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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第94話 シールは親愛の証

「サクタロー様、そろそろ調理番を交代いたしましょう」


 列が多少短くなると、手の空いた女神教の数名が交代を申し出てくれた。

 慈善活動に熱心なメンバーで、進んでラビットサンドの調理法を学んでくれている。人当たりが柔らかく、気さくな点も好印象である。


「ありがとうございます。では、お願いします。タレが焦げやすいので、気をつけてくださいね」


「はい、お任せください!」


 張り切った返事を背に受けながら、俺は調理エリアを離れる。

 さて、我が家のみんなはどこかな……と広場を見渡してみれば、すぐに見つかった。


 うちの獣耳幼女たちはテーブルに仲良く並んで座り、ラビットサンドをもぐもぐと頬張っている。フェアリープリンセスのポシェットが、それぞれの膝の上にちょこんと乗っていた。


 サリアさんとフィーナさんも一緒だ。すでに食べ終わったのか、紙コップの紅茶を飲みながら談笑中のご様子。


「あら。ご苦労さまです、サクタローさん」


「ありがとう、フィーナさん。エマたちはもうおかわりした?」


「うむ、みんな今日もよく食べているぞ!」


 フィーナさんが労いながら紙コップの紅茶を勧めてくれた。質問に答えてくれたのは、口の端にタレをつけたままのサリアさんだ。


 俺は返事をしながら空いている椅子に腰掛けた。すると、すかさず近寄ってきたルルがタレでべっとべとの両手でズボンを掴み、ずりずりと膝に這い上がってくる。


「……ルルちゃん、手をふきふきしましょうね」


「んっ、あとで!」


 あとで、って……すでにズボンがやばいことになっている。帰ったらまた染み抜きしないと。


 もちろんエマとリリもこちらへやってきたので、椅子を動かして左右にぴたりとくっついた。それからまた、三人ともニッコニコでラビットサンドに齧りつく。


 この子たちは本当に美味しそうに食べるから、いつまでも見ていられそうだ。でも、そろそろ味付けのレパートリーが欲しいところ。


 もぐもぐするルルの頭に手を置き、その上から顎を乗せて次のメニューをぼんやり検討する。


 リリがカレー味にしたいとずっと言っているし、そろそろ試作してみてもいいかな……などと考えていると、背後から元気な声が飛んでくる。


「サクタローの兄ちゃん! 見てくれ、これ!」


「お、タリクくん。よく似合ってるね」


 タリクくんが嬉しそうにアピールしてくれたのは、今日配布したばかりの古着。サイズは少し大きめだけど、それがかえってサマになっている。

 特に防寒機能の向上が心強い。実際、結構暖かいみたい。


「へへへ、商家の子どもにでもなったような気分だぜ! ホントにありがとうな!」


 それはよかった、と答えながら俺は空いている椅子に座るよう促した。ちょうど彼に聞きたいことがあったのだ。


「ところで、この前の若いお母さんと男児のことなんだけど……」


「ああ、シイナたちのことか。ちゃんと面倒見てるから安心してくれよ。旦那が迷宮から帰ってこなくなって、家からも追い出されちまったんだってさ」


 前回顔を合わせたあの若すぎる母は、名を『シイナ』というらしい。

 彼女の夫は迷宮で行方不明となり、一人で子育てしながら生活していた。しかし蓄えが尽きて家賃を払えなくなり、追い出されてしまう。そして露頭に迷っている最中、炊き出しの話を聞いてこの女神教の聖堂までやってきた。


「そんで、今は俺たちのねぐらで一緒に生活してるんだ。仲間の女たちと協力して銅貨を稼いでいるぞ。ちびっ子の面倒も交代でなんとかやってるよ」


 シイナさんは先日の炊き出し以降、タリクくんたちのグループに加入してこの街を生き抜く術を伝授されているらしい。主に力仕事に向かない他の女の子たちと行動し、縄張りの井戸周辺で水くみの仕事を得て日銭を稼いでいるそうだ。


 今日も一緒に来ており、仲間たちとブルーシートに座ってラビットサンドを食べている。母子共に笑顔でホッとした。配布の古着もちゃんとゲットしたみたい。


「そっか、ありがとう。タリクくんは本当に頼りになるね」


「なんだそれ、サクタローの兄ちゃんのほうがよっぽどだろ。他のみんなも、すごく感謝してるぜ。俺たちはどこ行ってもやっかい者あつかいだから。なんつーか……この街にいてもいいって、言ってもらえた気がしてさ」


