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ウォーバーズ~Tropical Storm  作者: F.Y


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遮断

 5月2日 0114時 カンボジア上空


「うーむ。こいつは何だ?」

 F/A-18Fスーパーホーネットの後席で、レイモンド・ギルダーはMFDの赤外線映像を眺めて言った。"ウォーバーズ"はカンボジアへの偵察作戦を実施し、何が起きているのかを調べることにしたのだ。そこで、AN/ASD-12偵察ポッドを搭載したF/A-18Fと、護衛として完全武装したF-15EXとSu-30MK、タイフーンFGR.4、F-16Vを派遣したのだ。

「どうしたんです?」操縦しているパトリック・コガワが訪ねる。

「ジャングルが不自然に抉られている場所がある。南東の方に旋回してくれないか?」

「了解です」

 コガワはF/A-18Fの操縦桿と右のラダーペダルに力を入れ、機体を旋回させた。その間、ギルダーは分割型偵察ポッド(SHARP)のカメラが、気になった場所を映し出すように調整する。

「ああ、これだ。そのまま右旋回を続けてくれ」

 F/A-18Fの後部座席の多機能ディスプレイには、SHARPの赤外線画像が映し出されており、そこにはジャングルの木が所々伐採され、赤い土がむき出しになっている箇所があった。

「これは、自然に枯れたりした場所じゃないな。誰かが伐採したんだな」

 4機の戦闘機は、かなり距離を離してアブレスト編隊を組んでいた。そうすることで、唐突に敵機が現れても即座に空戦に移行できるし、SAMに撃たれても短時間で全滅という最悪の事態を避けることもできる。

 今のところはレーダーでこちらが捕らえられた気配は無いが、敵機がやって来る可能性もゼロでは無い。カンボジア空軍は戦闘機を保有していないので、戦闘機がやって来るのならば、即座に敵だと判断して撃墜することになる。そして、F-16Vとタイフーンには敵の対空兵器の火器管制レーダーを破壊するための対レーダーミサイルを搭載している。

 ギルダーは、そこが対空ミサイル陣地になっていると考え、監視することにしたのだ。

スーパーホーネットは、暫くその場を旋回し、AN/ASD-12の赤外線カメラを使い、件のジャングルが伐採されている場所を録画した。

「よし、オーケーだ。次だ」

 ギルダーは、スーパーホーネットの多機能ディスプレイのレーダー/ミサイル警戒画面をちらりと見た。全くもって静かなもので、地対空ミサイル(SAM)火器管制レーダー(FCS)に捕らえられた様子は皆無だ。


 5機の戦闘機は、真っ暗なカンボジアの空を飛んだ。カンボジア空軍は極めて貧弱で、戦術航空機と言えるのは、僅か数機しかないL-39Cアルバトロス軽攻撃/練習機で、その武装はR-60赤外線誘導空対空ミサイルと固定武装の機関砲、各種無誘導爆弾とロケットポッドくらいのものだ。

 しかも、カンボジア空軍のそれらの機体は、ほとんどまともに飛んでいるかどうかも怪しい状態ときている。

 そして、近年、カンボジアは、国際的な犯罪組織の温床となっており、その一つが海賊だ。以前、マラッカ海峡で暴れていた、タンカーや貨物船を襲う海賊は偽装した漁船を使っていたが、今やミサイル艇やコルベット、武装ヘリコプターまで使われる有り様だ。そのせいか、近年は、一部の商船や貨物船は傭兵部隊のフリゲートや駆逐艦を護衛に付けることもしばしばだ。最近だと、イエメン沖で貨物船を襲撃した海賊が、護衛に付いていた傭兵部隊の軽空母から発刊したAV-8Bハリアー2機によって返り討ちに遭っていた。


 5月2日 0134時 カンボジア上空


 カンボジアを偵察していた"ウォーバーズ"の機体は、戦闘機だけでは無かった。シンガポールからMUM-T精密誘導爆弾を4発搭載したバイラクタルTB-3が4機、離陸した。無人機ならば、乗員を犠牲にすることなく、安全に偵察することができる。これらの無人機は、4機の戦闘機の"交代要員"として飛び立ったばかりだ。勿論、バイラクタルは、地上の管制システムで操られるだが、それでも、操縦要員を途中交代させるなど、効率的に運用することができるのだ。


