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天使の妃  作者: 観月 あき
第三章  それは遠く離れた世界
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第25話

 テーブルに置かれた補助灯の油がだいぶ減っている。その減り具合で時間をはかることができる。「用事がある、すぐ戻るから」とシオンが部屋を出てから一度継ぎ足した油は、皿の半分ほどの量しかない。おおよそ半刻(一時間)ほどが経過している。さすがに遅すぎる。時間を気にしないのは貴族によくある性質だが、短い間とはいえ騎士団に籍を置いていた期間のあるシオンは意外にも時間には正確なのだ。

 (まさか、茶会に乗り込んだんじゃないだろうな)

 あり得ない、と言い切れないのが悲しいところだ。シオンのことは家同士の付き合いがあるためよく知っているが、思い立ったら考えるより先に行動に移す性格の持ち主である。行き当たりばったりでいままで生きてきたような人間だ。突飛な行動はシオンの大得意である。そして、なにも告げずにふらりと姿を消して周囲をたいへん心配させるのも。

 (半年ほど前からだな、あれの放浪癖がひどくなったのは)

 リール家の令嬢が王都に来てからはずっとおさまっていたのだが、ここへ来て再発したのだろうか。自分の考えにオルテローシュは眉をひそめる。シオンときたら、城内にいても突然姿を消すことがあるから始末が悪い。

 (それとも、あれの行動にはなにか理由でもあるのか?)

 半年前―――それ以前は、まともとまでは言えなくとも、いまほどおかしなやつでもなかったのだ、シオンは。半年前、なにかあっただろうか。オルテローシュは記憶を手繰る。ヴィスタンツェの家のなかで起きたことまではわからないが、それ以外ならばひとつだけ、半年前に大きなできごとがあった。

 「エディの結婚?」

 この国の第二王子が妃を迎えたのが、いまからおよそ半年前のことだ。しかし、それがシオンに関係するのかというと、わからない。第二王子エディはシオンのいとこにあたり、付き合いもそれなりにはあった。が、それだけだ。

 (王子妃の方はシオンと面識がないはずだから、色恋の方面も可能性はない)

 ではたんなるオルテローシュの考え過ぎだろうか。そうかもしれない。

 「それならそれでいいんだ」

 つぶやいて、オルテローシュは手にしていたペンを置き、席を立つ。灯の油を足さなければならない。





 「それは、ほんとうなの」

 少年がかすれた声で尋ねた。その頬は白さを通り越して青ざめており、いつもは淡く色づいているくちびるに色はない。それでも少年のうつくしさが損なわれることはなかった。

 少女は微笑んだ。それは一種の皮肉だ。美は、目の前のうつくしい少年に求められているものではなかった。それ以外に必要な、彼に欠けているものは幾つでも挙げられる。だというのに、運命の双子神は、彼にもっとも必要のない、むしろあっては邪魔になるだけのうつくしさを与えた。

 甘い甘い声で少女は答える。

 「ええ。本当のことです」

 「だって、マリアベルが」

 「調べればすぐにわかることなのに、噓をつくことはしませんわ」

 「それじゃあ」

 わずかに昏い蒼の瞳が、揺れる。内心の動揺を隠そうともしない表情に、また、少女は微笑む。

 「シオンさま。これから先のことは、マリアベル姫にお尋ねなさいませ」

 「………どうして僕に、教えてくれたの、アンナアリア」

 アルティーア公爵令嬢は、ヴィスタンツェ公子に笑いかける。

 その笑みがますます深まる。

 「わたくしの、姉のためですわ。シオンさま」

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