市場の拳神
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アルツの聖堂でホーム登録を済ませた私は市場を見て回っていた。
今まで訪れた街にも市場はあったけれどそこで何かを買った事は一度も無い。
ただ通りすがりに眺めるだけだった。 金を持っていなかったからである。
( 何か売らないといけないな )
一文無しでは何も買う事ができない。
峠道で山賊に毒矢で撃たれた私はHPが尽きて倒れ一つ前の街の聖堂で復活した。
FQに来て初めての死亡体験だった訳だが 、
解毒薬があれば免れる事ができたかもしれない。
今後の為にも今回はそれを手に入れておこうと思ったのだ。
薬屋を覗いてみたら解毒薬にもいくつかグレードがあるようだった。
一番安価な "毒消草" は3ルドで売られている。 それ程高くは無い。
「はい50ルドです。お確かめを!」
装備品店の店員が私に10ルド硬貨を5枚渡して来た。
「またの御利用をお待ちしております!」
笑顔でお辞儀をして来る。
上下の衣服に加えて頭巾とブーツ。
峠で討伐した山賊の装備一式 (クロスボウを除く) を買い取って貰ったのだ。
仇の着ていた物など身に付けたくはない。 売りに出すのに迷いは無かった。
( 意外といい金額になったな )
これなら十分な数の毒消草を買える。
古着と言えばタダ同然の値付けがされるのではないかとも懸念したが、
この世界では物品の買い取り額は元値の三割程になるようだ。
もっとも"古着"や”中古武器”が割安で売られている訳ではない。
店頭で販売されるのは全て新品のみである。
"古びた剣" などというものは特定のイベント内にしか登場しない。
セコハンのマーケットは存在しないのだ。
「・・・ちょっと待てよ」
現金を手にした私はそのまま薬屋に向かおうとして脚を止めた。
( クロスボウの毒は毒消草で無効化できるのだろうか? )
収納内のクロスボウを確認してみる。
【山賊のクロスボウ】
としか表示されていない。
仕様に関する記述が欠落している。 『毒矢を発射する』という一行さえも。
山賊の頭目は『毒を受ければ一分で死ぬ』と言っていたがそれは事実だった。
当事者である私だから知り得た情報だが、路上で拾った者には分かるまい。
リアリティが重視されるFQではアイテムやスキルの情報が公開されていない。
詳細なスペックシートを展開して比較する類のことは出来ないのだ。
( その分ネットでは様々な推測情報が飛び交っている )
山賊が毒を用いて私に仕掛けて来た脅迫法は逆にも使える可能性がある。
その時になって毒消草では解毒できなかったら真っ当な人の道を外れてしまう。
それは避けたい、というのも購入理由の一つだった。
( ・・・ "鑑定" が要るな )
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