貴族街の服屋
マスターの店「グランド・エターナル・ワードローブ」についた。
さっそく、見学開始。
ショーウィンドウに新商品が並べられている。
いつまでも眺めていたくなる魅力があるな。
大きな店だけに品揃えが多いのはもちろんだが、ディスプレイのスペースが細かく分けられていて商品の場所がわかりやすく見やすい。
並べ方も洗練されていて美しく、畳まれた服などは手にとって乱してしまうのを躊躇してしまう。
店員さんが、こちらですか?と聞いてきて代わりに服を手に取って広げて見せてくれた。
これなら畳むのも店員さんがしてくれるから安心だな。
細部まで見せてもらいながら商品説明を聞き。
さて、商品を購入するか決断の時だ――
「また今度、買います」
絶対買わないだろと思われそうな断り文句だが。
私は "ああ、今度買ってくれるんだな" と素直に信じる。この店の店員さんもそうだろう、にこやかに引き下がり見送ってくれた。
丁寧で購買意欲をそそる商品説明は大変勉強になったし、ただ眺めるより大いに興味が持てて本当に欲しくなったし、店からすると商品の宣伝になったので無駄ではないのだ。
今度はワードローブスタンドに掛けてあるのを見てみるか。
セール品だ。比較的気楽に見れるし選べるな。
それにしても、お値段はそれなりだが……
奥に行くとさらに高級感が増していく。
二階もある。オーダーメイドルームと完全予約制のコーナーがあり予約客が見たい商品だけが用意される特別なお買い物エリアだ。
三階もある。王族用のドレスルームで私はまだ一度しか立ち入れたことがない。
こんな壮大な店を、いつか自分が持つのか……?
興奮とプレッシャーで汗が出てくるな、フククッ
落ち着いて今回は一階をじっくりと見学しよう。
コーナーも細かく分けられていて、どこに行くか迷うな。
普段着、社交服、男性服、女性服、子供服……
どれも美しくディスプレイされていて、この展示品買えるんだと驚くばかりだ。
「あ、君!」
えっ、また驚くことが!
貴族に声をかけられた。
ニコニコした親しげな笑顔、紫紺の宝石ブローチを留め、ひらひらする純白のジャボで飾られた、美しい漆黒のアビを着こなした若き美男子。
「あっ、貴方様は!」
「いつぞや、お忍びで君の店を利用させてもらった者だよ」
声を潜めて正体を教えてくれた。
後ろに控えている執事さんと服装が被って困ってた伯爵様だ――!
「あの時は、世話になったね。君の店で装いを変えてもらったことで、こうして貴族街を堂々と歩けるようになったよ」
「それは、ようございました!」
私達は感動の瞳と笑顔を交わした。
「改めて見てどうだい? 執事とはまるで違ってるだろう?」
「はい、まるで違います。貴族の品格と美しさが装いから溢れ出ておられます」
絶賛の感想とスマイル。
相変わらず冷徹な顔の執事さんも、同意するように頭を下げている。
伯爵様は満足そうにうなずかれて、金刺繍の縁飾りが輝く襟元を正した。
「今日はここで服を選ぶけど、君の店もまた利用させてもらうよ」
その約束、忘れられてなかったか。フククッ
この伯爵様にはもう私の小さな店より、この高級店が相応しいが。それはそれ、これはこれだ。
「お待ちしております。こちらも私が尊敬する服飾ギルドマスターの素晴らしい店ですので、どうぞごゆっくりお選びください」
「ありがとう、そうするよ。またね――」
気持ち良くお見送り。
お客さんとの遭遇には驚いたが。
我が店を利用したことで、生き生きとなった姿を見ることができてよかった。
ここでも、お似合いの服が見つかりますように。
さぁ、私も見学を続けよう――
伯爵様とは別のところに行ってみるか。
こっちは?
魔法服コーナー
魔法のような輝きの照明、魔法使いの城の絵画、魔道具の似合う造りの内装と商品棚、魔法の木のようなトルソー、魔法陣のような絨毯……
魔法使いになれそうな空間だ。
我が店の制服にも良さげなローブが色々ある。
この紫のローブはオープンフロント (前開き)で黒いベストスーツなど中の服装を見せることができる。
プルダウン (貫頭衣、被って着る)の前の閉じた隠密性のあるローブよりファッションに拘れるローブだ。
フードと大きな襟のようなケープも付いている。
説明を省いた簡単な名前はフードケープ付きオープンフロントローブ。
大きな仕事を終えたご褒美に買いたいところだが。
稼ぎの一ヶ月分が飛んでいくようなお値段だ。
それだけに生地も高級感があり色々な魔法が付与されている、ここでしか手に入らない魔法のローブ。
神秘的な刺繍紋様から魔法が発動する場面を想像すると……
町の服屋の私が着るにはちょっと贅沢で大げさ過ぎるか。
どこかで服屋のパーティーとか呼ばれたら、もしくはまた魔王城に潜入するような時にでも着るとするか。そんな事があるのかわからないが。
マネキンが手に持っている本は、このローブでのコーディネート集だ。ドレス、普段着、どんな服と合わせれば良いか、ドレッシー (パーティーや儀式)、ノーブル (貴族街)、アーバン (街中)など様々な場面でのローブスタイルがわかる……この本も欲しくなるな。
残念ながら、ここでも見てるだけになったが。
見学だけでも充分な刺激と勉強になるな。
お客として眺めてるだけでも楽しい、美術館やテーマパークのような総合服屋だ。
周りの客は貴族や貴族風の身なりばかり。
小綺麗でお洒落にしていて優雅な所作。
私もちゃんと客に溶け込めているだろうかとドキドキしてくる。
店員として振る舞ったほうが落ち着くだろうか?
「服屋」
あっ、後ろから声かけが。
やっぱり服屋に見えるらしい、服飾ギルドのローブ着てるしそれでかな?
とりあえず振り向こうか。
補足です。
ワードローブスタンドはハンガーラックともいいます。
ハンガーに吊るした服を掛けておくスタンドですね。
フードケープ付きオープンフロントローブは商品名としては良いかもしれませんが、物語のローブの描写では長いですね。
"ローブの中にベストを着ている"などでもオープンフロントローブなんだとわかってもらえるかと思います。
そして「ローブの中に着ている」か「ローブの下に着ている」かどちらで書くべきか表現の微妙な違いに迷ったので調べて見ました。
ローブの中に着ている→ローブの前を開いてベストなどの服装を見せる時、見える時の表現。
ローブの下に着ている→ローブの前を閉じて服装を見せない時、ローブを脱いだ時の服装表現。
こう使い分けるようです。細かい表現が気になる方向けですね。
第一話で来店した伯爵様に再登場してもらいました。
こんな風に店を利用したお客のその後も書いていきたいと思います。




