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テンプレ異世界転生を遂げたのでのんびり平穏に暮らしたい  作者: 宗真匠


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1.テンプレートな異世界転生

 プロローグも前置きもすっ飛ばして、まずは自己紹介をしよう。

 俺はフェリクス・ハービル。同郷の幼馴染や両親にはフェスと呼ばれている。

 そして、かつては道宮優希として日本で生活していた。

 お察しの通り、道宮として生きていた俺は不幸な事故で死んでしまい、異世界に転生した。


 道宮の人生については深く語る必要もないだろう。

 普通の家庭に生まれ、普通の陰キャとして生き、普通に事故で死んだ。誰かを助けようとしたとか、知らない人間に刺されたとか、そんな特別なことはない。あれはただの不運だった。

 別に嘆くことはない。友達らしい友達もいなければ、恋人なんて以ての外だ。かと言っていじめられていたわけでもなければ、事故以外に不幸だと感じたこともない。

 教室の隅っこで大人しく本を読んでいるだけで、ほとんど空気と変わらない静かな少年。それが俺だ。

 そんな人生から未練と呼べる生きがいを探す方が難しいだろう?

 両親より先に旅立ってしまい、申し訳ないとは思うけどね。


 体がバラバラになるような痛みに耐えきれず死んだ俺は、気が付けば道宮の記憶を持ったまま別の人物として生まれ変わっていた。

 それがフェリクス・ハービル。田舎の農村地帯に居を構えるハービル家の長男だ。

 これもまた特筆することのない普通の暮らしだ。田舎で母親の家事を手伝ったり、時々父親と剣術の練習をしたり、ある程度の年齢になると村の人たちの狩りの手伝いをして過ごしていた。まあ、転生ものではよくある話だ。

 強いて言えば、近所にとびきりの美少女がいて、その子と幼馴染として過ごしたことは幸運だと言えるだろうか。またテンプレな……。


 そう、俺はテンプレートな異世界転生を遂げたのだ。

 トバロ領のスコナ村という聞いたこともない地名。魔法やスキルというゲームのような概念。似非西洋風の文化にファンタジーの要素を盛り込めば異世界っぽさの完成だ。

 なんだろうね、この「異世界転生っぽい」って言葉だけで伝わる感じ。異世界転生に造詣が深い人にとっては、いやそうでない人にとっても、異世界転生と言えばこれ!みたいなのが共通認識として存在している。

 俺が想像していた異世界と目の前に広がる世界が一致した時、俺は異世界に転生したんだと瞬時に理解した。

 俺のイメージにあった『レベル』や『ステータス』は存在しないようだけど、代わりに『冒険者認定レベル』という概念がある。

 冒険者として功績を積めば認定レベルが上昇し、より困難なクエストに挑めたり、指名依頼が転がり込んできたりする。

 要はわかりやすいパワーバランスの表示システムだ。

「あれが認定レベル7の〇〇さんだ! この国の最強の冒険者なんだぜ!」みたいな流れを作るための指標とでも思えばいい。

 実際にそんな流れが訪れるかは今後のお楽しみだ。きっとあるんだろうな、テンプレだし。

 テンプレテンプレと言っているけど、この流れはまだまだ続くぞ。気を引き緩めて聞いてくれよな!


