海の見える街で(後編)
勇者はカニに吹き飛ばされた。
「おい、流石に飛ばしすぎだろ。何、このカニ」
「カニ…サンタさんも言ってたけど、私知らない。あと、タカキは笑うから必要なところしか見せない」
思ったより怒っているようだ。なんとか宥めすかし、機嫌を直してもらった。その間10分。一度ヘソをまげると意外と難しい。
「それで、この後どうなるんだ?」
「えーっと、この後はサンタさんに運んでもらって…」
「強いな、サンタさん。カニから逃げたのか」
「うん、サンタさんはすごく足が速いんだよ。私をソリに乗せて…」
元ネタ知ってるんじゃないだろうな、サンタさん。
「続きから再生してくれ」
「うん。じゃあ、街に戻ってからね」
再び画面が映し出された。そこには、大きな港町が映っていた。街のすぐ横は深い青色の海が広がっており、港には白い船が何隻も止まっている。ハイライトが美しい。そして、市場らしき場所には色とりどりの魚が、あちこちで売られている。この魚もまた、美しい。
「というか、めっちゃ良い魚じゃないか!」
「うん、ここヴィルフィアは有数の港町なんだって」
「それは羨ましいな。この村、魚はあんまり買えないんだよな」
「魚はすぐに傷んじゃうからね〜。それに、この街も、外に出ることが難しいし…」
「ああ、さっきのカニか」
「うん…」
アポロは再び暗い顔になった。彼女は、勇者として魔物を倒す使命がある。しかし、最近まで村の外に魔物がいることすら知らなかったのだ。仕方がないことではあるのだが、彼女は大きな自責の念を抱えている。
僕は、アポロの頭を撫でた。できる限り優しく。今度は、彼女は嫌がらなかった。
「それで、その干物をもらって帰ってきたんだな」
「うん、鮮魚が売れないから干物をたくさん作ってるんだって」
「そうか…」
たしかに街の規模感と、買い物客の数があっていなかった。色とりどりの魚も、少しだけ悲しく感じる。
「良し、じゃあその干物を美味しく頂こうじゃないか!」
「うん…」
アポロは相変わらず元気がない。
良し、ここは美味しい干物を食べさせるしか無さそうだ。
「アポロ、食べよう!元気出してくれ!」
「うん…お腹減った…」
「じゃあ早く作ろう。今回はちょっとだけ外に出るぞ」
「外に?干物って焼くだけって、サンタさんが言ってたよ」
「もちろん焼くだけで美味しい。けれど、せっかくの良い干物だ。最高に美味しいやり方で味わおうじゃないか」
「最高に、美味しい、やり方…?」
アポロの顔がパッと明るくなった。うん、やっぱり彼女は明るい表情の方が似合う。僕はこの笑顔が見たいだけなのかもしれない。
「あっ、ちょっと待って!奇跡を止めるね!」
そういえば、映像が流れたままになっていたんだった。
二人そろって映像の方を振り返ると、そこには、先ほどの逆ラッキーなんとやらが、巨大スクリーンに映し出されていた。自分のその部分をまじまじと見ることなんてない。ましてや、巨大な画面で。きっとこれは人生で最初で最後の経験だろう。というかもう二度と見たくない、
アポロは一瞬で映像を止めた。そして、それからアポロは買い物に行ってから、帰ってくるまでの間一度もこちらを見ることはなかった。
僕はアポロの笑顔が見たかっただけなのに。




