新学期と誤解-1
新学年の新学期から私も学校に行くの楽しみだな、皆覚えいるかなぁ私の事を。
新入生も入ってきて最上級生になるんだけれど、パパの古い友達の事で学校中が大騒ぎになてしまうの。
「おはよう、海」
「おはよう、ルコ。今日から学校なんだね」
「そう、久しぶりだな。でもなんだかワクワクするよね」
「そうだね、同じクラスになれると良いよね」
「海は、私より担任が誰かの方が気になるんじゃないの?」
「でも、やっぱり親友のルコと同じクラスになりたいなぁ」
「おお、言ってくれるじゃん。恋人の余裕かなぁ」
「そんなんじゃないよ」
「そこの2人、早くしないと遅刻するぞ」
「いけない、走るよ海」
「うん」
バイクに乗った隆羅が声を掛けると、海とルコが隆羅の乗ったバイクを追いかけるように走り出した。
青葉台大学付属青葉台高等学校の中庭に大きな掲示板が出され2年生と3年生のクラス分けが貼り出されていた。
「ああ、ルコだ。久しぶりだね」
「留学していたんでしょ。凄いね」
友達が次々と声を掛けてきた。
「えへへ、でもいろんな事があって凄く大変だったんだよ。また1年ヨロシクね」
「ルコ、早くクラス分け見に行こう、入学式遅れちゃうよ」
「ゴメン、また後でね」
掲示板の前で海と一緒にクラスを確認する。
「えーと、葉月、葉月」
「ルコ、あったよ。また一緒だ、クラスは3ーAだよ、それに……」
「海、何をモジモジしてるの? あっ担任、如月だ」
「えへへ、やっぱり嬉しいな」
「もう、顔。真っ赤だよ」
すると、この前まで同じクラスだった同級生が声を掛けてきた。
「ええっ、ルコと海は担任、如月先生なのズルイな。私なんかB組だから現国の霜月のハゲだよ、同じ所に住んでいて学校も一緒なんて神様不公平だぞぉー」
2年の時のクラスメイトが大声で叫んだ。
「もう、恥ずかしいよ。大声で」
「良いよね、海は憧れの如月先生とだもんね」
「でも、真面目にしてないと前みたいに怒られちゃうからね」
「まぁ、それもそうだね。それじゃ、クラスに行かなくちゃ。バイバイ」
「海、私達も早く行かないと。新学年早々、如月の雷が落ちるよ」
「そうだね、それダッシュだ」
急いでクラスに向かう、教室に入るとまだ席順も決まっていないので男子も女子も適当に座ってザワついていた。
「おはよう、とりあえず出席を取るから出席番号順に座ってくれ」
如月先生が教室に入って来て出席を取り始め、それに合わせて席に着いていった。
そしてみんなが席に着くと教室を見回して、みんなの顔を見ながら歩き出した。
「留学に行っていた葉月も3年からこのクラスなんだな。まぁ、色々とみんなも聞きたい事があるだろうが、葉月の事だ。どうせ遊びが忙しくて勉強どころじゃなかっただろうから、みんなもあまり期待はしないようにな」
「如月のヤツ、またあんな事を」
クラスのみんなが大笑いして、ルコが如月の顔を睨みつけてブツブツと言った。
「葉月、何か言ったか?」
「いえ、別に」
「最上級生なのだから新1年生や下級生の2年生に恥ずかしくない行動をするように」
「こらぁ、水無月もボーとしていない」
海が出席簿で頭を軽く叩かれ頭に手を当てて照れ隠しをした。
「えへへ、スイマセン」
「それじゃ、体育館に行くぞ」
「はーい」
みんなが返事をしてぞろぞろと体育館に移動をはじめた。
体育館に行くと直ぐに在校生の席に着く、最上級生にもなると落ち着いたものだった。
そして入学式が始まった。
不思議な事に毎年、司会進行役は如月の仕事だった。
「新入生入場」
如月の声が体育館に響いた。
そして、初々しい新入生が入場して来た。
席に着き始めるが、ザワついていて特に女子の声が耳に付いた。
「あれが噂の如月先生?」
「やっぱり本物は格好良い!」
など殆どが如月に関する物だった。
付属校の為、小・中・高と殆どエスカレーター式になっているので如月の話は、下の学校まで広がっていた。
そして新入生が全員席に着くがザワつきは収まらなかった。
「新入生、静かに!」
如月の厳しい声が体育館中に響き、静まり返った。
「君達は、これから高校生なのだから小・中学生の下級生に見られても恥ずかしくない行動をとる様に」
これも不思議な事に毎年繰り替えされている光景だった。
この時に新入生は如月先生の厳しさを始めて体験する事になる。