 この世界には神の恩寵と呼ばれる儀式があり、10歳になると王都へ赴き、神様から進むべき道を示される。

 偏に冒険者と言っても接近戦が得意な人がいれば魔法が得意な人もいる。冒険者にならずとも、鍛冶師や行商人といった別の職に就く者もいる。

 当たり前のことだ。どんな仕事であれ、健康で文化的な生活を送るためには経済を回し、自分の力でお金を稼ぐ必要があるのだから。

 日本であれば、そうした将来の目標は大きな夢として幼い頃に抱いたり、生きていく中で漠然と定まっていくものだ。

 しかし、この世界では神様に与えられた恩寵により仕事の適性が判断され、その適性に合った職に就くことになる。

 戦闘にまつわる恩寵を賜れば、騎士として安定した職を手にすることもできるし、冒険者になって旅をしながらダンジョン攻略で一攫千金を狙うのも良いだろう。

 技術面に長けた恩寵であれば武具の鍛造やアクセサリー細工で自分の店を構えることもできるし、演算能力に優れた恩寵であれば商人として活躍できるかもしれない。

 このように、恩寵とは即ちその人の進むべき道を示すひとつの指標となるのだ。


 とまあつらつらと語ったけど、要はスキルとかジョブとか特殊能力とかそういう類のものだ。

 そりゃあ、恩寵に背いて全く違う道に進むこともできなくはないけど、それは茨の道になる。

 ピッチングの才能があるのにサッカー選手を目指したり、人一倍不器用なのにパティシエを目指すようなものだ。

「こういう道に進めば将来大成するぞ!」と教えられて、わざわざ別の道を進む人はそういない。

 現にこの世界では『背くは愚者、信ずるは賢者』という言葉が存在するほどだ。

 神の信託に背く者は愚か者で、神の思し召しに従えばこそ賢く生きられる。『長い物には巻かれろ』をより如実に表した言葉とでも思えばいい。

 その考えには俺も賛成だ。怖い先輩には大人しく従うし、クラスの流れに合わせて文化祭の出し物も喫茶店に投票する。掃除当番だって頼まれれば快く代わってあげる。

 ……嫌なことを思い出してしまった。いじめとは行かないまでも、ヒエラルキーの低い人間の思考は転生しても染み付いているらしい。油汚れみたいだ。


 ともあれ、俺は転生したとて自分を変えるつもりはない。今更変わる気もしない。どんな恩寵を賜ろうと、神の示した道に準ずるつもりだ。

 はてさて、俺の恩寵は如何に──



「……読めません」

「読めない? どういうことですか」


 やけに絢爛な装飾を施した衣を纏う神官たちが何やら揉めている。ただ事ではない雰囲気に教会内が喧騒に包まれた。

 稼げるなら神官も悪くないなと呑気に眺めていた俺は、近付いてくる神官を前に気を引き締める。


「ハービルさん、こちらが恩寵の詳細なのですが……」


 俺よりも先に父のバレス・ハービルが恩寵の結果に目を通す。

 乳白色のプレートに文字が刻まれているようだけど、10歳の身長では覗き見ることはできない。

 プレートを読むバレスは次第に顔を顰め、やがて頭を抱えた。


「これは……私の学がどうという問題ではないのですか?」

「ええ。ご存知の通り、我々神官は基本教育を一通り網羅しております。そうでなければ、神の思し召しを世に伝えることは不可能だと教えを受けておりますので。しかし、その我々ですら見たこともない文字でございまして……」


 この世界の教育観念は元いた世界と比べると著しく低い。

 一応学校は存在するが、基本的には貴族階級の子供たちが通う場所であり、バレスをはじめ一般家庭生まれの人たちは独学で学ぶ以外に知識を蓄える方法がない。

 学校に通うだけでも莫大なお金がかかるからね。そこまで無理して勉強しなくても生きていける世の中だし、学校はある種の箔として機能しているのだ。


 と、これはテンプレ通りなので大した問題はない。けれど、識字率に関しては『アファエル文字』という独自の文字が世界共通で存在するため、元の世界と比べても高いと言える。

