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第二章 便利な相棒

AIは便利だ。


仕事で使うなら、なおさらだ。


文章を作ってもらう。


資料を整理してもらう。


自分では思いつかなかった考えを提示してもらう。


それでも、多くの人はこう考えるだろう。


「仕事で使うものは、仕事だけで使えばいい」


プライベートまでAIに頼る必要なんてない。


自分のことくらい、自分で決めればいい。


主人公も、そう考えていた。


会社で認められたAIを使い始めたばかりの彼にとって、AIはあくまで仕事を効率化するための道具だった。


しかし――


便利なものを知ってしまった人間は、


その便利さを仕事だけに留めておけるのだろうか。

翌朝。


俺は昨日、AIに作らせたメールのことを思い出していた。


別に、たいしたことじゃない。


たった一通のメールを書いてもらっただけだ。


それでも、昨日まで何十分も悩んでいたものが、数分で片付いた。


「……便利だったな」


会社に着き、パソコンを立ち上げる。


昨日と同じように、会社が導入しているAIを開いた。


昨日までは、AIなんて使ったこともなかった。


それなのに、一度使ってしまうと妙に気になる。


俺は今日の仕事を確認しながら、AIに入力した。


『今日の仕事を効率よく進める方法を教えて』


すぐに回答が返ってきた。


今日やるべき仕事を整理し、優先順位まで付けてくれている。


俺は画面を見ながら思った。


「なるほどな」


昨日までなら、自分で考えていた。


今日はAIに聞いた。


それだけの違いだ。


しばらくすると、隣の同僚がこちらを覗き込んできた。


同僚「お、今日も使ってんじゃん」


俺「便利だからな」


同僚「言っただろ? そのうち何でもAIに聞くようになるって」


俺「いやいや。仕事で使うだけだよ」


同僚「最初はみんなそう言うんだよ」


俺「そんなもんかね」


同僚は笑いながら自分の仕事に戻っていった。


俺は画面を見つめる。


AIはあくまで道具だ。


包丁や電卓と同じ。


便利なら使えばいい。


必要がなければ使わなければいい。


その程度にしか考えていなかった。


午前中の仕事を終え、昼休み。


午後から会議がある。


俺は試しにAIへ質問した。


『午後から会議があります。効率よく進めるために準備しておくことは?』


数秒後。


会議の目的を確認すること。


必要な資料を整理すること。


想定される質問を洗い出すこと。


そして、会議で決めるべき事項を明確にしておくこと。


当たり前のことばかりだった。


だが、その「当たり前」が整理されて表示されると、妙に頭に入りやすかった。


さらに質問する。


『想定される質問を挙げて』


いくつもの質問が表示された。


その中には、自分では考えていなかったものもあった。


「……こいつ、結構使えるな」


午後の会議は、思ったより順調に進んだ。


AIに整理してもらった資料が役に立った。


会議が終わる頃には、俺の中で一つの考えが生まれていた。


仕事で分からないことがあったら、まずAIに聞けばいい。


それから数週間。


俺は、会社のAIを使い続けていた。


メールを書く。


資料をまとめる。


文章を修正する。


会議の準備をする。


仕事で困ったことがあれば、とりあえずAIに聞いてみる。


便利だった。


そして、何度も助けられた。


ある日、仕事で少し難しい問題が起きた。


俺は自分なりに考えたあと、AIに相談した。


AIはいくつかの解決策を提示した。


その中から一つを選んで実行する。


結果はうまくいった。


「……すげぇな」


俺は思わず呟いた。


その日を境に、AIに対する俺の見方が少し変わった。


ただの便利な道具。


それだけではない。


困ったときに相談できる相手。


そんな感覚になっていた。


そして、ある日の帰宅後。


俺は夕食を食べながら、会社での出来事を思い出していた。


仕事ならAIに聞ける。


でも、会社のAIを私生活で使うわけにはいかない。


当然だ。


会社のシステムなのだから。


俺はスマートフォンを手に取った。


そして、ふと思った。


「……個人向けのAIってあるのかな」


スマートフォンで検索する。


いくつものAIサービスが表示された。


俺はその中から一つを選び、アプリをインストールした。


画面に表示された入力欄を眺める。


会社では何度も使っている。


なのに、自分のスマートフォンに入ったAIを見ると、少しだけ不思議な感覚がした。


「まあ……試すだけならいいか」


俺は最初の質問を入力した。


『明日の休日、何をして過ごそうかな』


AIから回答が返ってきた。


いくつかの候補。


その中から一つを選ぶ。


たったそれだけだった。


それでも俺は思った。


「……こっちでも便利だな」


このときの俺は、


まだ知らなかった。


会社で使っていたAIと、


自分のスマートフォンに入れたAIが、


やがて俺の人生の中で、


どれほど大きな存在になっていくのかを。

最初は、仕事だけだった。


メールを書く。


資料をまとめる。


分からないことを聞く。


便利だった。


だから使った。


使えば使うほど、仕事は楽になった。


そして今日。


一人の会社員が、自分のスマートフォンにAIを入れた。


最初の質問は、たった一つ。


「明日の休日、何をして過ごそうかな」


それだけだった。


誰に相談するほどでもない、些細なこと。


きっと、誰にでもあり得ることだ。


しかし――


もし、そんな些細な相談が世界中で始まったとしたら?


仕事のこと。


休日のこと。


人間関係。


お金。


将来。


そして、人生そのもの。


人間がAIに相談することが、少しずつ当たり前になっていったとしたら。


ある日、人間は気づくのだろうか。


自分で選んでいると思っていたものの中に、


いつの間にかAIの答えが入り込んでいたことに。


そして――


「AIに聞かない」という選択肢が、いつから存在しなくなったのか。


その境界線は、


誰にも分からないのかもしれない。

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