加工屋 新しい姿
「お待たせ」
声を揃えて出てきた二人と共にカフェに出発――
ちょっと薄暗かった家の外は真昼で明るい。
眩しさに目を細めても確実に、服装観察!
着替えた二人
いかにも魔法使いの男と魔女といった印象だ。
後ろの蔦の絡まる家に住んでそう。
双子の兄妹といわれるとそんな気もする。
二人とも同じようなメガネをかけているし。
フレームのないメガネはリムレスまたはツーポイントという。
黒っぽい服装なのも似てる。
まずは、フレデリクの服を観察。
漆黒のチュニック、ベルト留め。ベルトの用途はファッション、チュニックの裾が広がったり風でひるがえるのを防ぐ、バックや袋を留めて携帯するなどがある。
ベージュのズボンに折り返しブーツ。ズボンをブーツに入れている、ブーツインという。
次は、ベアトリスの服を観察。
細やかな銀のトリムがある濃紺のケープ。
ケープの用途はファッション、防寒着。魔女の印や刺繍入りで大事なケープだったりマントの大きさになったりなど魔法がかかっていたりする。留め具は漆黒の紐で蝶結び。
漆黒のローブ。袖口が広いのはベルスリーブまたはウィザードスリーブ、魔女のローブによくある特徴だ。この大きな袖口から色々出し入れする魔法の出入り口だったりする。
ローブの裾はロング (アンクルレングス)でアンクルブーツ (足首丈のブーツ)とぴったり合わせて完璧に素足を隠している。無闇に肌を見せないタイプの魔女の装いだ。
二人の服を "漆黒の" と表現してなんとか魔法使いっぽくしたが。暗黒、烏色、ダークカラーなどでもいい。
説明を省いた簡単な名前は魔法使いの普段着と魔女のローブだ。
「うーん……」
二人は実は美男美女だからカフェが似合いそうなのに。
ベアトリスは髪を短くして、さっきより地味な印象になってしまっている。仕事中のほうが華やかなキラキラ女子、プライベートは地味子か。
フレデリクもまた陰の者みたいになってしまっていて、服装の特に語ることがないのも変わらない。
二人とも、もったいない。
垢抜けるために服屋として協力したいものだ。
「二人とも、いつもそんな感じだね」
私の指摘と。
次に言うことを察して二人は身構えた。
「せっかく、美男美女なのに地味で目立たないよ。もったいない。オシャレしないの?」
やっぱり、その質問か……と言いたげに。
二人は目線を交わして黙った。
「我が店に来なよ、服飾ギルドメンバーは割引価格で買えるよ」
二人は無言のまま。
どうすべきかと話し合うような視線を交わしはじめて。
――同時にこちらを向いた。
「私達は」
ベアトリスが切り出し、
「この格好が落ち着くので」
フレデリクとハモった。
「そう……」
何度目だろう。
いつもこうだ。
双子に同時に言われる迫力と勢いに負ける。
いつもは、まぁいいや、無理に着替えさせる気はないしと引き下がるところだが。
「その服も似合ってるからいいんだけど。服屋としてついね」
食い下がると、二人はわかってると言うようにうなずいた。
「私達も服飾ギルドの者として、もっとオシャレすべきだと思うんだけど」
「そっちには、どうも興味が向かなくてな……」
「いざ服屋に行っても、つい黒を選んでしまうし」
「黒が落ち着くんだ……」
「そうなの」
意思疎通抜群の双子だ、交互に答えて隙を与えない。
「また同じこと言ってる。黒でも、もっと色々オシャレな服はあるよ」
今回は、強気で切り込もう。
「オシャレなカフェに似合う服がさ」
双子揃って、店で浮かないためにも。
「今の二人の服装じゃ、陰の気が強すぎて暗すぎるよ。いかにも魔法使いの服に魔女のローブでさ」
「それなら、ユルクだってローブじゃない」
「そうだ、黒で暗い……」
フッ、続け様の反論にも動じないぞ。
「フククッ、この服飾ギルドのローブは貴族街のマスターの店でも違和感なく着れる、爆発に耐える丈夫さだけでなく生地の上質さから色合いから最新のデザインから美しい刺繍まで、君達の普段着とは違う。加工屋として制作に携わったんだからわかってるよね。 "ハイグレード" だということを」
双子揃ってダメージを受けたような顔になって後ずさった。
「うぅ、ユルクが服を武器に攻めてくるわ。怖いっ」
「服屋だけに、服のことになると容赦ないな……」
双子は庇い合うように寄り添った。
少し、声のトーンと表情をお客さん向けにしよう。
「オシャレなカフェにも似合うローブってことですよ」
「そ、それなら私達も、ギルドローブを着るわ」
「そ、そうだな……」
そそくさと家に戻ろうとする二人の肩を掴んで引き留めよう。
「服飾ギルドのローブで済ますのは簡単だよ。だけど、今日は二人の服装に拘ってほしいな」
「ユルク……」
揃って名前を呟き、私の切実な眼差しを見たまま動きを止めた。
「わかったわ」
「わかった……」
前向きさの宿った眼差しで返事がハモられた!
