第十四話
チマチマ書いていたストックが全部消えました。
リュゼとコースケの方で一悶着あったころクレアの方は。
ズドンと激しい衝撃音を耳に、森への道中で既にグリードグリズリーと相対していた。
装備は整えて出てきたとはいえ、戦況は厳しい。
先程のように遮蔽物もなければ、高低差を利用した回避も出来ない。
(せめて、グリードグリズリーの気を逸らせる前衛の存在がいれば)
そこまで考えて頭を振る。
無い物ねだりなど、私らしくもない。
コースケの前で倒せるなどと言った以上、何とかするしかない。
それにここで退けば、次に被害を被るのは、町の住人だ。
もちろん、街に滞在している他冒険者、騎士は玉石混淆とは言え対処できるだけの戦力はある。
だが対処しきれるまでに起こり得る人的被害を鑑みれば、撤退など最終手段だ。
「恨みはない。けど、討たせてもらう」
そう言って、マントからカバーのついた一振りの棍のような物を抜く。
「正々堂々なんて、獣相手にする必要はない」
カバーから抜かれた、それは異質の一言につきた。
まず刀身はギザギザした鋸のような姿を見せ、毒々しい光沢を放っていた。
それをグリードグリズリーに叩きつける。
それだけで鋸の歯の一本が欠けるが、既に叩きつけられた部位には抉るような傷跡と、毒々しい粘着物が主張していた。
だが、当のグリードグリズリーと言えば、苛立ちげに白い息を吐き、怒りを爆発させるかのように、その剛腕を振るい続ける。
一撃でも食らえば、今吹き飛んでいる地面と同じようにボロ雑巾と化すだろう。
それだけは絶対に避けたい。それに今はまだ効果が出てないが、毒を塗った一撃を加えている。持久戦にはなるが、待てば待つほど有利になる。
(ただ油断はできない、もっと、さらに慎重に)
そう考えつつ、すれ違いざまに一撃を叩き込む。
また歯が飛んだが、必要経費として目をつぶり、敵を睨む。
そうして回避しては、隙ある時に攻撃を繰り返し早数十分。
持っていた棍の歯は八割飛んだが、ようやくその動きに鈍さを見せる。
白く荒々しい息を吐き、体毛は血で赤く染まり、所々体躯を震わしている。
素人目から見ても弱っていると分かる。
ここまで弱れば、あとは放っておいても勝手にくたばるだろう。
わざわざ止めを刺しに行く必要はない。相手が強大であれば、あるほど危険な必要はない。
(もう走る気力もないはず、でも――)
こういう時に限って、油断して最後の悪あがきで死んでいった冒険者は、何度も目にしてきた。
そんな奴らと同じ目に、土に埋まる等、心底ごめんだ。
目の前のグリードグリズリーを睨みながら呼吸を整えると、すり足で距離をとろうとする。
ただ警戒のため、後ろを一瞥した瞬間、背筋に悪寒が走る。
「っ! 駆け抜ける力をここに――『疾走』」
理屈などはない、ただ明確な死。
それに近い物を予感し、正体を確かめるよりも先に魔術の行使を優先した。
それが命運を分けたのだろう。
脚部が青い光に包まれるの同時に、常人ではありえない驚異的な跳躍を見せる。
仮にコースケがこの場に居たのならば、ビル二階はありそうな跳躍力に言葉を失わせるかもしれないが、今はそれどころではない。
「守りの力をここに――『障壁』」
空中に足場を作り、改めて自分を襲った生物の正体を確認する。
それは先程まで弱っていたはずの、グリードグリズリーだった。
ただし先ほどに比べ体毛は血よりも濃い紅に染まり、怒りを表すように毛並が逆立っている。
肉体も一回り膨らんでいるようにも見えるが、一番の脅威はその破壊力と素早さだろう。
回避しきれたとは言え、先ほどに比べ土を抉る大きさが一回り大きくなっている。
今はこちらを見上げている形となっているが、先ほどの速さを考えるに瞬発力も想像以上で間違いない。
ただそれ以上にこんな事態に遭遇したのが始めてだからだろう。
若干動揺もしている。胸に手を当てれば、うるさいほど心臓が高鳴り、手が震える。
それを抑えるように強く握りしめると、ベルトから細い試験管二本を取り出す。
一本は黒い液体が、もう一本は千切った枯葉が詰め込まれている。
それらを順番に口へ含む。
苦さと甘さとめまいに襲われるが、恐怖と魔力切れ、どちらかで動けなくなるよりマシだ。
切札が無いと言えば、嘘にはなる。
けれど、それで倒しきれなかった時の事を考えれば、ここで足止めをするのが一番正解だ。
せめて誰かが、魔力が切れる前に、この異変に気付いてくれれば――。
再びの甘えを再認識しながらも、歯がほぼ抜けきった棍の柄を力強く握ると足元の『障壁』を解除し、グリードグリズリーに跳び掛る。
怖さは薬で紛らわした、あとはどれだけ動けるか。
願うように自分へ言い聞かせ、目の前の敵へ武器を振りあげようとする。
だが、それよりも先に紅い巨体が視界を覆い、強い衝撃が全身を襲う。
冷静であれば、体当たりをされたという分かるが、今はそれすら理解できず吹き飛ばされる。
数メートルという距離を転がっていく。意識を保っているのが奇跡的だが、体中が痛い。
(お願い、動いて、動いてっ……!)
立ち上がろうと必死で言う事を聞かせようとするが、身体の震えが収まらない。
足音が、絶対的な死が近寄ってきていると言うのに、言う事の聞かない体に苛立ちと焦りが生まれる。
(や、だ。しに、たくない。死にたくない……!)
目の前から獣臭さが漂う、死の恐怖が身体を震わせる。
だが、ここには誰も来ない。――そう、自分から拒絶したのだ。
だから、これはきっと、罰なのだろう。他の人に酷い事をした罰。
そう思うと、涙がこぼれ出る。
せめてあんな別れじゃなくて、もっとちゃんとした、まだやりたいことが、見たい事があったのに――。
(だれか、たすけて)
そう願いながらも、振り上げられた巨腕が迫ってくる。
せめて痛みがないように、そう願いながら目を伏せ、来るべき衝撃を待った。
数瞬後、ズドンと音が響き、街道に鮮血が舞った。
本当は作中内で紹介したかったんですが、今回クレアが使った武器。
ノコギリのような歯に棍棒のような武器なんですが、「テルビューチェ」という武器です。
ちなみに次話は速く用意しようと思いますので、お待ちください。
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