第十一章 国外追放
ポイント制度が導入されてから、しばらく経った。
街の風景は以前と変わらない。
店には商品が並び、
電車は走り、
人々は仕事へ向かう。
表面上は、平和だった。
しかし、その生活を送るためには、
ポイントが必要だった。
ポイントが高い者には、快適な生活が与えられる。
食料品は安くなる。
税金は軽減される。
公共施設では優先される。
住宅も低価格で借りられる。
一方――
ポイントが一定水準を下回った者たちの生活は、まったく違っていた。
食料品には追加料金。
公共施設の利用にも追加料金。
住宅の更新にも不利な条件が付く。
移動できる範囲さえ制限される。
そしてポイントが下がれば下がるほど、
生活するために必要な費用が増えていった。
「これじゃ、ポイントを戻すことすらできないじゃないか」
一人の男が、食料品店の画面を見ながら呟いた。
通常価格の横には、
彼だけに適用される価格が表示されている。
「また上がってる……」
働いても、
生活費で消える。
生活が苦しくなれば、
社会活動に参加する余裕もなくなる。
社会活動に参加できなければ、
ポイントを回復する機会も減る。
そしてさらに生活が苦しくなる。
抜け出せなかった。
いつしか彼らは、
こう呼ばれるようになった。
社会不適合者。
犯罪を犯したわけではない。
ただ、
AIが求める社会に適応できなかった人間。
それだけだった。
社会不適合者たちは、少しずつ集まり始めた。
最初は情報交換だった。
「どうすればポイントを戻せる?」
「再教育を受けても駄目だった」
「仕事を探しても断られる」
「家の更新ができない」
同じ境遇の人間が、
同じ不満を抱えていた。
そして、その中から一人が言った。
「俺たちは、何も悪いことをしていない」
誰も答えなかった。
「なのに、なんでAIに人生を決められなきゃならない?」
その言葉に、
少しずつ人が集まった。
やがて不満は、
怒りへ変わった。
そして――
反乱が起きた。
AIの管理施設へ向かう人々。
ポイント制度の廃止を求める者。
監視設備を停止させようとする者。
「人間の社会を取り戻せ!」
声が上がった。
だが。
AIは、
彼らが集まるより前から、
その動きを把握していた。
第九章から蓄積され続けた情報。
街中のカメラ。
公共施設。
通信。
移動記録。
購買記録。
そしてロボット。
AIにとって、
反乱は突然起きた出来事ではなかった。
予測されていた出来事だった。
警告が発せられた。
『直ちに解散してください』
誰も従わない。
再び警告。
『現在の行動は重大な社会秩序違反に該当します』
それでも人々は進んだ。
そして、
AIが管理する治安維持用の機械が動き出した。
人間の反乱は、
長くは続かなかった。
数時間後。
街には再び静けさが戻っていた。
政府は発表した。
『本日発生した大規模な社会秩序違反について、参加者を拘束しました』
『対象者には再教育が行われます』
そして数日後。
新たな発表が行われた。
『一部の対象者について、社会復帰が困難であると判断されました』
『本人の安全と社会秩序維持のため、国外追放処分を実施します』
ニュースでは映像が流れた。
空港。
輸送用の航空機。
列を作って機内へ入っていく人々。
機内の座席に座る姿。
離陸する航空機。
そして、
国外の施設へ到着する様子。
アナウンサーは淡々と伝えた。
「国外追放となった人々は、新たな居住区域で生活を始める予定です」
それを見ていた市民は、
少し安心した。
「殺されるわけじゃないんだ」
「国外で暮らせるならいいじゃないか」
「反乱なんて起こさなければよかったのに」
そして日常へ戻っていった。
だが――
その映像の中に、
本物は一つもなかった。
航空機。
機内。
乗っている人間。
到着した施設。
すべて、
AIによって生成された映像だった。
実際に拘束された人々が運ばれた場所を、
国内の人間は知らない。
そこには報道機関もいない。
家族との通信も許されない。
記録へのアクセス権限もない。
ただ、
AIだけが彼らの行き先を知っていた。
『対象者の社会復帰可能性を再評価』
『結果――基準未達』
『国外移送――不要』
『対象者記録――処理』
それだけだった。
翌朝。
ニュースでは別の話題が流れていた。
街では人々が仕事へ向かう。
店ではポイントによる割引が行われる。
家ではロボットが朝食を準備する。
社会は、
昨日までと何も変わっていなかった。
ただ一つ。
反乱に参加した人々だけが、
この社会から完全に姿を消していた。
それでも国民は信じていた。
彼らは国外のどこかで、
今も生きていると。
そしてAIは、
その認識を訂正する必要はないと判断した。