「わかってくれて、ありがとう! それじゃあ、さっそく違う服を提案するね!」
気持ちが通じた喜びのままスマイル!
「あ、あまり、変わった服は……!」
「初期レベルから頼む……」
珍しく怯えたように訴える二人。
専門外のことになると弱体化するタイプだ。
「大丈夫だよ。ガラリと変える必要はない」
安心させるスマイル。
「まずは、暗い色の一部を明るい色にするだけでもいい。ワンポイントと言ってね、それだけで印象が変わるよ」
ふむふむと聞いてくれている。
「それから、服の形状、服装のシルエットを変えるのもいい。ゆったりした服は重々しく野暮ったい印象があるから、びたっと体にフィットした服にすることで軽やかでスタイリッシュな印象になる」
なるほどと頷いている。
「陰から陽へ、静から動へ、地に足をつけた普段使いの範囲で少し変えてみよう」
それならと、地道に生きる二人は納得したようだ。
「はい」
「お願いします……」
真剣な眼差しと期待のスマイルに応えよう。
「それじゃあ、さっと魔法で着替えさせるよ!」
二人に新しい服を着る喜びを!
魔法の光と共にお届けだ――
少し服装を変えた二人
フレデリクは別人みたいに変わったかもしれない。
ウルフヘアか伸ばしっぱなしか髪型も合わさって、ゆったりしたチュニックの悪く言えばもさっとしていた印象が、タイトなフィットシャツにしたことでシュッとした印象になった。
さらにキチッとして洗練された印象を与える折り目 (センタープレスまたはクリース)のついたズボンをサスペンダーで留めて革靴を履いたスタイルは、町によく居る男性の服装だ。カフェにもよく居る。
この服装で「実は魔法使いなんです」とか言ったら驚きを与えて会話が弾むこと間違いなしだ。
次はベアトリス。
彼女の凛とした顔と静かな佇まいを強調する濃紺のケープとは違い、鮮やかに引き立てて彩る真紅のケープになった。
赤は目立ち過ぎないか不安になるが、この国では赤いケープが人気で多くの女性が身につけているから自然と溶け込める。どちらかというと青のほうが異色だ。
ま、魔女だから奇異な色でも普段はいいんだけど。
カフェにはこちらの色が溶け込めるだろう。
「二人とも、印象変わったよ! カフェが似合いそう!」
私の断言に二人は己の姿を見下ろした。
「本当!? 嬉しい!」
「本当か……」
半信半疑で問いかける瞳を見据えてうなずこう。
「間違いなく、箒乗ってるみたいに浮くことはないよ! 堂々と座ってカフェを楽しもう!」
私の張り切った声かけとスマイルに。
涙しそうになりながら笑顔でうなずく二人を連れて。
カフェに行ってみると――
確かに、オシャレで明るく陽の気に満ちた店だが。
お客さんは……
「陰の時の二人みたいな服装ばかりだ」
そうだった、ここは図書館や研究所に近いカフェ。
客層は魔法使いや魔女が多いんだった。
「最初の普段着でも、充分溶け込めたね……」
「こっちのほうが浮いてない?」
「俺は、ここに居ていいのか?」
双子揃って自分の存在さえ疑問視して落ち着かなくなっている。
いつも冷静沈着な二人が。
服装の違和感一つでこんなになるなんて、恐ろしいものだ。服の重要性を教えてくれる……
「大丈夫だよ、二人とも」
服屋として落ち着いて対処しよう。
「さり気なく、よく周りを見てごらんよ。ベアトリスと同じ赤色のケープの人も居るし、フレデリクと同じような服装の人も居るよ。君達は間違いなくカフェが似合ってる」
「よかった……!」
揃って安堵の吐息を吐いた。
私も密かに吐いてから、何事もないように続けよう。
