つきときみ
「見て、月が出てる」
綺麗ねー、と窓際に寄り添う君は、もう自分だけの世界。身体をやや開くように斜めにして僕にも見えるようにしてくれているのは、気づかいというよりも彼女の癖だ。
「ね、聞いてる?」
ふわっ、と長い髪を広げて顔を振り向かせる。軽く傾けられた首に、意見を求めているのだと悟った。僕は重たい腰を持ち上げ、数歩あるいたあと窓枠に飛び乗る。背中を一度大きく撫でられ、心地よさに「にゃ」と声がもれる。
あらためて空を見上げると、満月には少し足りないくらいの大きな黄金が、濃紺の海にぽつんと浮かんでいた。少し離れたところに、月が散りばめた輝きのカケラがぱらぱらと広がっている。それぞれの星の名前は知らないが、なんだか綺麗だと思った。
しばらく眺めて満足したころ彼女を見上げると、飽きもせず一心に月だけを見つめている。
窓の手前に浮かび上がる、白い肌。
いつも、仕事から帰るなり身につけているものをすべて取り払い、つるんとした肌を多く露出するナイトウェア姿になる。化粧も「メイクさんにされるとくすぐったいから」という理由で毎日丁寧に粧しているが、今は完全なるすっぴんというやつだ。
「だってあんなの、息苦しいじゃない」
いつだったか、そう言って見せた表情の複雑さは、咳と欠伸とくしゃみが同時にやってきたような気分にさせた。
ふと、彼女が視線をこちらに向け、意図せず僕らは見つめ合う。色素の薄い虹彩が、揺れることなくそこに据えている。
月明かりが差し込む小さな部屋。ふんわりと香るのは、君のシャンプー。僕はヒゲをくんと跳ねさせ、君はパタと睫毛をしばたかせた。
そして同時に笑う。微笑みよりもはっきりと、笑顔というには少しひかえめに。
「ね、綺麗でしょ」
肯定の返事として一声鳴くと、君はするんとした肌触りの腕で僕を抱き上げた。
そう、とても綺麗だよ。
太陽の光を反射するあの衛星よりも、その衛星のきらめきを受けて微笑う、君自身が。