保護者にも人気のある如月先生だけに学校側のアピールの場なのかもしれなかった。
入学式も無事終わり、生徒達はホームルームの為に教室に戻って雑談をしていた。
「しかし、今年の1年もまた如月か、何処が良いのかね」
男子が嘆いていた。
「大人で落ち着いていて真面目な所が良いんじゃない」
女子が即答する。
「そんな、物なのかな。俺らはまだまだ子どもって事ですか」
「そういう事を言うから、子どもで駄目なんじゃん」
「はいはい、そうですよ。なぁ、葉月はどう思うんだ」
「私に聞くなぁ!」
突然、振られたがルコは如月に言われた事に腹を立てて虫の居所がすこぶる悪かった。
「如月に、何か言われると直ぐこれだ。おお怖!」
「マジで、殴るぞ」
「ルコ、止めときなよ」
ルコが席を立とうとするのを海がどうにか宥める。
「如月のヤツ、馬鹿にして」
「でも、おかげであまり留学の事を皆は聞きに来ないじゃん」
「そうなんだけど、ムカつくんだよね」
「ルコは、分かっているくせに」
「分かっているから、余計に腹が立つの!」
「でも、凄い切り替え様だよね」
「二重人格みたいなもんだからね」
「まだ、知らない事いっぱいなんだろうな。知りたいけれど知るのが怖いって感じかなぁ」
海が少しだけ寂しいような怖いような曖昧な顔をした。
「そうだよね、私もまだ、何でママと結婚したのか知らないしなぁ」
「ええっ、そうなんだ」
「絶対に教えてくれないんだ、時期が来たらの一点張りで」
「ん、んん! ホームルームを始めても構わないかなぁ。葉月に水無月?」
ルコと海が振り向くと如月が後ろに立って眉をヒクヒクさせていた。
「はい、スイマセンでした」
話に夢中になって如月が教室に来た事に気がつかなかった。
こんな感じで始まった、高校最後の1年なんだけれど。
それはそれで大変な出来事が、いっぱいあってハラハラ、ドキドキな感じかな。
新入生も新学年も学校やクラスになれて、だいぶ落ち着きが出てきた4月の後半の大型連休前の放課後。
校内の廊下でルコが海を待っているとそこに如月が歩いてきた。
「葉月、すまないが水無月に友人とこれから会わなければならないので、帰りが遅くなると伝えてくれないか」
「そんなの、直接言えば良いじゃんか」
「言えれば、葉月に頼まないさ。こんな会話を水無月としていて誰かに見られてみろ大騒ぎになるだろ」
「私なら良いんだ、別に」
「葉月と俺が、親子だったという事はみんな知っているからな」
「ふうん、『だった』なんだ」
「分かった、もう頼まない。俺が悪かった。すまない」
如月がルコの肩にポンと手を置いて少し肩を落としため息をつきながら立ち去ろうとする。
「ゴメン。学校じゃ他人行儀だから、ちょっと言って見ただけ。ちゃんと海には伝えるからね」
ルコが慌てて振り返り言うと、如月は振り返りもせず片手を上げて答えた。
それからしばらくすると海がやってきた。
「ルコ、ゴメン待った?」
「遅いぞ、さっきまで如月が居たのに」
「ええっ。で、何か言ってた?」
「そう来るか。今日は友達と会うから遅くなるって」
「そうか、1人でお留守番だ」
「家に来れば良いじゃん、茉弥も喜ぶし」
「そうだね、じゃ帰ろう」
2人仲良くお喋りしながら昇降口に向かい歩き出した。
隆羅は最寄り駅から少し離れた遠い駅の駅前に居た。
フクロウの顔が書かれている交番の前で腕組みをしながら人を待っている。
「しかし、相変わらず時間にルーズなヤツだな」
待ち合わせの時間から15分が過ぎようとしていた。
そこに小柄だがすらっとした体型で、髪はショートボブのメガネを掛けていて目がクリッとした。
歳の割には可愛らしく服装も春らしいワンピースにベージュのカーディガンを羽織っている女性が走って来た。
「はぁ、はぁ、はぁ。ゴメン、隆羅待った?」
「雅。久しぶりに会うのに、相変わらずだな」
「だから、謝っているでしょ」
「今日は、何の用事なんだ?」
「買い物と食事に付き合ってって、電話で言ったでしょ」
「未だに彼氏は居ないのか?」
「居ないから隆羅に頼んだの。それに、こっちに出てくるのは久しぶりだから、この辺良く分からないし」
「つまり、道案内兼荷物もちで飯を奢れと」
「そんな所かな。時間があまり無いから行こう」
「お前が、遅刻してきたんだろうが」
