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第二十一章【娘へ】

 封を切った瞬間、紙の端が少しだけ擦れた。

 使い込まれた便箋だった。戦場で書かれたものだと、一目で分かる。


 文字は端正だが、ところどころに微かな揺れが見られた。




 ──リヴィアへ


 この手紙を読んでいるということは、私はもう、お前の隣にはいないのだろう。


 最初に言うべきことがある。

 それは――謝罪だ。


 お前に家を背負わせることになる。

 弟を失わせることになる。

 そして、お前自身の人生を、途中で止めてしまう。


 それを分かっていながら、私は戦場に出る道を選んだ。


 父として、正しかったとは思っていない。


 だが、逃げなかったことだけは、どうか許してほしい。


 お前は強い。

 それは誇りだ。

 けれど――強さを理由に、誰よりも我慢する子でもあった。


 私はそれに甘えた。


「リヴィアなら大丈夫だ」と、そう思ってしまった。


 本当は、大丈夫ではなかったのに。


 もし、この手紙を読んでいるなら、どうか知っていてほしい。


 お前が当主になることを、私は望んでいなかった。


 治癒士として生きるお前を、私は心から誇りに思っていた。


 誰かを救う度、自分の命を削るようなその生き方を、止めてやれなかったことが――今も、悔やまれる。


 だから、ひとつだけ頼みがある。


 どうか、「役割」よりも、「自分」を選ぶ日を忘れないでほしい。


 伯爵である前に、治癒士である前に、お前は、お前だ。


 それを奪ったのが私なら、それを取り戻すのも、お前自身であってほしい。


 最後に。


 父として、お前を抱きしめてやれなかったことを、心から詫びる。


 リヴィア。

 生きろ。


 それが、私が唯一、望むことだ。


 ――父より




 第二十一章 了

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