崩された条約(1)
じょうやく【条約】
[意]国家間で文書によってとりきめた約束・・・
【3号機】こと【原2等空尉】・【工藤1等空曹】の両名は以前記した通り、複座型で1つの機体に2人機乗している。
原はF‐2パイロットとして活躍していたのだが、その操縦適性を買われ特機へと呼ばれた。
音速の世界に比べ速さ的に物足りない部分もあるのだが・・・任務性や、誰もが操縦できる機体で無い事からこの仕事に満足していた。
工藤は元・AWACS(空中警戒管制機)のレーダー員として勤務していたのだが・・・その処理能力を買われ特機へ―――
特機着隊後、その能力はさらに向上し対砲迫レーダーや数々のレーダー機器・計器類を処理・分析できるようになり今では、この小隊に欠かせ無い目や耳の役割を担っていた。
その工藤が今、モニターを見つめ徐々に迫り来る2つの光点の解析に励んでいた。
「う~ん?」
「どうした?工藤1曹にしては珍しい声なんか上げて」
「それが、原2尉も見てると思いますが北から2機の航空機が約150kmの地点をこちらに向って飛行中です」
「ああ、これか!確かに向って来てる。だが、この速度だと民間機がこの辺の空港にでも向ってるんじゃないか?」
「ええ、始めは自分もそう思ったのですが、さっき衛星写真で確認した所・・・半径100km圏内に空港どころか飛行機が着陸出来そうな場所が確認出来なかったんですよ」
「!」
「それ・・・本当なのか?」
「はい。間違いありません!」
原は少し黙り込む・・・・
「何か嫌な予感がするな」
「はい。自分も同じであります!」
そう言うと原はおもむろに無線を開いた。
≪ピッ!≫
「特機3から特機1へ!少し気になる事があるのですが・・・現在地より北3km地点の山の頂まで偵察許可を貰えないでしょうか?」
「こちら1号機、何かあったのか?」
「いえ・・・まだ何もないのですが、北から低速で接近する航空機を確認しに行きたいのです!
時間は取らせません。あくまで確認だけですので我々に30分・・・いや、20分!時間を頂けないでしょうか?」
「・・・判った。許可しよう!くれぐれも我々の痕跡を残すなよ」
「了解!」
そう言うと3号機は北へ機首を向け進み出す。
現地時間 00:05
3号機が目的の頂に着くのにそれほど時間は掛からなかった。
到着して直ぐに解析に取り掛かかるも、レーダーだけでは機種まで判断が出来ず潜伏して目視による識別をする事となったのである。
「どうだ?」
原が待ちきれずにそう呟いた。
「不明機、以前接近中・・・速度変らず、距離110kmまで来ています」
「そうか、何が起るか判らんモニターから目を離すなよ!」
「了解!」
その会話の最中もその不明機は徐々に距離を近付けていた。
そして不明機が100km圏内に入った時・・・変化が起る。
「!?」
「不明機!速度上げました!真直ぐこちらに向っています」
「なっ!」
二人に悪寒とでも言えばいいのだろうか?そんな感情が急速に彼等の中から沸き上がり原は無線を開く。
「特機3から特機1!不明機、急速接近中!目的は不明!ですが、明らかにこちらへ向っています!