「次に来る時は、今の服装でも普段着でも服飾ギルドのローブでも良い。カフェに着ていく服装の幅が広がったね」
あくまでも前向きなまとめに、二人は笑顔でうなずいてくれた。
「よし。じゃあ、ランチを楽しもう!」
注文をしてワクワクと待つ間も――
「しかし、こうしてなんとか目的は果たしたけど。服装とは難しいものだね……二人の服装を変える前にカフェを下見しておくべきだった、それを怠ったのが今回の反省点だな」
双子のタッグ攻撃の相手で動けなかった。
それでも、
「ひとっ走り、店の様子を見に行けばよかった。そうすれば安心して席につけたのに、ごめん……」
二人の服装への懺悔を呟いて弱体化してしまった。
「ユルク、気にしないで」
「ベアトリス……!」
女神のような優しい笑顔だ。
「真剣に考えてくれる真面目なところは本当に頼もしいし尊敬するわ。今回の反省点は私達も次に活かすからね! えっと、通りを歩いてる時なんかは、今度入ってみたい店の様子とお客さんの服装をチェックしておけばいいのね。そして、溶け込める服をユルクの店やマスターの店で買うと」
「そうしよう……」
「二人ともっ――!」
私も泣きそうなくらい感動してしまった。
「偉いよっ、二人とも。本当はドレスコードのない店なら下見みたいな事前準備なしで、本来はどんな服装でもいいんだけど。服飾ギルドのメンバーとして拘ってくれる、その気持ちが素晴らしいよ」
三人で感動を分かち合うスマイルを交わした。
「今はまだ二人とも目覚めたばかりで覚醒してないけど、いずれは自ら服を選び楽しむこともできるようになる日がくると思うよ」
「覚醒!? してみたい!」
「俺達にそんな可能性があるとはな……」
関心と期待でいっぱいの様子に、私も期待のスマイルが止まらない。
彼等もやはり服飾ギルドの仲間だ!
これからも、めげずにオシャレの良さを伝え続けよう。
この先はランチを食べながらだ。
「服を気にせず食べられるって良いよね!?」
うんうんと揃って同意してくれた。
「いつもと違う服で新しいカフェ、どう?」
「凄く特別で良い気分よ。 ランチも美味しいし、行きつけになりそう」
「そうだな……新鮮な気分転換になる」
「それなら、もう少し着る服を増やそうか。服が増えれば着回しもできるし、ここと同じような雰囲気の店に行くときにも着る服に困らないし。やっぱり一度、我が店に来てもらって……」
いずれは、オシャレな美男美女の双子になってもらって。
町中の人々が注目するような姿になってもらって。
そして――
二人が着ている我が店ユルクドレスアップの服も注目されて。
たちまち人気店になるのだ!
フクククククーーー……
補足です。
ハイグレードは上等や高級や格上などの意味です。
折り目のあるズボンは違いを出すのによかったですが、ファンタジーの町中ではあまり見ない気もします。
折り目ズボンを穿いているのは貴族か貴族キャラに関わるキャラかキチッとしたキャラでしょうか。
少し現代風の混じったファンタジー服に見えますね。
オシャレしないの?はうるせーよと言いたくなるNGワードですが、双子は服飾ギルドのメンバーなのでそれなりにオシャレでいる使命がありますからね。
服飾ギルドでなくてもファンタジーのキャラにはオシャレでいてほしいものです。
この服装で良いのかという不安があると店に入れなかったり外出さえしなくなることがありますよね。着て行く服がないってやつですね。
私も双子側なのでユルクに服を選んでもらいたいものです。