『"ウォーバード3"、こちら"ホームプレート"。"交代要員"を派遣した。そろそろ帰って来てくれ』

 パトリック・コガワは一瞬、手が止まった。交代要員だって?一体、誰が?シンガポール空軍のF-16が、BD-110偵察ポッドを搭載して、向かって来ているのだろうか。

「"ホームプレート"、"ウォーバード3"だ。交代要員は誰だ?」

『シンガポール空軍機だ。あと10分もせずにそっちに到着する』

「了解だ。撤収する」


 5月2日 0144時 カンボジア南20km海上上空


 パトリック・コガワはF/A-18Fを南に向けて飛ばし続けた。空には月は出ていないものの、無数の星が瞬いており、かなり明るく感じる。レーダーを走査(スイープ)モードにして、上空を飛ぶ航空機を確認した。すると、レーダー画面に4機の航空機が映った。

「レイ、見て下さい」

「ああ。この4機だな。何だ?こいつらは」

 スーパーホーネットの後席で、レイモンド・ギルダーはレーダーをトラッキングモードに変更し、件の4機の航空機の追跡を開始した。

「こちら"ウォーバード3"、みんな、これを見ているか?」

『パット、ニコライだ。こっちも確認した。IFFの質問信号を送ってみよう』

「了解だ」

 コガワはレーダーで航空機に質問信号を送ってみた。すると、奇妙なことが起きた。IFFには反応は無く、更に、その航空機は民間機を示すトランスポンダも発信していない。つまり、その航空機は、不審な何かだということになる。

『パット。どうする?交戦するか?』

 ケイシー・ロックウェルが訊く。その直後、コガワは4機のうち2機が編隊から離れ、まっすぐこちらに向かって来るのをレーダー画面上で確認した。コガワは決断した。この2機は、速度から判断するに間違いなく戦闘機だ。

「"ウォーバード3"より全機へ。交戦せよ!交戦せよ!」


 コガワはスロットルを握ると、エンジンをミリタリーパワーまで上げた。燃料計にちらりと目をやる。空戦をするには、十分な量は残っている。編隊を組んでいた3機の僚機は徐々に左右に広がり、アブレスト編隊を組む。空対空の戦闘において、基本的なフォーメーションだ。

 F/A-18Fの後席のレーダー画面上に、4機の輝点が映った。IFFの回答信号は敵機として識別されている。敵機の速度は、マッハ1.2。間違いなく戦闘機だ。

「よし、射程内に入った。レーダーロック・・・・フォックス1!フォックス1!」

 スーパーホーネットの後席で、レイモンド・ギルダーはミサイルの発射ボタンを押した。主翼の下からAMRAAMが放たれる。続いて、タイフーンの胴体からミーティアも射出された。ギルダーは、レーダー画面上でミサイルと標的を追った。2つの輝点が大きく左右に旋回するのが確認できる。一方で、"敵機"からミサイルが放たれた様子は無かった。


 "ウォーバーズ"のパイロットたちが攻撃したのは、2機のY-8と2機のSu-35Sだった。この2機はロシアから飛び立ち、途中、イランで無人機(UAV)を輸送機に載せた後、最終目的地のカンボジアへ向かっている最中だった。Su-35Sに乗っていた中国人パイロットは、突如としてミサイル警報装置が鳴り響いて面食らった。パイロットは慌ててECMを作動させ、チャフとフレアをばら撒く。しかし、ミサイル警報装置は鳴りやまず、直後、背後に強烈な衝撃を受けた。コックピットの多機能ディスプレイには、様々なアラートが点滅しながら表示され、電子の警報音が鳴る。エンジンは両方とも死に、APUも破壊されていると警報が出ている。

 パイロットは諦めて、射出座席のリングを引いた。キャノピーが吹き飛ばされ、座席のロケットモーターが点火する。凄まじいGをパイロットが襲い、虚空へと飛ばされる。直後、パイロットはパラシュートが開いた時の、全身を強烈に引っ張られる間隔に襲われる。

 パイロットは下を見下ろした。真っ暗な空に、炎上しながら落下する4機の飛行機が見えた。この輸送機には、イランで密造された巡航ミサイルのランチャーが載せられていた。くそっ。あれをカンボジアに届けたら、3500万ドルの報酬が手に入るはずだったのに、それがパーになってしまった。それどころか、今夜は、サメがうようよしているであろう、タイランド湾の海上を、フライトスーツからぶら下がっているこの救命ボートで漂うことになることが決定してしまった。

 畜生。無線機が機能してくれれば良いのだが。だが、もう一つ問題もあった。そもそも、救援を呼んだところで、フー・ジャオシェンが、資材の輸送というミッションに失敗した自分を助けるためだけに、わざわざヘリを寄越してくれるかどうかも怪しいところだが・・・・・・。

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