警戒して下さい!」
原が無線で報告をしている中、3号機のカメラが最大望遠で不明機の姿を捉える。
「F‐15E・・・ストライク イーグル?いけない!爆撃態勢に入ってます!」
工藤の悲鳴にも似た報告が告げられる。
「各機!散開!航空機の針路から今すぐ離れろ!」
伊達が叫ぶ。
3号機の頭上を越えた2機のF‐15Eは胴体に取り付けられた【Mk-83:1000ポンド(454キログラム)】爆弾が機体を離れ先程まで僚機がいたであろう場所にばらまかれる様に降り注ぐ。
轟音と共に木々がバラバラに吹き飛び、土煙がたちこめ、空高く舞い上った土砂が機体にバラバラと降り注いでいた。
「各機!被害状況送レ!」
爆発の影響により通信やHUDにノイズが入る中、伊達は僚機の状況を確認すべく辺りを見渡した。
「2号機です。120mmライフル破損、射撃不能の為破棄します」
「3号機、工藤1曹共に異常なし!全UAV射出後そちらに合流します」
「4号機異常なし」
「5号機、右モニター破損、対レーザー警報装置及び各種センサーが使用不能です!」
「6号機、海野准尉共に異常ありません!」
「了解!各機、全周警戒!繰り返す!全周警戒!」
そう叫びながら伊達は120mmライフルのコッキングハンドルを引き薬室に初弾を送りこんでいた。
「メキシコ政府軍?」
國村の疑問でも投げかける様な声が通信に入る。
「いや、違うだろう。メキシコ軍はF‐15を採用していない!ましてやストライクイーグルなど・・・」
「なら、あのF‐15は何なんですか!メキシコ軍でないとすると?」
語尾を濁す國村が何かに気付き話し出す。
「まさか・・・米軍?」
「そのまさかだ。相手は、あの米軍だ!」
伊達の言葉に全員が驚く。
「何故、米軍がメキシコに?」
「それは判らん。だが、ここまで堂々と飛んで来たんだ。メキシコ政府と何らかのコンタクトは取ってるに違い無い!
ましてや我々は友軍識別信号を出してる訳でも、国籍を示す日本国旗を掲げている訳でもない、非公式戦闘部隊だ!
各機、この場をなんとしても切り抜けよ!その為の発砲を許可!我々の生存を最優先とし!集結地デルタへ向え、以上」
伊達の命令により各機はそれぞれが【生存】の為に行動を開始する。
が、3号機から射出されたUAVと各機のレーダーやセンサーが米軍の部隊を次々と発見し、無数の光点としてHUDにと映し出していた。
「こちら3号機、UAVが地上部隊を捉えました!その数・・・約、1個偵察大隊規模!?」
「多すぎる!3号機!米軍の無線を解読・傍受は出来るか?」
通信を聞き伊達が3号機に尋ねる。
「時間は掛かると思われますが可能です!」
「やってくれ!」
米軍の数はしかり、地上部隊のその光景は余りに異常だったのだ。
港湾施設攻撃からメキシコ政府がアメリカに支援を要請したとしても対応が早過ぎ、まして地上部隊がこの場に居るなど絶対に有り得ない。
そう、彼等米軍の目的は【特機小隊】なのであった。
この計画は南アフリカで記録された特機小隊をアメリカの近くにおびき寄せ、捕獲又は破壊を目的とし計画された物だったのである。
メキシコ合衆国
アカプルコより東100km
米海兵隊強襲揚陸艦
【エセックス】指揮所
「ここで部隊を展開しても宜しいのですか?」
この艦の艦長がそう尋ねる。
「心配ない。メキシコ政府も承認済だ。君はこの命令書が信用出来んのかね?中佐」
「と・・・とんでもありません!しかし【ワドル准将】自ら指揮を取る作戦とは?」
「君が知る必要は無いのだよ!君は与えられた任務とこの艦を指揮していれば問題ない。それとも私の作戦に何か問題があるとでも言うのかね?中佐?」
スクリーンを見ながら言うワドルに艦長はそれ以上何も言えず、指揮所を去っていく。
同時刻・米陸軍・M1A2エイブラムス
小隊長車
「大尉、まもなく目標地点・・・ジャップの新型兵器って何なんですか?」
「俺も詳しくは判らんがロボット兵器らしい」
「え?ロボット?アニメ好きのジャップらしい発想だ。俺がスクラップに変えてやりますよ!」
「ああ、頼りにしているよ。だが油断はするな!60年以上海を渡った事の無いジャップがこんな所でドンパチやってるんだ、それなりの性能を有しているに違い無い。