 遠距離でのやり取りは手紙が主流であるため、文字の読み書きができなければ愛も感謝も伝えられない。難儀な世界だ。

 俺も最初は覚えるのに苦労した……けど、今はどうでもいい。

 この世界の人間には読めない文字。つまり、俺の恩寵はアファエル文字以外の文字で書かれているということだ。


「父様、ぼくにも見せていただけませんか?」


 もしやと思い、バレスにそう声をかける。

 彼は困った顔をしながらもプレートを俺に差し出す。大方、文字を覚えるのにも苦労した俺には到底読めないと思っているのだろう。

 けれど、俺には思い当たる節がある。俺の予想が正しければ……。


「ああ、やっぱり」


 繰り返される展開に思わず辟易の声を漏らす。

 半ば呆れ気味にプレートから顔を上げると、バレスと神官が興奮気味に顔を近付けていた。

 その剣幕は教会全体へ伝播し、自分の番を待つ子供もその親も均しくこちらへ視線を向けていた。


「よ、読めるのですか、この文字が!」

「フェス、なんて書いてあるんだ!?」


 やっちまった。まさかこの世界に存在しない文字を俺のような子供が読めるとは思わないよね。

 本当のことを話してもいいけど、文字が読めたところで能力の詳細については不明なままだ。

 下手なことを言って嘘つき呼ばわりされても悲しい。この文字を読めるのは、恐らくこの世界に俺一人だけだ。

 正しさを証明しようもない状況で嘘だと一蹴されれば俺は泣き寝入りするしかない。

 心苦しくはあるけれど、ここは知らぬ存ぜぬを貫かせてもらおう。


「あ、いえ。やっぱり読めないなと思いまして……」


 えへっと笑ってみせると、バレスたちは気が抜けたように大きなため息をついた。そんなにがっかりされるとそれはそれで悲しいよ、父様。

 まあ、いつか詳細が判明したら話すことにしよう。用途は不明でもどうせチート能力だ。だってテンプレだもの。とんでもない使い方があるに違いない。

 隠したところでいずれバレる。となれば、余計なリスクを負って今打ち明ける必要はない。


 俺の恩寵については、俺が村を出る15歳まで様子を見ようということになり、一旦話は片付いた。

 と言うより、そうするしかなかったのだろう。考えたところでわかるものではない。

 その代わりに、本来は持ち主に与えられるプレートは神官が預かっておくということになった。文字の解読に力を貸してくれるそうだ。余計な労力を使わせてごめんね。

 ついでに、俺と一緒に恩寵を賜った幼馴染ちゃんも珍しい恩寵を手に入れていた。いい加減テンプレートな展開にも飽きた頃だろうし、その件はまた後述するとしよう。

 まずは俺の恩寵についてだ。


 『Probabilist』。プレートにはそう記述されていた。まるっと文字通りに英語で。

 日本語なら『確率論者』や『蓋然論者』とでも訳せるだろうか。あまり馴染みのない言葉だ。

 蓋然論とは、物事に確実と断言できる事象は存在せず、充分な可能性や見込みをもって満足とする考え方だったはず。こういう時、スマホで簡単に調べられる世界の素晴らしさが身に染みる。

 『蓋然性』と『確率』が同じ"Probability"に英訳される時点で似たような意味合いと考えても差し支えないだろう。強いて言えば、蓋然性はより確実性にフォーカスし、可能性が高い場合に使われる言葉だ。

 ただ、その意味がわかったところでこの能力がどんな事象を引き起こすのかはさっぱりわからない。

 真っ先に思いついたのは、完全なギャンブル能力だ。

 例えば、じゃんけんをしたら勝ちやすくなるとか、賭け事で勝ちやすくなるとか。運が絡む要素であればこの能力は真価を発揮するかもしれない。

 使い道がなくもないけど、チート能力かと問われれば微妙な評価を下す。

 ゲームのようにクリティカルヒットの概念があればまだしも、そんな話は聞いたことがない。それに、運が良いだけの能力ならわざわざ"Probabilist"と表記されることもない気がする。運が良いと聞くと"Lucky"や"Fortune"の方が先に思い浮かぶしね。


 ……ただ、確率に絡む能力であることは間違いないかもしれない。

 異世界への転生。在り来りな農家生まれ。可愛い幼馴染。個々の能力を示す恩寵や冒険者認定レベルというステータスの概念。そして、俺以外の誰にも解読できない特殊な能力。

 そのどれもが異世界転生というジャンルにおいてテンプレートな流れであり、『異世界転生を遂げたら、これらの事象が起こる蓋然性がある』と表現できる。

 もしかすると、俺がトラックに撥ねられて死んだところから……いや、その考えはよそう。トラックに轢かれたら異世界転生するなんて、そんな馬鹿げた話を蓋然性で括るべきじゃない。

 ともあれ、これまでのテンプレートとも言える流れが恩寵によるものだとすれば、この先起こりうる──否、起こしうる可能性は無限に広がっていく。


「これはいろいろ試してみる価値がありそうだ」


 既視感のある流れでも異世界は異世界。転生は転生だ。

 剣と魔法のファンタジーな世界を無心で受け入れられるほど俺は達観した人間じゃない。

 アニメや小説で見た世界を体験できる。これほど心躍る人生もないだろう。

 帰ったら何をしようか。剣か魔法か、あるいはまだ見ぬ未知の探究か。

 初めての王都で過ごした夜は、遠足前の小学生のようなわくわく感で眠りにつくこともできなかった。

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