高級店に似合わない客、その正体と服装
「いらっしゃいませ、ようこそ」
条件反射で声かけして接客スマイルしてまった。
まぁいい、マスターの店に貢献だ。
このまま接客しようか。
自然と客の服装チェックもしてしまう。
「な!?」
なんて場違いな奴だ!
この貴族街の高級店に町の住人の普段着で来てる!
つまみ出すところだが――
只者じゃないオーラと強者感が質素な服では抑えきれず溢れ出している客だ。
つまみ出されそう、私が。
この感覚に気付けないのは二流の服屋だな。
出てけ! しっしっ! して、返り討ちにされるだろう。
私はそんなミスはしない。フククッ……
マスターの後ろにコソコソ隠れて様子をみよう。
さすが、店のオーナーでもある服飾ギルドマスター。
堂々としたいつもの態度でいらっしゃる。
異質な客にも狼狽えずに対応するようだ。
「ようこそ」
いつもの落ち着いた声かけだ。
スマイルがない。
相手が怪しい客だから?
「素材屋」
え?
本当だ、服に気を取られて気づかなかった。
服飾ギルドのローブから着替えてるし。
しかし、フードから覗く顔は間違いなく――
素材屋の服装
隠しきれない強者のオーラが陰を作り見えにくいが。
全体的に灰色の地味な服装だ。
フードチュニック、革袋を提げたベルト、ズボン、折り返しブーツ。
特に注目するところもない。
どこでも見かける平民の服。
説明を省いた簡単な名前は服、普段着だ。
「素材屋じゃないか。ビックリさせないでくれよ」
「驚かせたか? すまない」
どこに驚いたんだろうと戸惑っているようだ。
こうして人間らしさを見せると親しみやすい。
どこに驚いたんだろうと自分でも不思議になる。
「そんな普段着で来てるから、つまみ出すところだったよ。マスターの店に相応しくないからね」
素材屋とわかったからには注意しておこう。
「ごめん」
急に強気になった私を気にするでもなく。
素材屋は申し訳なさそうにかつ気恥ずかしそうに笑った。
「つい、普段着で来てしまった。暗黙のドレスコードがあるのはわかってるけど貴族みたいな格好は気恥ずかしくてさ」
素材屋のドレスアップ。
興味深い、見たい気もするが――
「マスターの店だし、これでいいかと思って」
まぁ、堅苦しくない仲だし。
マスターも気にした風は無いし。
「そうだね、私が注意することじゃなかったね」
「いや、注意されるのは当然だよ。この格好で長く店にいるのは居心地悪いし」
貴族客の視線が気になるようだ。
「服を着替えていくか?」
マスターが接客スマイルをみせた。
「そうします」
「貴族風の服にする? ドレスアップなら手伝うよ」
ニヤニヤする私とマスターに素材屋は慌ている。
「いや、素材集めの服に着替えるよ!」
なんだ、いつもの格好か。
「素材集めに行くんだね」
それが私をビビらせた理由か。
素材集め前だから雰囲気が強そうになっていたんだな。
「新しい服でね。婚約破棄問題も解決したし、今日着て素材集めに行くかと思い立って来たんだ」
「そうなんだ、新しい服か……」
さっきの集会でも言ってたな。
私達はドレス作りに専念していた時だったから、受け付け中止で手の空いていたマスターが個人的に引き受けた服だって。
「マスターの作った服だよね?」
「ああ」
「着替えて行くなら事務所の試着室を使うといい」
「そうします」
ぜひ、服装チェックしたい。
「新しい服を着た姿、ぜひ見たいな」
「えっ、ああ、いいよ」
私の期待の眼差しに素材屋は少し狼狽えたが笑顔で許可をくれた。