各車!マリーンに先を越されるな!ジャップの新型兵器を仕留め、USアーミーこそ最強だとジャップに思い知らせてやれ!」
『「イエス サー!」』
士気旺盛な米戦車小隊・・・それから直ぐ1号車から目標発見の通信が入って来る。
「こちら小隊長、目標確認。よし!まだこちらには気付いていないようだ・・・
各車!ターゲットを照準。APFSDS弾装填!距離1100」
各車から目標照準完了の連絡が来たのを確認した小隊長は号令した。
「ファイヤ!」
暗闇の中、各車から一斉射撃された120mm砲弾がオレンジ色の尾を引いて目標へと伸びて行く。
が・・・そこにあるはずの目標の姿はすでに無く爆音だけが辺りに木霊した。
「なっに!消えた?」
小隊長はもしやと思い戦車上部のハッチを上げ夜空を見上げていた。
そこには月を背に跳躍するロボットの影があり、見惚れそうにもなりつつ、彼は叫んだ。
「全車!全速後退!」
その命令をかき消すかの様な閃光と発射音が響く。
次いで爆音が轟いた。
ロボットから発射された砲弾の1つが自分の戦車の前方に着弾。
その爆風により車内に落ちる小隊長・・・
「クッ・・・撃て!撃ちまくれ!」
そう言いながら小隊長は全速で後進している戦車の中から先程自分達がいた場所を確認する。
炎を上げ変わり果てた姿の【エイブラムス】が3両確認出来ていた・・・
「糞!ジャップめ!仲間の敵だ」
仲間の死で怒りのままに砲手はそう叫ぶ。
なんとか初弾を交した2両の【エイブラムス】は砲撃を続けるも目標を捉える事が出来ずにいた。
そして・・・砲撃を交していたロボットの砲口が彼等へと向けられる。
「スモーク!!煙幕を張れ」
戦車側面に取り付けられた60mmスモーク弾が戦車を包み隠すも、ロボットから放たれた120mmHEAT弾は2両の戦車の上面へと着弾した。
小隊長の視界に閃光と衝撃が走った。
そして・・・バチバチと火花を上げる車内で彼は薄れゆく意識の中・・・(油断は無かった)ただ、敵を過小評価していたのだと・・・悔いながらその瞳を永遠に閉じる事となる。
≪ピッピッ!≫≪ピッピッ!≫
伊達が3号機に米軍の無線解読を命じた直後――――
機内にレーザー警報が鳴り響いた。
目を向けると右モニターに丘の起伏を利用し砲搭だけを覗かせる【エイブラムス】の姿が映し出される。
咄嗟に操作ペダルを踏み込み機体を戦車の方向へ向けながら、1号機はブーストボタンを押し大きく跳躍する。
そこへ【エイブラムス】の斉射が加えられ自分の判断が正しかった事に感謝しつつ、モニターに表示される5両の戦車をロックし彼はトリガーを引き絞る。
空中でフルオートに設定されている砲のトリガーを短く絞り、発射した5発の砲弾は3両に命中するも、他は手前に着弾するの確認しながら・・・
機体は重力に逆らう事無く引き寄せられる様に、そのまま地面へ着地し機体を立て直す。
着地の振動でヘルメットからにじんだ汗がモニターに数滴飛ぶのを見ながら、休む暇なくエイブラムスから吐き出される砲弾をスライドしながら回避する。
心の中で生存の為とは言え、眼下で闘っている相手は【同盟国アメリカ】なのだと認識しながら・・・引き金を絞る自分と闘いながら。
そこに3号機からの通信が入った。
「特機3から特機1へ!米軍無線の周波数を捕捉。プロテクト解除成功!無線流します」
そして・・・特機小隊各員は驚くべき事実を知る事となる。
【ジャップ】と言う単語が何度も繰り返され現在こちらを攻撃している彼等【米軍】は、我々が日本国・自衛隊だと認識して攻撃している事実を・・・
「そんな・・・判ってて攻撃してくるなんて!」
6号機の前席で呟く海野に國村が答える
「日米安保も同盟も関係無いようね!こうなれば・・・」
6号機から入っくる来る通信を耳にしながら、込み上げる怒りや憎しみと言う感情を押し殺し、伊達は跳躍しつつ前方の2両のエイブラムスに対して発砲した。
戦車同様に、闇を照らし微かな振動をコックピットへ伝えた2つの砲弾はスモークを張りながら後退する2両のエイブラムスに着弾し爆発する。
そして、彼の周囲に脅威が無くなった事を告げる文字がモニターに表示されていた。




