251. 風景の撮影とポイント解放③隠れファンと潮の香り
「あはは、どんだけリーダーからドッキリ食らってるんですか〜」
「俺なら3日は口を聞かないレベルのイタズラもあるのに、どうして今でも友達やってるんすか?」
「なんでやろな〜」
数々のユサタク……いや、あえて友人の遊佐拓也と言おうか。アイツから仕掛けられた数々のサプライズを披露すると、フワフワは笑い、セキライはドン引きした。
そんな中、これまであまり話した事が無かった子が目を爛々と輝かせて話し始めた。
「セキライ君はニブいな〜。これまでのエピソードって、全部ファン学の名シーンにあったヤツじゃない。そうですよね、ソーイチさん!」
「ははっ、よく気付いたな。もしかしてマロンちゃんって、ファン学熟読してる?」
「ええ!あれは私のバイブルですもん!」
そう言って両手をグッと寄せているのは、我がクランのセカンドパーティーの魔法役のマロン。その名の通り栗のような丸みを帯びた髪に黄色のインナーカラーが特徴的な女の子だ。
「ええ。彼女のソーイチ推し力は凄まじいですよ。地方のゲームイベントに行く時に全巻持って行くのは当たり前。ファン学オンリーイベントとゲームイベントが被った時なんて、あっという間に対戦相手を蹴散らして参加するくらいには入れ込んでるんですよ」
「君らが参加するイベントって相手もプロやのに、それでも圧勝するんか……」
「ええ!わざと負けてしまうのは、ソーイチさん推し失格ですからね!」
「こう言って結果を出すから何も言えないんですよね〜」
次々と出てくるマロンの武勇伝に圧倒される俺。だが、話を聞いているうちに、俺の中でひとつの疑問が浮かび上がった。
「熱烈なファンってのは伝わったわ。いつも応援ありがとうな。でも、同じクランやのに今までほとんど話しかけて来んかったんはなんで?恥ずかしがり屋って感じでもないし、もっとグイグイ来ても良さそうやのに」
「あはは……本当ならダル絡みレベルで話したいんですけど、MJOもお仕事ですからね。だから休憩とかの隙間時間以外は欲望を抑える為に離れてたんですよ」
「趣味への熱量は凄まじいですが、仕事にはストイックですからね。こういうメリハリの付け方は好ましいですよ」
「ほ、ほほ〜ん……」
突然、ゼロから仄かに漂うLOVEの香り。俺はニヤケそうになる顔を抑えつつ、相槌を打った。
「さて、名残惜しいですが休憩はお仕舞い。出発しましょうか!」
「確かに少々休みすぎたかもしれませんね。ソーイチ、行きますよ」
「うう〜……またマラソン大会の開催か……」
少しでも休憩時間を増やすように、アラームを掛けていなかったのに彼らの体感時間にズレはほとんどないようだ。マロンは俺との限られた交流タイムを自ら切り上げ、それに釣られてゼロや他メンバーも屈伸をした後に立ち上がった。
「さあ、ソーイチさん!MJOで初めて見る海が待ってますよ!もう少しですし頑張りましょう!」
「ははっ、ファンが見てる前で駄々こねるのもダサいしな。よし!ラストスパートと行こか!」
マロンからの声援を力に変えて、勢いよく立ち上がった俺はズボンに付いた土を払ってから、目的地へと向かい走り始めた。
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どんどんと悪くなってくる足場に加えて、強く狡猾な魔物達の出現。俺1人なら10分でデスペナルティを喰らうような魔境へと移り変わる。
そんな中、自慢の仲間達は木の枝にぶら下がる猿からの投擲を盾で防ぎ、ペットボトルサイズの蜂の群れを魔法で殲滅し、スタミナが切れそうな俺に回復魔法と励ましの言葉を与えてくれた。
「みんな、こんなに強かったんやな……。クロード達の時に近い安心感があるわ」
大森林を抜け草原エリアに入り小走り程度で移動する中、俺は彼らの護衛技術を讃えた。
「Bランク冒険者と比較できるレベルで評価されるなんて、俺たちも捨てたもんじゃないっすね!」
「少なくとも連携だけなら、ここ以外でも散々練習してきたんで、足りないのは基礎能力くらいでしょう」
「なるほど、こっちでは新人でも向こうでは猛者やもんな。特にマロンちゃんの魔法、えげつなかったな。俺がピンチの時には必ずフォローが入るから、安心して全てを任せられたわ」
「当然です! 推しのHPを1ミリも減らさないのが真のファン……いえ、プロの護衛ですから!」
「結局、私情が漏れまくってるじゃないっすか」
セキライのツッコミに一同が和む。そんな中、先頭を行くゼロが足を止め、前方を指し示す。
「あそこに小さな丘がありますよね」
「ああ、少し盛り上がってるな」
「実は、あの丘の上が僕一押しのスクショポイントなんですよ」
「マジで?なんの変哲もない丘にしか見えんけどなぁ」
不思議そうに首を傾げると、クスリと笑った後にゼロはある問い掛けをする。
「ソーイチ、匂いませんか?」
「うん?……あっ、この匂いは……近いんやな!?」
鼻をひくつかせた俺は、どこか懐かしい夏の香りに気付き、慌ててゼロへ詰め寄る。
そんな興奮状態の俺を微笑ましく見ながら、彼は答えた。
「ええ。あの丘から見下ろせる景色。それこそがこの大陸の端っこ、青と日の光が織りなす【ノアの海岸線】なんですよ」
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
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