269.全ての転移ポイント開放④山頂でのお弁当タイムとユサタクの秘策
「……おっ、ゴールが見えてきたな。ソーイチ、アマネ、ここが目的地の【ノア山地・山頂】だ!」
ユサタクが斧を担ぎ直し、誇らしげに声を張り上げる。辿り着いた先は、尖った岩々が牙のように並ぶ、荒々しい岩山の頂上だった。
「はぁ、はぁ……。やっと、着いた……」
「……これは絶景、ですね」
俺とアマネは膝に手をついて息を切らしながらも、目の前に広がる光景に目を奪われた。
ぶっちゃけた話、標高だけなら短時間で登頂できる程度なのだが、山頂だけあって遮るものが周囲に何一つない。俺はそのフルスクリーンの景色を残す為に、足を滑らせないように気をつけながら、【フィルム・シュート】で撮影しまくっていた。
「いい景色でしょう?」
「撮影に気を取られて、転けそうになるのが玉に瑕やけど、その危険を冒してでも撮りたくなるよな」
「はは、ここには落下防止の手すりとかないですもんね」
「まあ、ファンタジー世界に錆びた手すりとかあったら興醒めやけどな」
「ですね……それより、知ってますか?ここは大陸で一番高い場所らしいですよ」
「……その割には、あまり高くないよな」
「リアル世界の名峰と比べたら、そうかもしれません。でも、ここならノアの町や森も全てを見下ろすことができます。そして高すぎないからこそ、視線の先に何があるのか堪能できる……それも意外と悪くないでしょう?」
「確かにそうかもしれんな……」
初めての登山。そのゴールからの景色は、絵はがきで見たアルプスの景色よりも俺の心をくすぐった。
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下界の風景を堪能したあと、本来の目的である転移ポイントの開放を手早く済ませた俺たちは、モチョお手製のおにぎりを食べながら休んでいた。
「この前の試食会も良かったけど、おにぎりは外で食べるのが一番やな」
「小学生の頃、友達とワイワイ食べた記憶が蘇りますよね」
「私はお母さんと食べた運動会を思い出します〜」
頂上特有の見晴らしの良い景色の中食べるおにぎり。そのシチュエーションと各々の懐かしい思い出話で、より旨みが増しているように感じた。
「みんな、食べながらでいいから聞いてくれ。次は東サイドラストのポイントになるが、ここからかなり遠い。一旦【ノアの海岸線】まで転移してから、東側へぐるっと回るぞ」
「山登りの後は海沿いの散策か……ある意味、究極の贅沢やな」
「ははは、レジャーで行くとしてもどっちか片方だもんな」
「そうそう。私が選ぶ方っていつも多数決で負けちゃうんですよね」
「それは辛いですね〜」
「はは。それなら次の慰安旅行の行き先は、マロンに任せてみるか!」
「ええ!?私には荷が重すぎですよ!」
ユサタクから語られた次のプランに対して、メンバーたちは好き勝手に語っていく。そんな、どこかゆったりとした時間は、大皿に盛られたおにぎりを全て平らげるまで続いた。
「よし、休憩終了。これより【ノアの海岸線】に転移する!みんな準備はいいな」
「「「「「はい!」」」」」
「いい返事だ。それじゃあいくぞ!」
他のメンバーの返事に頷いたユサタクは、転移クリスタルをかざし、次の目的地へと一斉に向かった。
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慣れ親しんだ転移の光も収まり、最初に気づいたのは足先からだった。ゴツゴツとした岩の感触は、いつの間にかサラサラとした砂の感触に変わっていた。
空の青さは変わらないはずなのに、海の色を反射しているせいか、山頂で見たものよりもどこか明るく、開放感に溢れている。
「う〜ん、澄んだ空気から一転、少し湿った磯の香りにガラッと変わって、なんだか変な気分やな」
「色々と別世界!って感じですね」
様変わりした景色や空気に思わずつぶやいた言葉に、アマネも同意見だと頷く。
「ところで、見た感じ魔物の湧きが少なそうやし、今回は戦闘休憩少なそうやな……」
「いえ。今回はキツくないと思いますよ」
先程までの道のりと違い視界は良好。その分、めぼしい魔物が居ないので、休憩なしの地獄のマラソン再びかと戦々恐々とする。だが、同じバテバテ仲間のアマネは何故か涼しい顔で楽観的な意見を言う。
「体力だけなら俺よりないのに、えらい余裕やな」
「今回は砂浜とはいえ見晴らしのいい平地ですからね。だから大丈夫なんです」
「……全然理由になってないで?」
表情を見る限りハッタリではなさそうなのだが、理由が全然わからず首を傾げる。そんな様子見ていたユサタクが笑いながら近寄ってきた。
「くくっ、アマネも人が悪いな。勿体ぶらずに説明すればいいのに」
「説明したら、ソーイチさんへのサプライズがご破綻して、リーダー拗ねるでしょ?」
「ぐっ……そうかもしれんな」
「もう!ぺちゃくちゃと、俺の知らん話題で盛り上がるんやめ〜や!」
「おっと、失礼。これ以上ソーイチを焦らすのは可哀想だし、早速お披露目と行こうか」
ユサタクは太々しい顔で懐からサイコロ状の何かを取り出すと、少し離れた位置へ投げる。その直後、普通なら目が眩むような光が広がる。
だが、【心眼(序)】をセット中の俺の目には、何が起こったのか、はっきりと見えた。
「……何これ!?急にデカい馬が出てきたんやけど!」
「ふっふっふ、驚いたか?コイツは俺の愛馬【ルシオン】。ここから先は騎獣に跨って、移動するぞ」
ユサタクは嘶く愛馬を優しく撫でながら、凄まじいドヤ顔を俺に見せつけるのであった。
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
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