 タリクくんの言葉を聞いていたら、ふと幼い頃の記憶が蘇る。父に連れられていった何かの集まりで、見知らぬ大人たちに優しくしてもらったとき、自分は受け入れてもらえているとなんとなく実感できた。


 それとは少し違うかもしれないけど、ここにいる孤児たちが近い思いを抱いてくれているのであれば、これほど嬉しいことはない。


「俺もさ、いつかサクタローの兄ちゃんみたいになれるかな?」


「え、俺みたいに?」


「うん。それでさ、仲間たちがみんな腹いっぱいで笑っていられるようにしたい。エマたちには、できなかったから……」


 タリクくんは、エマたちを廃聖堂へ残していった過去をまだ悔やんでいるようだ。

 正直、仕方のない部分が大きい。孤児院が潰され、突如自活を余儀なくされたのだから。まして彼自身、まだ子どもなのだ。


 それに俺なんか一端の大人を気取っているクセに、炊き出しの真似事をするくらいが今は精一杯……無垢な尊敬に見合うだけの器だとは到底思えない。たまたま女神ミレイシュの恩恵に与っただけの凡人だ。


「俺なんて、ちょっと運が良かっただけだよ。だからね、タリクくん。キミはもっと自由に、なりたい大人になっていいんだよ」


「なりたい大人かあ……うん。だったら俺は、やっぱりサクタロー兄ちゃん目指して頑張るよ!」


 まったく、異世界の子どもたちはいつも俺を泣かせにくる。それならば、より良い大人であれるように、もう少しくらい気を引き締めないとね。


 と、ここで不意に。

 隣でラビットサンドをかじっていたエマが、驚いたような声を上げる。


「タリクって、サクタローさんがすきだったの?」


「ん? まあ、そうなるのかな。キライじゃないし」


「そうだったんだ!? わたしたちといっしょだね! じゃあ、これあげる!」


 エマはポシェットを開き、中から一枚のシールを取り出した。

 手のひら大のサイズで、キラキラのワンちゃんシールだ。確か、この子のお気に入りの一枚だったはず。もしかして親愛の証かな。


「なんだこれ……?」


「シールだよ! これをぺたってしたら、フェアリープリンセスたちがたすけにきてくれるの! なかよしのシルシ!」


 エマは拙いながらも大興奮で説明する。

 最近見たフェアリープリンセスの回に、ちょうどシールが登場したんだよね。敵に連れ去られたキャラがシールで合図を送る、といった内容だ。


 要するに、シールの贈呈は親愛の証で間違いなかったらしい。

 リリとルル、それにサリアさんも合間に声を合わせつつ補足してくれている。そしてタリクくんは、話を聞き終わると……。


「ふーん。よくわかんねーけど、ありがとな!」


 ぜんぜん伝わってない……まあ、いいか。こういうのは気持ちだからね。

 それにしても、この子たちは本当に心優しいね。あまりに純真で、ただ会話しているだけでもじんわり心が和む。


 ひとまずお礼にみんなの頭を撫で回すか、と俺は手を伸ばした。

 ところが、その瞬間。


「失礼、貴殿がこの炊き出しの責任者と伺いました。お間違いないですか?」


 背後から渋い声が飛んでくる――急にピリッと空気が引き締まった気がした。

 同時にサリアさんが、風のような身のこなしで俺をかばうように立ちふさがる。フィーナさんの笑顔もどこか固い。よそ行きって感じだ。


「そこで止まれ。何者だ?」


「そう警戒しないでください。いきなり飛びかかったりしませんよ」


 気づけば、周囲にカーティスさんたちの姿もあった。

 いったい何が……俺は体を反らし、サリアさんがトゲの混じった誰何を突きつけた相手の容貌を確認する。


 少し離れた場所に、二人の見知らぬ人物が佇んでいた。

 片方は、顔に傷を持つ大男。もう片方はダークブラウンの髪と髭を蓄え、どこか隙のなさそうな精悍な顔立ちの男だ。


 共に異世界でいう普通の人間で、年齢は三十代前後といったところ。服装もこちらでは一般的なものだ。

 俺に何か用事があるみたいだけど……はて、どちら様でしょう?

本作の書籍の予約が開始されました。詳しくは活動報告をご確認くださいませ。

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ヨドバシで予約しましたー!、しかし最近のラノベは高ぇな・・・
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