまま寝室まで逃げ切ってやる。


「あははは! 捕まえられるか、君に!?」


「こんにゃろーっ」


 こんなに無邪気に走るのなんて、いつぶりだろう。


「あはははは! あぁ、可笑しいっ!」


 願わくば、この甘く幸せな瞬間が永遠に続きますように。

 結末は、(我々)のみぞ知る。

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