「うふふふ、そうでした」
雅が隆羅の腕をつかんで引っ張り歩き始めた。
隆羅と腕を組んで嬉しそうに歩き出す。
「で、何処から行きたいんだ?」
「とりあえずハンズかな、それとデパート系をひと通り」
「また、画材探しか? ネットで探せよ」
「苦手なのパソコンって。それに実際に目で見て触って見なきゃ分からない事が多いのよ。繊細な物なんだから」
「了解しました。雅にその事を語らすと止まらなくなるからな」
すると雅が隆羅の顔を見上げた。
「そう言えば、今回の個展には来てくれるの?」
「行きたいのは山々なんだが、忙しくてな」
「1回も来てくれた事無いよね」
「悪いとは思っているんだぞ。古い付き合いなのに」
「そうだね、腐れ縁みたいなもんだもんね」
「兄妹みたいな感じだしな」
「そうそう、恋愛関係なんて考えられないもんね、隆羅じゃ」
「悪かったな。そのままお返しするよ」
「ふふふ、不思議な関係だよね」
「ああ」
「隆羅は彼女って、そう言えば結婚していたっけ」
「別れたぞと言うか、友達に戻ったと言うか」
「そうなんだ、最初聞いた時はビックリしたもん、子どもを育てる為に結婚だなんて」
隆羅の顔を見上げて雅が目を細めながら言った。
「まぁ、その話は良いじゃないかなぁ、ついたぞハンズに」
「やっぱり、いつものなの?」
「そうだな、いつものだ」
ハンズに入り、エスカレーターで最上階まで行き、各フロアーを見ながら下に降りて行くのが隆羅の昔からの癖と言うか、ハンズやデパートを見て廻る方法だった。
「この方が、楽だろ」
「そうかなぁ、まぁ良いけれどね」
「大阪にもハンズはあるんだろ」
「あるけれど、今回は打ち合わせなんかがあって東京に来たの。そのついでかな、隆羅の顔も見たかったしね」
「今日は、何の画材を探しに来たんだ」
「画材じゃないんだけれど、何か変わった物で使える物をね」
「そうなのか、大変だな。アーティストも」
「今の時代は何でもありだからね、それにそのアーティストと言うのは止めて欲しいの。私は自分が描きたい物、創りたい物を自由にしているだけ」
ひと通りハンズの店内を見て回り、今度はデパートへ行くために駅ビルの方へ歩く。
「ねぇ、隆羅。今日は何をご馳走してくれるの?」
「何が、食べたいんだ?」
「イタリアンが良いかな」
「イタリアンなら雅に打って付けの店があるぞ」
「じゃ、行こう!」
雅が片手を挙げて楽しそうに叫んだ。
「行こうって探し物は良いのか?」
「腹が減っては、戦は出来ぬだもん」
「分かった、じゃ行くか。場所は駅の反対側だ」
学校帰りに寄り道している青葉台大付属の女子生徒が、雅が隆羅と腕を組みながら駅前を歩いている姿を偶然見つけた。
「ねぇねぇ! あれって如月先生じゃないの?」
「うわぁ、本当だ。こんな所にいるの見つかったらやばいよね。でも、何だか2人ともとってもいい感じ。先生も楽しそうだしデートかなぁ?」
「その前に、誰なんだろうあの綺麗な人。やっぱ如月の彼女かなぁ」
「彼女、だったら。カシャとこうよ」
「そうだね、これはビッグニュースだもんね」
携帯を取り出し2人に気付かれないように如月と雅を写した。
「ねぇ、これから何処に行くのかなぁ?」
「ちょっと、興味津々。追いかけて見ようよ」
「少しだけだよ、遅くなるとママに叱られるから」
2人を見失わない様に追いかける。
駅ビルを抜け西口に向かい、歩いて直ぐの場所にある芸術劇場の前に着いた。
「隆羅、ここって芸術劇場じゃないの?」
「そうだが、中に入ってみれば分かるよ」
劇場の中に入り2階へと上がるとお店が見えてきた。
「ここに、トラットリアなんかがあるなんて素敵」
「雅が好きそうな場所だろ」
「隆羅、ありがとう」
そのトラットリアはとても天井が高く壁一面にはアートな壁画と、開放感があり芸術の香りが広がる空間になっていた。
雅は白のグラスワインの トレッビアーノダブルッツォ、隆羅はチンザノドライをロックで注文した。
食事はフルーツトマトとモッツァレラのカプレーゼ、鮮魚のカルパッチョ、パスタはスパゲッティ プッタネスカとゴルゴンゾーラのペンネの2品を頼んだ。
「じゃ、チンチン」
イタリアンな乾杯をして食事をする。
「ねぇ、そう言えば聞くの忘れていたけれど、隆羅は彼女居ないの?」
「居るぞ、ちゃんと」
