1話 地竜
「逃げろ、俺たちには無理だ!!!」
男が叫んだ
獄炎に燃える森の中で叫び声が上がる、
絶望する者、逃走を促す者、それら全ては竜の前では等しく無価値だった。
「どうして、こんな。」
膝をつき絶望にくれる女
突きつけられた力の差と終わりといいう現実
瞳に入る存在が、心の隙間に影を落とす
人の姿、こちらに歩いてくる
ひとひらになびく影、その影が死を誘う
死神を背負うその姿は、闇そのもの
人であるはずがない、そう思っていた
お姉さん、大丈夫ですか?
「へ?」
拍子抜けするほど幼い声
しかしそれが、戦場の焼けた空気を浄化する
手を差し伸べる少年
希望と神秘、死と終わりを運んできた者に
女も手を伸ばす。
闇を纏う少年の力が女の体に流れる
それは原初の恐怖を呼び起こし、肉体を終わりへと返す導き
体から闇が溢れ出す、侵蝕された体は終わりを迎える、安らかな終わり、そこには怒りも恐怖もない。
あるのはただ終わるという現実だけ。
迎えた崩壊はあっけないもの
「え!」
傷だらけの古い肉体は砕け、新たな命がその殻を破る。
「ちょっと、変わってますが、回復魔法です」
死を背負う少年の手が離れる。
さっていく温もりと少年の小さい、しかし逞しい背中が死地へ向かうはずの少年への言葉を消した。
「地竜か、ここまで強い炎を操れる個体は珍しい」
言の葉は絶えず、されどその歩みも止まらない
歌うかのように吐き捨てられる言葉は、なんの効力も持たない。
しかし、辞められないのだ。
こうして何かに意識を削がないと
"武者震いで気が狂いそうになる"
今回の標的は地竜、5メートルぐらいか
さっさと殺してその肉貰おうか
さっきまでお喋りな口は閉じ、殺意の衝動に、
この場の焼けた空気に身を任せる。
体の内側を焦がすその怒りをありのままに
本来は理性によって抑えられるそれを自由に
刀に手をかけ
翔る
「まずは1発でかいのを!!」
刃は光を束ね、解き放つ
その一撃にいかな意味があるのか、
ただでかい一撃を、その闘争の本能が
意味を持たせるのか、あるいは野生的な衝動で終わるのか
土煙のベールが剥がれる
次第に薄くなる神秘が竜の姿を捉える
「硬いな、やっぱり 一撃じゃ無理か」
煮えたぎる衝動を一撃に吐き出し、冷静さをその内に宿す、
されど、暴流はその身から湧くのをやめない
衝動を満たすように、殺意を待つ
あるいは、今ある冷静な感覚を味わうように
「これは、」
風を切る
地竜を翻弄する速度で
残像を残すそれは、竜を囲う
「どうか!!」
死角を狙った一撃
竜の肉に傷を
“ガン“
つけることなく弾かれる
故に速度を落とし一度体制を立て直すが吉
正常な思考
間違いなどない、相手を観察し、弱点を狙う
“ガン“
それができてこその知性
“ガン“
冷静さを欠くならば
“ガンガンガン“
死が迎えにくる
“ガガガががガガガがん“
一撃当てるたびに弾かれる
弾かれるたびに加速する
極点を面に、面は点に
一撃かなわぬならニ撃
ニでかなわぬなら十
十は百に、百は千に、千は万に
己か相手が倒れるまで放たれるそれは
より早くより鋭く
加速する
加速は力、力を得て放つ
一点集中
やがて一撃が音を立て鱗を砕き
次の一撃が音もなく、肉を絶つ
「グォォォォオオオオオアアアアアアッッッ!!!」
空気を殴る咆哮は苦し紛れの抵抗か
あるいはこれから攻撃に転ずるという意思表示が
竜の一撃
まともにくらえば命はない、
それでも、止まれない、戦いの興奮が
その衝動が少年を導く
破滅、暴力、死、その身を衝動が
月下舞うその身姿は
死の行商人
描く人にとっては天使
あるいは悪魔、優しい死神が、微笑む戦場で
命などいかなる種族であろうと無価値
殺意の波が広がる、むき出しの極点に興味は湧かないか
波は別の島を漂う
“ガン“
再び生じる殺意の嵐は
“ガギィィィィンッ“
いとも容易く、耳障りに砕かれる
血に染まる、そして蔓延する殺意と暴力は
繰り返すその破壊の中で、
竜の全身を覆い、砕く
少年が止まる
血によって鎮められる、殺意と暴力
動きを止めた地竜
そこにもはや、命はなく
勝者と敗者の音が戦場で消えそして響いた。
湧き上がる衝動が肉体から消え去り
空白を授ける、赤い衝動は、虚無を宿す白へ
うちなる静寂に身を任せ、少年は
「今日の飯ゲット」
晩飯にありつくのだった。