「そうなんだ、でもこんな所見られたりしたら不味く無いの?」
雅が不思議そうな顔をして隆羅に聞いてきた。
「何故? 友達と食事しちゃいけないんだ。俺にだって付き合いはあるんだから」
「でも、彼女からしてみれば他の女性と食事って面白く無いと思うけど」
「じゃ、俺に彼女以外との友達付き合いをするなと、そんな事は不可能だろ」
「まぁ、そうなんだけれどね。今度、紹介しなさいよちゃんと」
「まぁ、そのうちな。色々あって周りには秘密にしている事多いしな」
「何それ、怪しいなぁ」
雅が何か如何わしいものでも見るような目で隆羅を見ると、隆羅は気にせずにパスタを口に運んでいた。
「このプッタネスカ美味しいぞ」
「どれどれ、少し頂戴」
そんな他愛の無い会話をしながらの食事も終わり。
駅ビルの中にあるロフトやデパートなどを見て回り駅で別れる。
「また今度ね、隆羅。週末まで個展やっているから時間があったら見に来てね」
「ああ、分かった。頑張れよ、またな」
マンションに着いたのは10時を少し過ぎた頃だった。
部屋には明かりがついておらず、海の姿は無かった。
「ルコの所にでも行っているのか、とりあえず風呂でも入るか」
ベッドに上着やネクタイ、シャツを脱ぎ捨てバスルームに行きシャワーを浴びる。
その頃、海はルコ達の部屋で茉弥と遊んでいた。
「ルコ、そろそろ隆羅が帰ってるかもしれないから帰るね」
「そうだね、明日も学校だしね。おやすみ」
「おやすみなさい、茉弥ちゃんバイバイ」
「キャッ、キャッ」
茉弥がはしゃぎながらバイバイをしている。
茉弥に手を振りルコの部屋を出て自分の部屋に戻ると玄関に隆羅の靴があった。
「ああ、帰って来てる」
「隆羅、お帰り……あれ? お風呂かな?」
寝室に入るとベッドの上にいつもの様に洋服が脱ぎ捨ててあった。
「もう、直ぐにハンガーに掛ければ良いのに。皺になっちゃうじゃん」
スーツの上着をハンガーに掛けようとした時、スーツから微かに香水の香りがした。
「あれ、何で。電車の中で付いたのかなぁ」
その時、隆羅がバスルームから出てきた。
「お帰り、隆羅」
「ただいま、海。どうした?」
隆羅が海の顔を見ると一瞬だけ哀しそうな顔になった。
でも直ぐにいつもの海に戻ったので、隆羅は気にも止めなかった。
「服はハンガーに掛けないと皺になっちゃうでしょ」
「悪いな、いつも」
「今日は、どんなお友達だったの?」
「古い付き合いのヤツで自由人かなぁ」
「そうなんだ」
隆羅が寝室のベッドに腰を下ろして海の顔を見ながら普段と変らない口調で話しかけてきた。
「それより、連休明けにテストがあるが大丈夫なんだろうな」
「一応、勉強しているけれど」
「数学だけは頑張ってくれよ」
「数学だけで良いの?」
「まぁ、他は程ほどでな」
「それが先生の言う言葉かなぁ、まったく」
「いや、流石に教えている方は凹むぞ。ルコの時は散々だったからな」
「点数が悪かったらどうするの?」
「家でも先生バージョンになって、厳しくお勉強だ」
「ブゥー。それは嫌です」
海が口を尖らせて頬を膨らませた。
「じゃ、頑張ってくれ。疲れたから先に横になるぞ」
「隆羅、少しだけ待ってよ。直ぐにお風呂に入ってくるから」
「分かった。待ってるよ」
海が急いでバスルームへ走って行った。
学校の後、散々歩き回ってアルコールも少し入っているせいか眠たくなって来た。
欠伸をしながら眠気を我慢して海が出てくるのをベッドで横になりながら待った。
「あれ、隆羅。寝ちゃったの?」
「起きてるぞ」
とても眠そうな隆羅の声だった。
「もう、今日はあんまりおしゃべり出来なかったのに」
「海が友達と遊ぶように、俺にも付き合いがあるんだからしょうがないだろ」
「それは、そうだけど」
「ほら、寝るぞ」
隆羅が海の手を引っ張られて隆羅に軽く抱しめられる。
「まだ、髪の毛濡れてるのに」
「大丈夫だょ、もう半乾きだろ」
「本当に、隆羅って子どもみたいな所あるよね」
「嫌いか? そんな所は」
「嫌いじゃないけどさ」
「なら、良いじゃないか」
海のおでこにキスをすると隆羅の眼が既にトロンとしてきていた。
「ねぇ、隆羅。浮気なんてしないよね」
「しないよ、そんな事。おやす……」
「寝ちゃった。もう隆羅のバカ」
海が少し怒って隆羅の鼻をつまむと海も直ぐに夢の中に入っていった。




